基底細胞がん
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

基底細胞がんの概要

基底細胞癌は皮膚癌の一種で、表皮の基底層にある細胞から発生します。基底細胞癌は特に顔や首、耳など、日光にさらされやすい部位に多く見られ、皮膚癌全体の約80%以上を占めるとされています。

ほかの皮膚癌と比較して進行が遅く、遠隔転移を起こす頻度が低いことが特徴ですが、がんの一つではありますので、放置すると局所的に浸潤して大きくなり、周囲の組織や骨を破壊することがあります。早期の診断と治療が重要です。

基底細胞がんの原因

基底細胞癌の主な原因は紫外線への長期的な曝露ですが、複数の要因があるとされています。以下が主な原因となりうるものです。

紫外線(UV)曝露

日光のUVA波やUVB波がDNA損傷を引き起こし、細胞に突然変異を生じさせることが、基底細胞癌の最も主要な原因です。日光を多く浴びる環境や職業(農業、漁業など)に従事する人々が特にリスクが高まります。

加齢

基底細胞癌は主に中高年に多く見られます。長年の紫外線曝露によるダメージが蓄積されるため、年齢とともにリスクが増加します。

皮膚の色

皮膚の色が明るく、メラニンが少ない人は紫外線に対する防御力が低く、基底細胞癌のリスクが高くなります。

免疫抑制

臓器移植後に免疫抑制剤を使用している人やHIV感染者は、免疫力の低下により皮膚癌の発生リスクが高まります。

遺伝的要因

基底細胞母斑症候群(Gorlin症候群)など、遺伝的な体質が基底細胞癌のリスクに影響することもあります。

化学物質の曝露

ヒ素などの特定の化学物質に長期的に接触することも、発癌リスクを高めるとされています。

特に日光に多くさらされる職業や生活習慣を持つ人々がリスクが高いとされています。

基底細胞がんの前兆や初期症状について

基底細胞癌の初期症状は一般的にゆっくりと現れるため、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが多いです。基底細胞癌はしばしば皮膚に小さな硬い結節として始まり、色は肌色から淡いピンク、赤色などさまざまで、光沢があることが特徴です。

この結節が成長するに従い、中央部が陥凹して潰瘍化したり、出血したりすることがあります。また、皮膚表面に毛細血管が拡張して見えたり、表面がかさぶた状になることもあります。

日光にさらされやすい顔や首、手の甲などに多く発生し、特に皮膚が薄くて日焼けしやすい場所に出やすい傾向があります。進行が遅いため、ほかの皮膚病変と見分けがつきにくいことがあり、長期間気づかれないこともあります。しかし、放置すると徐々に周囲の組織へ浸潤し、骨や軟部組織を破壊する可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。光沢がある病変や出血が続く場合は早めに皮膚科を受診しましょう。

基底細胞がんの検査・診断

基底細胞癌の診断には、視診から組織検査まで複数の検査が必要です。以下に主要な検査方法を簡潔に説明します。

視診・触診

最初の診察では、医師が皮膚の異常部分を視覚的に確認し、触診で硬さや質感を確かめます。基底細胞癌は特有の光沢や血管拡張、潰瘍形成などが見られるため、これらの特徴が判断材料になります。

ダーモスコピー

拡大鏡を使用し、皮膚表面を詳細に観察する非侵襲的な検査法です。診断においては、ダーモスコピーが特に有用であり、葉状構造や特有の血管パターンなど、基底細胞癌に特異的な所見が確認できます。短時間で行えるため、初期診断として普及しています。

生検(組織診)

疑わしい病変が確認された場合には、最終的な診断を確定するために生検が行われます。局所麻酔のもとで小さな皮膚組織を切り取り、顕微鏡で病理学的に検査します。

画像診断(CTやMRI)

腫瘍が大きい場合や、浸潤が疑われる場合には、画像診断が行われます。CTやMRIを用いることで、基底細胞癌が周囲の組織や骨にどの程度浸潤しているかやリンパ節の転移の有無を確認でき、治療計画に役立ちます。特に顔面や頭部に発生した場合には、これらの画像検査が必要になることが多いです。

基底細胞がんの治療

基底細胞癌の治療は、腫瘍の大きさや位置、患者さんの年齢や全身状態により異なります。一般的な治療法には以下のような方法があります。

外科的切除

最も一般的な治療法であり、腫瘍周囲の正常組織とともに切除することで、再発のリスクを最小限に抑えます。顔面などの外見に大きな影響がある部位の場合、形成外科的な修復も併用されることがあります。手術中は麻酔の効果で痛みは感じませんが、術後は軽度の痛みや違和感が数日間続くことがあり、経過観察が必要です。

モース顕微鏡手術

特に顔面や手の基底細胞癌に対して行われる精密な手術方法です。切除した組織の断片をリアルタイムで顕微鏡で観察しながら、がん細胞が残らないように切除範囲を決定するため、再発率が低いとされています。局所麻酔で行われるため、施術中の痛みは少ないですが、通常の手術よりも時間がかかります。特に大きな病変や再発が懸念される場合、何度かの手術を繰り返す必要がある場合もありますが、再発率が低いとされています。

放射線治療

切除が困難な場合や高齢で手術が適応とならない場合には、放射線治療が行われることがあります。副作用として色素沈着や皮膚炎が発生することがありますが、局所的な制御に有効です。治療自体は痛みを伴わず、外来で受けられるため身体的な負担が少ないのが利点です。治療期間が数週間から数カ月にわたる場合があり、スケジュールの調整が必要な場合があります。色素沈着や皮膚の乾燥、かゆみといった副作用が発生することがあり、特に顔面に照射を行う場合は美容的な変化についても考慮が必要です。

凍結療法(クライオセラピー)

病巣が小さいときに行われる低温療法です。液体窒素を使用して腫瘍を凍結し、細胞を壊死させます。施術中には一時的な冷たさや軽い痛みを感じることがあり、続く場合は経過観察が必要です。

薬物治療(免疫療法や標的治療薬)

最近では進行性の基底細胞癌に対して、ビスモデジブなどの経口薬が使用されています。これらの薬は基底細胞癌の増殖を抑える作用がありますが、副作用のリスクもあるため慎重な管理が必要です。薬物治療は薬によっては経口投与が可能ですが、長期服用が必要なため、吐き気や下痢、味覚異常などの副作用が出ることがあります。定期的な血液検査や診察を受けながら、副作用を管理しつつ治療を継続するため、医師との密な連携が求められます。

基底細胞がんになりやすい人・予防の方法

基底細胞癌の発生リスクが高いのは、特に以下の特徴を持つ人々です。

日光曝露が多い人

屋外での活動が多い人や長時間日光に晒される職業の人々はリスクが高まります。

高齢者

加齢とともに皮膚が紫外線のダメージを受けやすくなるため、高齢者は基底細胞癌の発生率が高いです。

皮膚の色が明るい(白い)人

色素が少ないため紫外線の影響を受けやすい傾向にあります。

免疫抑制状態にある人

臓器移植後の免疫抑制剤の使用者やHIV感染者は皮膚癌全般のリスクが高くなります。

遺伝的要因がある人

基底細胞母斑症候群(Gorlin症候群)など遺伝的に基底細胞癌が発生しやすい状態の人もいます。

予防策としては、紫外線防御が最も有効です。日焼け止めの使用や帽子、サングラス、長袖の着用、日差しの強い時間帯を避けることが推奨されます。日焼け止めについては一般的に紫外線防御性の強さを表すSPFという数値が30以上のものを使って紫外線をしっかり防護することが重要です。また、定期的に皮膚を自己チェックし、新しい異常や腫瘤を発見した場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。


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  • 遺伝性基底細胞母斑症(ゴードン症候群)
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