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毛虫皮膚炎
井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

毛虫皮膚炎の概要

毛虫皮膚炎とは、チョウやガの幼虫が持つ有毒な毛(毒針毛:どくしんもう)に触れることで起きる皮膚炎です。
刺された虫の種類によって異なりますが、チクチクとした痛みや強いかゆみが現れます。毛虫皮膚炎の多くはツバキやサザンカ、チャなどの木につくチャドクガの幼虫によって起こりますが、地域によってはカエデやカキ、ケヤキ、サクラなどのさまざまな木につく「イラガ類」によって起こるケースもあります。
毛虫が多く発生する4〜6月、8〜9月に多く起こります。

毛虫皮膚炎の原因

毛虫皮膚炎の多くは、チャドクガというガの幼虫が持つ長さ0.1〜0.2mmほどの毒針毛が原因です。チャドクガは身体の表面に多くの長い毛を持ちますが、毒針毛はとても細かく、身体の表面の毛とは別のものです。

以前は毒針中の毒成分によるかぶれ(刺激)が毛虫皮膚炎の原因といわれていましたが、現在は毒針の中に含まれるプロテアーゼ、エステラーゼ、ヒスタミンなどによるアレルギー反応も関与すると考えられています。チャドクガは卵、幼虫、さなぎ、成虫、死骸の全ての期間で毒針毛を持ちます。1匹のチャドクガが持つ毒針毛は成長具合によってさまざまで、さなぎになる直前の幼虫は50万本もの毒針毛を持つといわれています。毒針毛は簡単に幼虫から抜け落ちるため、直接触らなくても被害が生じるのです。
そのため、毛虫に直接触れていない以下のような状況でも、毛虫皮膚炎が起こります。

         

  • 洗濯物に毒針毛が付いていた
  • 服の隙間から毒針毛が入ってきた
  • 毛虫の抜け殻や卵、死骸に触れた
  • 風で飛んできた毒針毛が皮膚に触れた

チャドクガ以外では、イラガ、ヒロヘリアオイラガも、毛虫皮膚炎を起こす毒棘(どくきょく)を持ち、毛虫皮膚炎を引き起こします。ただし、チャドクガと異なりイラガ類は、成虫に触れてかぶれることはありません。
チャドクガはツバキやサザンカ、チャの木、イラガ類はクスノキ、ソメイヨシノ、カキ、カエデなどのさまざまな木に発生します。毛虫が発生しやすい4月から9月ごろに木に近づく場合は、毛虫がいないかをよく確認しましょう。

毛虫皮膚炎の前兆や初期症状について

毛虫皮膚炎の初期症状は、人によって大きな差があります。かゆみやぶつぶつが辛いときは、皮膚科を受診しましょう。
また、目に症状があらわれた際は眼科へ受診してください。

チャドクガによる毛虫皮膚炎の場合

チャドクガによる皮膚炎は、毒針毛に含まれる物質によるアレルギー症状です。アレルギーは初めて触れるものには現れず、2回目以降にその物質に触れたときに現れます。そのため、チャドクガの毒針毛でかゆみが出るかは、今まで毛虫に触れたことがあるかによって異なるのです。

今までに毛虫に刺されたことのある人は、毒針毛に触れるとすぐに強いかゆみと腫れが現れ、しばらくするとしこりのある赤いぶつぶつが見られるようになります。個人差がありますが、症状が強く表れるのは刺されてから数日間で、治るまでの期間は1〜2週間ほどです。

刺された部分を掻くと毒針毛が皮膚のほかの部位にも広がり、かゆみの範囲も広がります。悪化させないためには、かゆみがあっても搔きむしらないことが大切です。

イラガやヒロヘリアオイラガによる毛虫皮膚炎の場合

イラガやヒロヘリアオイラガの幼虫による毛虫皮膚炎は、毒棘に含まれる成分による直接的な刺激とアレルギー反応の両方が原因です。
イラガやヒロヘリアオイラガの毒針に触れると、すぐに激しい痛みや腫れ、赤いぶつぶつが現れます。通常、強い刺激感は1〜2時間で治まりますが、翌日以降にかゆみやしこりのある赤いぶつぶつが出る人もいます。

毛虫皮膚炎の検査・診断

毛虫皮膚炎は、皮膚の状態と毛虫に近づいたかを確認する問診によって診断されます。
かゆみやぶつぶつの状態で判断がつくこともありますが、症状の強さや出るタイミングに個人差があるため、じんましんとの鑑別が難しいケースもあります。ただし、腕や足などの服から露出する部位に左右非対称の強いかゆみを伴う赤いぶつぶつが多く出ている場合は、毛虫皮膚炎を疑います。
正確に診断できるよう、外で作業をしていた、毛虫を見かけた・明らかに触ったなどの場合は必ず医師に伝えてください。

毛虫皮膚炎の治療

毛虫皮膚炎を疑う場合は、原因となる毒針毛の除去が重要です。ドクガ類の幼虫に触れた場合は、すぐにビニールテープやガムテープで毒針毛を貼り付けてはがすことを繰り返し、毒針毛を除去します。その後は石鹸と水でよく洗い流しましょう。シャワーで勢いよく流すのもおすすめです。目に症状がある場合は、目も洗い流してください。
イラガ類に刺された痛みは、冷やすと軽減します。

治療薬は、強めのステロイド外用薬の処方が基本です。ただし、かゆみやぶつぶつの範囲が広い場合は抗アレルギーの内服薬も合わせて処方します。
また、とくに子どもの場合、かゆみが強いと搔き壊して「とびひ」を併発する可能性もあります。とびひを併発した場合は、抗生物質の内服や塗り薬などの適切な治療を追加で行います。
なお、着ていた服は毒針毛が付いている可能性があるため、速やかに脱いで着替えましょう。洗濯をする際は、掃除機で毒針毛を吸い取ってからほかの洗濯物とは分けて洗い、すすぎ時間を長く取ります。一度で全ての毒針毛を取り切れない可能性もあるため、複数回の洗濯が必要です。

毛虫皮膚炎になりやすい人・予防の方法

毛虫皮膚炎は、木の近くで遊ぶ機会の多い子どもと、庭の木や植木を手入れする機会の多い方に多く見られます。
また、毛虫皮膚炎の予防法は「毛虫との接触を避けること」です。

特に毛虫の発生しやすい4月から9月は、木に毛虫が発生していないかをよく確認しましょう。チャドクガは1年に2回、夏と冬に卵を生みます。そのため、1年に2回幼虫が発生し、被害が大きくなりやすいのです。

チャドクガの発生を防ぐには、あらかじめ原因となるツバキやサザンカなどの樹木を剪定しておくのが有効です。もしチャドクガが発生したら、発生している木の葉にビニール袋を被せて枝ごと切り取ります。袋から毒針毛が出ないよう、袋を閉じたらさらに袋に入れて二重でしっかりと口を閉じましょう。

園芸用や家庭用の殺虫剤でもチャドクガは駆除できますが、幼虫が木から落ちてくる際に毒針毛に触れないよう注意してください。なお、チャドクガが木全体に広がった場合、個人での駆除は危険です。近くを通った一般の人へ被害が出る可能性もあるため、専門家への相談も考慮に入れましょう。

木の剪定をする際は、長袖・長ズボン・ゴム手袋・ゴーグル・マスクなどを着用して皮膚の露出を減らすと、毒針毛に触れるリスクを軽減できます。できればズボンの裾は毒針毛が入らないように、靴下の中に入れるとよいでしょう。
なお、毛虫に触らなくても、近づいただけで風で毒針毛が飛んでくるケースもあります。もし毛虫を見かけた際は、速やかに離れてください。

毛虫皮膚炎はかゆみが強いため、市販薬によるセルフケアでは対処が難しいケースが珍しくありません。そして、かいてしまうと毒針毛がほかの部位に広がり症状がひどくなります。早く治すために、かゆみが強い場合は無理をせず皮膚科、目の症状の場合は眼科への受診を検討しましょう。


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