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菌状息肉症
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

菌状息肉症の概要

菌状息肉症とは、皮膚に発生する悪性リンパ腫の一つです。リンパ球の一種であるT細胞が、皮膚で悪性化した病気です。
皮膚に発生する悪性リンパ腫はまれですが、皮膚原発悪性リンパ腫の中ではもっとも頻度が高い疾患です。リンパ腫全体では1%にも満たないとされています。発症年齢中央値は60歳代で、男性に多い疾患です。この病気は、フランスの皮膚科医により1806年に初めて報告されました。腫瘍期の見た目がマッシュルーム状の病変であったことから由来しています。当初その形から真菌症(カビによる病気)と考えられていましたが、のちに真菌症でなく悪性リンパ腫の一種であることが判明しました。

菌状息肉症の原因

菌状息肉症は、皮膚に存在するリンパ球の一つのT細胞が腫瘍化することで発症します。リンパ球とは、体の免疫機能を司る細胞で、白血球の一種です。リンパ球はB細胞、T細胞、NK細胞の3つに分類されます。それぞれが免疫機能をもち、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を攻撃します。リンパ球は血液中やリンパ組織に多く存在しますが、皮膚やほかの臓器にも存在することが知られています。菌状息肉症は、皮膚に常在するTリンパ球が腫瘍化したものと考えられています。
この病気は遺伝性はなく、病気の発症に関与している特定の原因遺伝子やウイルスは明らかではありません。

菌状息肉症の前兆や初期症状について

菌状息肉症は、数年~数十年という長い時間をかけ、慢性に進行します。
病気の進展によって紅斑期、扁平浸潤期、腫瘤期の3段階に分かれます。

紅斑期

あきらかな盛り上がりがない、境界がはっきりとしたカサカサした紅斑が、体幹や四肢の皮膚に現れます。特に殿部や下肢などの、日光の当たらない部分に出現しやすいとされています。かゆみはありません。湿疹や乾燥肌のような見た目をしているため、湿疹や乾癬といったほかの皮膚疾患と間違われやすく、この時点で菌状息肉症と診断するのは熟練した皮膚科医でも困難と言われています。
ステロイド外用薬が効果がある場合もありますが、一般的には皮疹は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、ゆっくり拡大していきます。進行の経過には個人差が大きいとされています。

扁平浸潤期

紅斑期から数年~数十年が経過すると、紅斑の赤みが強くなり表面がざらついて厚さを増し、盛り上がってきます。触ると硬く感じます。扁平浸潤期には、紅斑期にはなかったかゆみが出現することもあります。

腫瘤期

さらに病状が進行すると、病変が盛り上がり、1cm以上の腫瘤を形成します。痛みはありません。この腫瘤はびらんや潰瘍(正常な皮膚が損傷し、血液や体液が出てくる状態)を起こし、出血することもあります。
さらに進行すると、病変がリンパ節、血液、内臓などに進展し、発熱、だるさ、体重減少などの全身症状がみられるようになります。

菌状息肉症を疑う皮疹があった場合は、皮膚科を受診し医師に相談するようにしましょう。

菌状息肉症の検査・診断

菌状息肉症が疑われた場合は、皮膚の病変の一部を切除(生検)し検査を行います。顕微鏡で病変を確認し、T細胞が腫瘍性に増殖していることを確認します。ほかにも、免疫染色でT細胞のマーカーであるCD3、CD4などをみます。臨床経過、病理組織検査、免疫染色検査を行っても、炎症性の病変との鑑別が難しい場合もあります。その場合は、PCR法やサザンブロット法でT細胞が腫瘍性に増殖していることを確認する場合もあります。
一度の生検では診断がつかないことも多いため、菌状息肉症が疑われる場合は繰り返し生検を行う必要があります。
菌状息肉症の診断がついた場合、病変部の広がり(病期)を確認するために、画像診断を行います。画像診断には造影CT、PET-CTなどがあります。リンパ節が腫れている場合は、リンパ節に病気が浸潤しているかの確認のためにリンパ節の生検を行います。血液検査でなんらかの異常があるときは、造血組織である骨髄の検査を行います。
これらの検査から、病期分類であるTNMB分類を行います。TNMB分類は、皮膚病変の範囲、リンパ節病変、内臓病変、血液中のリンパ球の状態を総合して分類します。
なお、皮膚の病変と全身のリンパ節腫脹に加えて、血液中にセザリー細胞という特徴的な細胞が出現する疾患をセザリー症候群といいます。菌状息肉症とセザリー症候群は別の疾患かどうかがはっきりわかっていませんが、治療法も共通点が多く、同列に扱われることが多い疾患です。

菌状息肉症の治療

菌状息肉症は、病期によってさまざまな治療方法があり、患者さんの状態に応じて治療選択を行います。
皮膚病変の面積が少ない早期病変の場合には、症状進行はゆっくりで約90%の患者さんは安定した状態を保ちます。5年生存率は80~100%と高く、場合によっては自然に病変が消失することもあります。
しかし進行した場合、現時点では、同種造血幹細胞移植以外に菌状息肉症を治癒させる治療はありません。症状緩和が治療の目標となります。いろいろな治療を用いていったん落ち着いても再発する場合が多いため、状態に応じて別の治療に切り替えながら治療を行います。病変のかゆみや、見た目による心理的な負担、病変自体が皮膚感染症のリスクになりうることなどを考え治療を検討します。

早期の治療

早期(紅斑期、扁平浸潤期)では、ステロイド外用、紫外線照射(ナローバンドUVB療法、PUVA療法)、放射線照射が用いられます。紫外線照射は特に効果が高く、初期の菌状息肉症では特に効果が高いとされています。1週間~1ヶ月に1度程度の照射を行うことで、長期寛解が望めます。皮膚の治療に必要な波長の紫外線を照射するため、副作用が少ないとされています。
これらの治療に難治性の場合は、インターフェロンガンマなどを使用します。ビタミンA誘導体(レチノイド)、ヒストン脱アセチル化酵素(HCAC)阻害薬による薬物治療も検討されます。

進行期の治療

進行期(腫瘤期)になると、全身療法を行います。従来は多剤併用化学療法が行われていましたが、近年は従来の抗がん剤とは異なる作用機序の薬剤が多く登場し、治療選択肢が増えました。その一つに抗体薬があります。抗体薬とは、腫瘍細胞の表面にある分子に対する抗体であり、腫瘍細胞に特異的に結合して破壊するため治療効果が高く、副作用が少ない薬剤です。抗体薬にはポテリジオ(抗CCR4抗体)、ブレンツキシマブベドチン(抗CD30抗体)などがあります。そのほかの治療としてはデニロイキンジフチトクス(IL-2免疫毒素)などが承認されています。いずれも既存の治療で効果がなかった患者さんに使用されます。病状によっては、全身皮膚電子線照射が行われる場合もあります。
若く強力な治療に耐えうる患者さんで、進行期の菌状息肉症で予後不良が予想される場合は、治癒を目指した治療として同種造血幹細胞移植が検討されることもあります。

菌状息肉症になりやすい人・予防の方法

菌状息肉症の原因はわかっていないため、予防は困難です。
しかし、菌状息肉症を早期で発見することができると生命予後は良く、進行するにつれて生存率が大きく低下するため、早期発見が重要です。紅斑期はほかの病気との鑑別が難しく、診断が困難である場合が多いですが、長期的に経過観察を行うことで診断されることもあります。一度の生検では診断がつかないこともあるため、疑わしい場合は何度も検査を行うことが必要です。


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