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西田 陽登

監修医師
西田 陽登(医師)

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大分大学医学部卒業。大分大学医学部附属病院にて初期研修終了後、病理診断の研鑽を始めると同時に病理の大学院へ進学。全身・全臓器の診断を行う傍ら、皮膚腫瘍についての研究で医学博士を取得。国内外での学会発表や論文作成を積極的に行い、大学での学生指導にも力を入れている。近年は腫瘍発生や腫瘍微小環境の分子病理メカニズムについての研究を行いながら、様々な臨床科の先生とのカンファレンスも行っている。診療科目は病理診断科、皮膚科、遺伝性疾患、腫瘍全般、一般内科。日本病理学会 病理専門医・指導医、分子病理専門医、評議員、日本臨床細胞学会細胞専門医、指導医。

化膿性汗腺炎の概要

化膿性汗腺炎は、主にアポクリン汗腺や毛髪などの体毛が分布する部位(頭部、腋窩、鼠径部、乳房下、臀部など)に生じる慢性的な炎症性皮膚疾患です。
再発性の炎症性結節や膿瘍を形成し、瘻孔や瘢痕を形成することもあります。
この疾患は比較的まれですが、生活の質に影響を与えることが多く、特に重症例では日常生活にも支障をきたすことがあります。
患者さんはしばしば強い痛みや不快感を訴え、多くは長期間にわたって症状が続きます。また、見た目にも影響を与えるため、心理的な負担も大きくなることがあります。
なお、化膿性汗腺炎と言う名称ですが、近年では化膿性汗腺炎、集簇性ざ瘡、頭皮の解離性蜂巣炎をまとめて毛包閉塞性疾患の3疾患、ないしは3疾患に毛巣洞を加えて4疾患とする考え方もあります。

化膿性汗腺炎の原因

化膿性汗腺炎の原因は完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複雑に関与していると考えられています。
以下に主な原因と考えられる要素を説明します。

遺伝的要因

化膿性汗腺炎は、家族内に同様の疾患を持つ人がいる場合、発症リスクが高くなることが知られています。
このことから、遺伝的要因が疾患の発症に大きく関与していると考えられます。

免疫系の異常

化膿性汗腺炎は、免疫反応に関連した炎症性疾患の一つと考えられています。
特に、体内の免疫細胞が過剰に反応することで炎症が引き起こされ、皮膚の毛嚢や汗腺に炎症を起こすことが示唆されています。

ホルモンの影響

思春期以降に発症することが多く、女性の方がやや発症率が高いことから、ホルモンバランスも関与していると考えられます。
特に、男性ホルモンが炎症の進行に影響を与える可能性が示されています。

細菌感染

直接的な原因ではないと考えられていますが、炎症部位に細菌感染が二次的に生じることが多く、これが化膿性汗腺炎の症状を悪化させることがあります。

生活習慣

喫煙や肥満は、化膿性汗腺炎のリスクを高めるとされています。
これらは、体内の炎症反応を悪化させる要因やホルモンに関係する要因と考えられます。

化膿性汗腺炎の前兆や初期症状について

化膿性汗腺炎は、症状の軽い初期段階から症状が重篤になるまでの経過に非常にばらつきがあり、前兆や初期症状を見逃さないことが重要です。
以下に一般的な前兆や初期症状を説明します。

軽度の痛みや不快感

最初の兆候として、腋窩、鼠径部などのアポクリン汗腺や毛髪などの体毛が多く分布する部位に軽度の痛みや違和感を認めることがあります。
多くの場合、この時点では目立った皮膚変化はまだ現れていません。

小さな皮膚のしこり

初期には、皮膚に小さな赤みを帯びたしこりが現れます。
このしこりは、通常、痛みを伴い、徐々に大きくなります。

膿瘍の形成

症状が進行すると、しこりが膿を伴うようになり、膿瘍に進行します。
これにより、痛みがさらに増強し、皮膚が破れて膿が排出されることもあります。

瘻孔の形成

慢性的に炎症が続くと、皮膚の下にトンネルのような瘻孔が形成されます。
瘻孔は皮膚表面に複数の開口部を持つことがあり、膿が持続的に排出されることがあります。

瘢痕化

長期間にわたる炎症で皮膚にダメージが続くことで瘢痕組織が形成され、皮膚に硬くて目立つ痕が残ることがあります。
これは化膿性汗腺炎の特徴的な所見の一つです。

なお、化膿性汗腺炎の中で臀部に限局した疾患は臀部慢性膿皮症と呼ばれます。
ここまで進展する前に適切に治療を行うことが大切です。

これらの症状が現れたら皮膚科を受診しましょう。

化膿性汗腺炎の検査・診断

化膿性汗腺炎の診断は、主に臨床的な観察と患者さんの病歴に基づいて行われます。
以下は、診断の過程で使用される主な方法です。

患者さんの病歴の聴取

病歴の聴取は重要であり、特に過去の炎症の有無や膿瘍の再発歴、家族に同様の疾患があるかどうか、または関連する自己免疫疾患の有無について、詳しく尋ねます。

診察

患者さんの皮膚の状態を視診し、特にアポクリン汗腺や体毛が多く分布する部位における炎症、瘻孔、および瘢痕の有無を確認します。

画像検査

超音波検査やMRIが行われることがあります。
これにより、皮膚深部においての膿瘍や瘻孔の範囲を評価することができます。
特に深部構造を詳細に把握する必要がある場合や手術を計画する場合に有用です。

細菌培養検査

二次感染が疑われる場合、膿のサンプルを採取して細菌培養を行います。
これにより、適切な抗生物質の選択が可能になります。

化膿性汗腺炎の治療

化膿性汗腺炎の治療は、病状の重症度、炎症の範囲に応じて異なります。
患者さんの生活に対する影響も参考になります。
適切な管理と治療により症状をコントロールし、患者さんの生活の質を向上させることが可能です。
以下に主要な治療法を説明します。

薬物療法

抗生物質

細菌感染の予防や治療のために、長期的に抗生物質を使用することがあります。
外用薬および経口薬が使用され、軽度から中等度の症例で効果が期待されます。

抗炎症薬

炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬やステロイドが使用されることがあります。
長期使用は副作用のリスクがあるため注意が必要です。

生物学的製剤

重症例では、免疫抑制作用を持つ生物学的製剤(例:TNF-α阻害剤)が使用されることがあります。
これらの薬剤は炎症を強力に抑える効果がありますが、高価であり、また感染症のリスクも伴います。

外科的治療

切開排膿

急性の膿瘍がある場合、切開して膿を排出することで痛みを緩和し、炎症の拡大を防ぎます。

膿瘍や瘻孔の除去手術

広範囲の膿瘍や慢性の瘻孔がある場合、根治的な治療法として外科的に切除する手術が行われることがあります。

生活習慣の改善

禁煙

喫煙は化膿性汗腺炎を悪化させるとされているため、禁煙が推奨されます。

体重管理

肥満は病状を悪化させるリスク因子であるため、適切な体重管理が重要です。

清潔保持

患部を清潔に保つことは、二次感染の予防に役立ちます。

化膿性汗腺炎になりやすい人・予防の方法

化膿性汗腺炎は、特定のリスク要因を持つ方々が発症しやすい疾患です。
以下に、なりやすい方・発症リスクの高い方と予防の方法を説明します。

なりやすい人・発症リスクの高い人々

家族歴がある方

家族内に化膿性汗腺炎の既往がある場合、遺伝的要因により発症リスクが高まります。

喫煙者

喫煙は、炎症反応を悪化させ、化膿性汗腺炎の発症や悪化のリスクを増加させます。

肥満の方

肥満は、汗腺の閉塞や摩擦を引き起こしやすく、病態を悪化させるリスクがあります。

ホルモン変動の大きい方

思春期や妊娠、月経周期に伴うホルモン変動が激しい女性は、化膿性汗腺炎を発症しやすい傾向があります。

予防の方法

禁煙

喫煙は病状を悪化させるため、禁煙は最も重要な予防策の一つです。

体重管理

適切な体重を維持することで、病変部の摩擦や閉塞を減少させ、症状の悪化を防ぐことができます。

皮膚の清潔保持

特に汗をかきやすい部位を清潔に保ち、通気性の良い衣服を選ぶことで、皮膚の炎症や感染を予防することが可能です。

早期治療の徹底

早期の段階で適切な治療を行うことで、症状の進行を抑え、重篤な合併症を予防することができます。


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