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天疱瘡
高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

天疱瘡の概要

天疱瘡(てんぽうそう)は、自己免疫疾患の一つであり、免疫系が自身の上皮細胞を接着させる分子に対して攻撃し、粘膜や皮膚に水疱やびらんが形成される疾患です。
主に40〜60代に発症し、女性にやや多い傾向が見られます。
令和3年度の報告では、天疱瘡で指定難病受給証を交付されている人は日本で約3,200人となっています。
(出典:難病情報センター「天疱瘡(指定難病35)」

天疱瘡を引き起こす免疫系は、デスモグレイン(表皮や粘膜上皮を接着させるタンパク質)に対する自己抗体です。
自己抗体がデスモグレインを異常だと判断し攻撃することで、細胞間の接着が阻害され、水疱やびらんが形成されます。

天疱瘡は尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう)と落葉状天疱瘡(らくようじょうてんぽうそう)の主な2つと、まれに見られる腫瘍随伴性天疱瘡(しゅようずいはんせいてんぽうそう)などがあります。

適切な治療を続けることで症状のコントロールが可能ですが、完治が難しい病気です。
早期診断と長期的な管理によって、生活の質を維持・向上させることが重要になります。

尋常性天疱瘡

尋常性天疱瘡は天疱瘡のなかで最も頻度が高く、口腔や口唇、咽頭、喉頭、食道、結膜、膣などの粘膜に痛みを伴う水疱やびらん、潰瘍が生じます。
口腔の水疱やびらんは特に強い痛みを感じやすく、摂食不良につながりやすいのが特徴です。
水疱やびらんは頭部や腋窩、鼠径部、臀部などの皮膚にも現れることがあり、皮膚表面から水分が失われたり、感染症につながることもあります。

落葉状天疱瘡

落葉状天疱瘡では、頭や顔、胸、背中などの皮膚に浅い水疱やびらん、赤い発疹が生じます。
水疱やびらん、発疹は爪ほどの大きさですが、まれに広い範囲で起こることがあります。
皮膚がフケのように剥がれるのが特徴で、粘膜症状は見られません。

腫瘍随伴性天疱瘡

腫瘍随伴性天疱瘡は悪性または良性の腫瘍によって大きな口腔のびらんと、口唇に血の塊ができることが特徴です。
皮膚には水疱や赤い発疹、紫色のあざなどが生じ、閉塞性細気管支炎を合併することもあります。

天疱瘡

天疱瘡の原因

天疱瘡は難病指定されている病気の一つであり、発症する原因はわかっていません。

デスモグレインに対する自己抗体が病気を起こしますが、自己抗体がつくられる原因は不明です。

天疱瘡の前兆や初期症状について

天疱瘡の初期症状は、主に粘膜や皮膚に現われます。
尋常性天疱瘡では、口腔に痛みを伴う水疱が生じ、食事が摂りにくくなります。
落葉状天疱瘡では、頭や背中などに浅いびらんや赤い発疹が生じ、皮膚がフケのように剥がれます。

どちらの場合も症状が徐々に進行するため、早めに診断を受けて治療をすすめることが重要です。

天疱瘡の検査・診断

天疱瘡は粘膜や皮膚に生じている症状を確認した後、血液検査や生検検査をおこないます。
臨床的な症状以外に、デスモグレインに対する自己抗体や、組織内に特異的な病変が認められた場合は天疱瘡と診断されます。

血液検査

血液検査でデスモグレインに対する自己抗体について調べます。
尋常性天疱瘡ではデスモグレイン3(Dsg3)に対するIgG自己抗体、落葉状天疱瘡ではデスモグレイン1(Dsg1)に対するIgG自己抗体が認められます。

生検検査

生検検査では病変が起きている粘膜や皮膚から、小さな組織を採取して状態を調べます。
採取した組織は顕微鏡を使用して、表皮内の水疱の有無を確かめます。
天疱瘡では粘膜上皮や表皮のなかで細胞間での接着が保てないため、表皮内に水疱が起こる特徴があります。

さらに直接蛍光抗体法によって、表皮細胞の表面にIgG自己抗体の沈着がないか確かめます。

天疱瘡の治療

天疱瘡の治療は、主にステロイド療法によって自己抗体の産生やはたらきを抑えて、粘膜や皮膚の症状の改善を図ります。
ステロイド療法で効果が十分に現われない場合や、副作用が強く日常生活に支障をきたす場合は、免疫グロブリン製剤の投与や血漿交換療法、抗CD20抗体療法などをおこないます。

免疫グロブリン製剤と血漿交換療法は即効性がありますが、効果が一時的であることも多いため、できる限りステロイド療法と併用するケースが多いです。
治療内容は症状の重症度や患者の全身状態に合わせて方針が決定されます。

ステロイド療法

天疱瘡の治療ではステロイド剤を投与し、自己抗体の産生を抑制します。
特に中等症や重症の場合は、治療初期に入院して大量のステロイド剤を点滴で投与し、水疱の形成に改善がみられたら、徐々に量を減らしていきます。

病状が落ち着いた頃に通院治療に移行し、日常生活を送りながら自宅でステロイド剤を内服します。
ステロイド剤は自己判断で内服を中止するとショック状態が起きたり、水疱が再発することがあるため、必ず指示された量を守ることが重要です。

易感染症(いかんせんしょう)や糖尿病、骨粗鬆症、胃潰瘍、高血圧などの副作用もあるため、発熱や体調不良などの症状が見られたら早めに受診しましょう。

免疫グロブリン製剤

免疫グロブリン製剤は健康な人の血液から抽出された抗体を含む製剤で、自己抗体の作用を中和し、免疫系の異常な反応を抑制することで症状の改善に効果があります。
通常では高用量の免疫グロブリンを数日間にわたって点滴投与します。

重症例でも効果が期待できますが、まれにアナフィラキシーショックや心不全などの副作用が起こる可能性があるため、慎重に適応を判断する必要があります。

血漿交換療法

血漿交換療法は患者の血液から自己抗体を含む血漿を除去し、健康な血漿や血漿代替液と置換する治療法です。
循環血液中の病因となる自己抗体を減少させることで、症状の改善が期待できます。

治療の頻度は重症度によって異なりますが、1回の治療で患者の血漿量の約1〜1.5倍を交換します。
副作用として血圧の低下や感染症のリスクがあるため、慎重な管理が必要です。

抗CD20抗体療法

抗CD20抗体療法は、B細胞の表面に現われるCD20抗原に特異的に結合し、抗体産生に関わるB細胞を選択的に除去する治療法です。
リツキシマブなどの抗CD20モノクローナルによって天疱瘡の原因になるB細胞を除去することで、自己抗体の産生を抑制し、症状の改善を図ります。

抗CD20抗体療法は2021年12月から難治性の天疱瘡に対する保険診療が認められ、ステロイド療法で効果が不十分なときの選択肢の一つとなっています。

天疱瘡になりやすい人・予防の方法

天疱瘡になりやすい人や予防の方法はわかっていません。

天疱瘡は症状の悪化を防ぐために、早めに発見して皮膚科を受診することが重要です。
発症した後は皮膚の水疱やびらんを悪化させないために、着脱しやすく綿などのやわらかい素材でできた衣類を着用します。

粘膜の水疱が強いときは硬い食べ物を避け、歯磨きで口腔内の水疱やびらんを刺激しないように気をつけましょう。


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