監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
膿疱の概要
膿疱(のうほう)は、皮膚にできる小さな膿(うみ)の入った白から黄色の水疱です。
その原因は、細菌やウイルスなどの感染によるものと、炎症反応や遺伝、環境など感染以外のものに大きく分けられますが、原因の特定が難しい場合もあります。
膿疱の周囲は赤くなり、腫れて熱感やかゆみ、痛みを伴う場合が多く、原因によっては発熱や頭痛、のどの痛みなど皮膚以外の症状も出現します。
膿には、白血球などの細胞や壊れた組織のほか、細菌やウイルスが含まれていることがあります。
細菌やウイルスが膿に含まれている場合、膿と接触した人が感染する可能性があるので注意が必要です。
膿疱の原因
膿疱の原因は、感染や自己免疫疾患、薬剤によるものなど多岐にわたります。主な原因として考えられるのは以下です。
細菌感染
一般的な原因菌として、黄色ブドウ球菌や化膿性連鎖球菌、緑膿菌などがあります。
ウイルス感染
単純ヘルペスウイルスや水痘帯状疱疹(すいとうたいじょうほうしん)ウイルス、コクサッキーウイルスなどが水疱や膿疱を形成します。
真菌感染
カンジダ菌などの真菌類が膿疱を形成することがあります。真菌類は免疫力が低下している場合に感染しやすく、湿潤した環境で特に繁殖します。
アレルギー反応
特定の薬剤や金属などの化学物質、食物によるアレルギー反応が膿疱形成の原因となります。アレルゲンが皮膚に接触すると、免疫システムが過剰に反応し、炎症を引き起こします。
自己免疫疾患
自己免疫疾患には、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)などが含まれます。自己免疫疾患では、免疫システムが誤って自己の細胞を攻撃することで、膿疱を形成します。
ホルモンバランスの乱れ
思春期や妊娠、更年期など、ホルモンバランスの変化が膿疱の原因となります。特に思春期には皮脂の分泌が増加し、膿疱が発生しやすい状態になります。
環境要因
高温多湿や過度な日焼け、ストレスなど、皮膚のバリア機能を低下させ、間接的に膿疱の原因となることがあります。
特定の薬剤の副作用
ステロイド薬や免疫抑制剤、抗菌薬や抗生物質など一部の薬剤が膿疱を引き起こすことがあります。
膿疱の前兆や初期症状について
膿疱を形成する要因は多岐にわたります。原因により膿疱が出現する部位や、初期症状が異なります。一般的な前兆として、皮膚の赤みや腫れ、かゆみ、痛みが見られることがあります。このような症状が現れた場合は、まずは皮膚科を受診しましょう。
以下に原因による膿疱形成の違いを示します。
膿疱性乾癬(汎発型)
焼けるような熱感のあとに皮膚が赤くなり、発熱やむくみが見られ、全身に水疱が出現します。
ヘルペスウイルス感染
帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、体内に潜んでいるヘルペスウイルス(VZV)が、免疫の低下により再び活動を始めることで発症します。かゆみや痛みが1週間ほど続いた後、体の左右どちらかの神経にそって疼痛や、透明な水疱が現れ、膿疱へと変化します。
掌蹠膿疱症
手のひらや足の裏に水疱ができ、膿疱へと変わります。水疱と膿疱が混在して見られますが、膿疱が形成されない場合もあります。
膿疱の検査・診断
膿疱の診断では、まず膿疱が感染によりできたものか、感染以外の原因によるものか区別し、原因を特定するために、以下の検査が行われます。
培養検査
膿疱の膿や、皮膚の細胞を採取して培養し、感染に関与している原因菌を特定します。
血液検査
白血球数やCRP値(C反応性タンパク質)を測定し、体の中でどの程度の炎症が起きているのか評価します。CRP値は、体内で炎症が起こっていることを示す重要な指標です。そのほかにも、必要に応じて免疫反応の状態を確認するために血清アルブミンや、感染の原因を探るため血液培養なども実施されます。
組織生検
皮膚の一部を採取して、顕微鏡で観察し、膿疱の原因を詳しく調べます。組織生検は、組織の異常や、病変を特定するのに役立ちます。
アレルギー検査
アレルギー反応が膿疱の原因と考えられる場合、パッチテストなどのアレルギー検査を行い、アレルギーの原因を特定します。特定により、アレルギーの原因を避ける対策が可能となります。
画像検査
他の病気に関連した膿疱が疑われる場合、レントゲンやMRI検査、エコー検査など画像検査を行い、膿疱の原因や体内の異常を詳しく調べます。
膿疱の治療
膿疱の治療方針は、原因によって異なります。膿疱の原因を特定し、その原因に合わせた治療が行われます。
細菌感染による膿疱の場合、主に抗生物質の内服や外用薬が処方されます。感染を起こしている細菌を検査により発見し、その細菌に効果が認められた抗生物質が選択されます。
ヘルペスウイルス(VZV)による膿疱では、ウイルスの増殖を抑え症状の悪化を防ぐ抗ウイルス薬と、痛みに対して消炎鎮痛剤が処方されます。抗ウイルス薬が開発されていないウイルスに起因する膿疱形成では、症状に対する治療と感染拡大など合併症を予防するための治療が行われます。
カンジダなどの真菌類による膿疱には、外用や内服の抗真菌薬が処方されます。真菌類による皮膚炎は、皮膚のこすれや、皮膚が密着する場所に発生しやすいので、清潔を保ち、皮膚が乾燥するよう環境を整えることも大切です。
アレルギー反応が原因の膿疱では、検査でアレルギーを起こす物質(以下:アレルゲン)を特定し、アレルゲンへの接触を避けることが最も重要です。抗ヒスタミン薬やステロイド薬を処方し、炎症を抑える治療も行われます。
自己免疫疾患では、免疫抑制剤やステロイド薬を使用した免疫抑制療法が行われます。免疫システムの過剰反応を抑えることで、膿疱の形成を防ぎます。
ホルモンバランスの乱れや、環境要因が膿疱形成の原因となっている場合は、年齢や症状に応じて外用薬か内服薬が処方されます。環境や生活習慣の改善も必要となることがあります。
特定の薬剤使用による膿疱では、原因となる薬剤の中止や変更、出現している症状を和らげるための治療が行われます。
膿疱になりやすい人・予防の方法
膿疱になりやすい人
膿疱を形成するリスクが高い人は、免疫力が低下している人、アレルギー体質の人、皮膚の清潔を保てない人です。
免疫力が低下すると細菌やウイルスに感染しやすくなるため、膿疱ができるリスクが高くなります。免疫力を低下させる要因として、糖尿病などの慢性的な病気、抗がん剤や免疫抑制剤、ステロイド薬などの薬剤の使用、ストレスや過労、栄養不足などがあります。
アレルギー体質の人は、特定の物質に免疫が過剰反応することで炎症が起き、皮膚のバリア機能が低下します。バリア機能が低下すると、外部からの刺激や病原体に対する防御が弱くなり、膿疱を形成しやすくなります。
皮膚が重なる部分が常に湿潤している方や、さまざまな理由で皮膚の清潔が保てない方も、感染によって膿疱ができやすい状態になります。
予防の方法
適切なスキンケアが膿疱の予防につながります。皮膚の定期的な洗浄と保湿は、皮膚のバリア機能を維持します。通気性や吸水性の良い衣類を選び、持続的に皮膚がこすれたり、湿潤したりする状態を避けることも重要です。
手洗いやうがいなど基本的な感染予防は、外部からの病原体の侵入を防ぎます。バランスの取れた食事や十分な睡眠、適度な運動など、免疫機能の維持に努めます。特に、糖尿病や免疫力に影響を与える病気をお持ちの方は、定期的に医師の診察を受け、病状の安定を図りましょう。
また、かゆみや痛み、水疱など皮膚の症状が現れたら、早期に皮膚科を受診し、適切な治療を受けることも重要です。
関連する病気
- 尋常性ざ瘡(Acne Vulgaris)
- 膿皮症(Pyoderma)
- 水疱症(Pemphigus)
- 単純疱疹(Herpes Simplex)
- 膿疱性乾癬(Pustular Psoriasis)
参考文献