監修医師:
高藤 円香(医師)
掌蹠角化症の概要
掌蹠角化症(しょうせきかくかしょう)とは、手のひらと足の裏の角質層が分厚く、硬くなる疾患です。
もともとの遺伝子が原因でなる先天的要因と、中年期以降にさまざまな原因でなる後天的要因がありますが、一般的に先天的要因のものを「掌蹠角化症」とよびます。
掌蹠角化症は、病型によって特徴や症状が異なりますが、一般的には以下のような特徴がみられます。
- 主に手のひらと足の裏に症状が出現する
- 皮膚の角質層が異常に分厚く、硬くなる
- 病型により異なるが、多くの場合、生後数ヶ月から乳幼児期に発症する
掌蹠角化症は、病型によって皮膚以外にも症状がみられることもあり、腫瘍や他臓器の異常を伴うといったさまざまな病態を示します。
日本人を含むアジア人で最も多くみられる掌蹠角化症は「長島型掌蹠角化症」と呼ばれる病型であり、日本には約1万人の患者がいると推測されています。
掌蹠角化症の原因
掌蹠角化症の主な原因は、生まれ持った遺伝子によるものです。皮膚の角化に関与するタンパク質の異常によって引き起こされると言われています。
常染色体優性遺伝や常染色体劣性遺伝などの遺伝形式を取ることがほとんどであり、後天的に発症するケースは稀です。
ただし、一部の掌蹠角化症の中には、まだ掌蹠角化症の原因が特定されていないものもあり、現在も研究が進んでいます。
掌蹠角化症の前兆や初期症状について
掌蹠角化症の前兆や初期症状は、病型によって異なります。
主な病型の発症時期と初期症状は以下のとおりです。
病型 | 発症時期 | 初期症状 |
---|---|---|
Vörner型 | 生まれてすぐ | ・手のひらや足の裏が赤くなる ・皮膚が徐々に厚くなり始める |
長島型 | 生まれてすぐ~3歳ごろまで | ・手のひらや足の裏などが強く赤くなる ・手足の汗が多くなる ・手を水に浸すと、5~10分で皮膚が白くなる |
線状・円型 | 症状が完成するのは青年期以降 | ・手のひらや足の裏が赤くなる ・線や丸い形の硬い皮膚ができ始める |
Papillon-Lefèvre症候群 | 乳幼児期 | ・手のひらや足の裏が赤くなる ・手や足の先が赤くなる ・歯茎のトラブルが現れる |
指端断節性(Vohwinkel) | 乳幼児期 | ・爪の周りや手のひら、足の裏が赤くなる ・爪が厚くなり始める |
掌蹠角化症は、上記以外にもさまざまな病型があり、症状も異なるため、気になる症状があった際は皮膚科医に相談しましょう。
掌蹠角化症の検査・診断
掌蹠角化症の検査には水浸試験や皮膚生検などがあります。
診断は検査結果と臨床所見を総合的に評価して行われます。
掌蹠角化症の検査
検査 | 内容、特徴 |
---|---|
水浸試験 | ・手足を水に10分ほど浸す ・病変部分が白く柔らかくなるかを確認する ・特に長島型掌蹠角化症の診断に有用 |
皮膚生検 | ・皮膚が分厚くなっているところから、組織を採取する ・顕微鏡で、表皮の肥厚や角質層が分厚くなっていないかを確認する |
遺伝子検査 | ・各病型に関連する遺伝子の変異を検出する ・遺伝子検査は保険適用外であるため、基本的には自費になるが、研究目的で遺伝子検査が行われる場合もある。 |
掌蹠角化症の診断
掌蹠角化症の臨床所見として、主に以下の点を確認します。
- 手のひらと足の裏の皮膚が分厚くなっていないか
- 症状がいつから出てきたか
- 家族に掌蹠角化症と診断された人はいないか
皮膚の異常を引き起こす疾患は掌蹠角化症以外にも、アトピー性皮膚炎や乾癬、手足の接触性皮膚炎などがあります。そのため掌蹠角化症の診断では、これらの別の疾患の可能性を除外する必要があります。
掌蹠角化症は、先天的なものが多いことや特徴的な所見が見られることから、症状が出てきた時期と他の家族に掌蹠角化症の人がいないかや水浸検査の結果が、診断の手がかりになります。
掌蹠角化症の治療
掌蹠角化症の治療は、主に症状に対するアプローチが中心です。
治療 | 内容 |
---|---|
外用療法 | ・10%サリチル酸ワセリンを1日2~3回患部に塗る。 ・皮膚軟化剤や角質溶解剤を使う |
内服療法 | ・レチノイド(チガソン10mg)を1日4カプセル、2回に分けて服用する(症状が強い場合) |
物理的治療 | ・コーンカッターや長柄カミソリなどを用いて角質を物理的に削る |
外科的治療 | ・手指の皮膚が輪っかのように締め付けられている場合や皮膚の分厚さが強い場合、植皮も考慮される |
その他 | 二次感染や合併症がある場合は、疾患に応じた治療を行う |
上記の治療法は、症状の程度に応じて選択されます。掌蹠角化症は長期的な管理が必要となるため、皮膚科医の指導のもと、適切なケアを継続しましょう。
また、病型によってはがんなどの合併症が起きる可能性があるため、合併症に対する治療も同時に行う必要があります。
掌蹠角化症になりやすい人・予防の方法
掌蹠角化症は、主に遺伝性疾患であるため、家族に掌蹠角化症の人がいる場合は、発症するリスクが高くなります。
また、日本人の約50人に1人が「長島型掌蹠角化症」の保因者(発症の原因となる遺伝子を持っているものの発症していない人)であると言われています。
掌蹠角化症は、遺伝性疾患であることから、完全に予防することは難しいですが、家族に掌蹠角化症の人がいる場合は、遺伝カウンセリングを受けることで、リスクや対策について相談することができます。
「皮膚が分厚くなってきた」「手のひらや足の裏が赤い気がする」といった、気になる症状がある際は早めに皮膚科医へ相談することが大切です。
関連する病気
- Howel-Evans症候群
- Unna-Thost病
- Vorner病
- Papillon-Lefèvre症候群
- Vohwinkel症候群
- びまん性非表皮融解性掌蹠角化症
- 長島型掌蹠角化症
- Meleda病
- Greither病(進行性掌蹠角化症)
- 指端断節性掌蹠角化症
- Huriez症候群(指趾硬化症を伴う掌蹠角化症)
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- 点状掌蹠角化症
- 先天性爪甲厚硬症
参考文献