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道化師様魚鱗癬
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

道化師様魚鱗癬の概要

道化師様魚鱗癬(どうけしようぎょりんせん)は、生まれつき皮膚に異常をもたらす遺伝性疾患の一つです。この病気は非常にまれで、主に新生児期に特徴的な症状が現れます。皮膚が厚くなり、大きな鱗(うろこ)のような硬い皮膚が全身を覆うことが特徴です。皮膚がひび割れてしまうため、感染症のリスクが高く、また体温調節がうまくいかないこともあります。
この病気の名前は、生まれたばかりの赤ちゃんの皮膚の状態が「道化師(ピエロ)の仮面」に似ていることに由来します。皮膚が厚く固まることで、目や口が開きにくくなり、顔の表情が独特になるためです。しかし、適切な治療とケアを行うことで、成長とともに症状が軽減することもあります
この疾患は医学の進歩によって治療法が向上し、昔に比べると患者の生存率は高くなっていますが、生まれてすぐに適切な治療を受けなければ、生命に関わる可能性があります。現在では、新生児期からの集中治療とスキンケアによって、より長く健康的な生活を送ることが可能になっています。

道化師様魚鱗癬の原因

道化師様魚鱗癬は、遺伝子の異常によって引き起こされます。この病気の原因となるのは、ABCA12という遺伝子の変異です。この遺伝子は、皮膚のバリア機能を保つために重要な役割を果たしています。正常な皮膚では、皮膚細胞が規則正しく生まれ変わり、適切な状態を保つことができます。しかし、ABCA12遺伝子に異常があると、皮膚細胞が正しく形成されず、過剰に厚くなったり、乾燥してひび割れたりします。
この疾患は常染色体劣性遺伝と呼ばれる遺伝形式をとります。つまり、両親の双方から変異した遺伝子を受け継ぐことで発症します。両親のどちらか一方だけが変異した遺伝子を持っている場合は、病気は発症しませんが、子供に遺伝する可能性があります。そのため、家族内でこの病気が発症した場合、遺伝カウンセリングが勧められることもあります。
遺伝子の異常によって皮膚のバリア機能が失われると、水分の保持が難しくなり、皮膚が極端に乾燥しやすくなります。また、外部からの刺激や感染に対しても弱くなり、細菌やウイルスの侵入を防ぐことが難しくなります。そのため、生まれたばかりの赤ちゃんは特に細心の注意を払ったケアが必要になります。

道化師様魚鱗癬の前兆や初期症状について

道化師様魚鱗癬の症状は、生まれた直後から明らかに現れます。新生児は全身が厚く硬い皮膚に覆われており、皮膚がひび割れていることが特徴です。このひび割れによって、細菌感染が起こりやすくなり、早期に適切な処置を行わなければ、命に関わることもあります。
また、皮膚が厚くなっていることで、目や口が開きにくくなることもあります。まぶたがうまく閉じられず、目が乾燥しやすくなるため、眼の保護が必要になることがあります。口の周りの皮膚も硬くなり、授乳が困難になる場合もあり、栄養管理が課題となります。
さらに、皮膚の異常だけでなく、体温調節がうまくいかなくなることもあります。皮膚が極端に乾燥し、水分を保持する能力が低下しているため、脱水症状を引き起こしやすく、適切な水分補給が必要です。また、発汗機能が低下しているため、体温調節が困難になり、特に暑い環境では体温が上昇しやすくなります。
これらの症状に加えて、指やつま先の皮膚が硬くなりすぎることで、関節が動かしにくくなることもあります。生まれたばかりの赤ちゃんにとって、これらの症状は非常に大きな負担となるため、医療機関での適切な管理が不可欠です。

道化師様魚鱗癬の検査・診断

この病気の診断は、新生児期の皮膚の特徴的な状態を観察することで行われます。道化師様魚鱗癬の赤ちゃんは、生まれた直後から皮膚が異常に厚く、乾燥しやすいため、見た目の特徴から診断がつきやすい疾患です。
確定診断のためには、遺伝子検査が行われます。ABCA12遺伝子に変異があるかどうかを調べることで、この病気かどうかを正確に診断することができます。また、皮膚の組織を採取し、顕微鏡で観察することで、皮膚の異常がどの程度進行しているのかを確認することもあります。
また、新生児は皮膚バリアの機能が著しく低下しているため、細菌感染のリスクが高くなります。そのため、血液検査を行い、感染の有無や脱水状態をチェックすることも重要です。診断が確定した後は、早期に適切な治療を開始することが求められます。

道化師様魚鱗癬の治療

この疾患の治療の基本は、皮膚の保湿感染予防です。特に、新生児期には慎重なスキンケアが求められます。皮膚が極端に乾燥するため、保湿剤を頻繁に塗布し、水分を保持することが重要です。医療機関では、特別な保湿クリームや軟膏を使用し、皮膚を柔らかく保つ治療が行われます。
また、細菌感染を防ぐために、抗生物質の投与が必要になることがあります。皮膚がひび割れていると、細菌が侵入しやすくなるため、常に清潔を保ち、感染のリスクを最小限に抑えることが大切です。
成長とともに皮膚の状態は改善することが多いため、長期的なスキンケアと健康管理が必要になります。皮膚を柔らかく保つために、温かいお湯での入浴を習慣化し、適切な保湿を行うことが重要です。

道化師様魚鱗癬になりやすい人・予防の方法

この疾患は遺伝性のものであるため、発症を完全に防ぐ方法はありません。しかし、家族にこの疾患の既往がある場合は、遺伝カウンセリングを受けることで、リスクを事前に把握することができます。近年では、出生前診断によって遺伝的な異常を確認することも可能になっています。適切な医療サポートを受けることで、より良い治療を早期に開始することが可能になります。

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