監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
皮膚筋炎の概要
皮膚筋炎(ひふきんえん)は、筋肉の炎症と特徴的な皮膚病変を主症状とする自己免疫疾患で、膠原病の一種に分類されます。
この病気は、体の免疫システムが誤って自分自身の筋肉や皮膚を攻撃してしまうことによって発症します。
筋肉の炎症によって、筋力低下や筋肉痛が現れ、皮膚病変は体のさまざまな部位に現れる可能性があります。
皮膚筋炎の原因
皮膚筋炎の明確な原因はまだ解明されていません。
しかし、いくつかの要因が関与していると考えられています。
遺伝的要因
遺伝的な背景が影響している可能性があり、特定の遺伝子が皮膚筋炎の発症リスクを高めることが示唆されています。
環境要因
ウイルス感染などが引き金となって発症するケースもあります。
皮膚筋炎の前兆や初期症状について
皮膚筋炎の初期症状は多様であり、患者さんによって異なります。
以下に代表的な症状を挙げます。
筋力低下
特に太ももや上腕などの体幹に近い筋肉で起こりやすく、階段の上り下りや立ち上がり動作が困難になることがあります。左右対称性に現れることが多い傾向です。
筋肉痛
筋肉の炎症によって痛みを感じることがあります。
皮膚症状
ヘリオトロープ疹
両方のまぶたが紫色になることがあり、特に内眼角部に紅斑が強い場合があります。
ゴットロン丘疹
指の関節が赤く腫れることがあります。
ゴットロン徴候
肘や膝などの関節が赤くなる症状で、関節部の凸面に生じます。
爪囲紅斑
爪の周りの皮膚が赤くなる症状です。
むち打ち様紅斑
体幹に赤く盛り上がった線状の皮疹が出ることがあります。
V徴候
首元が開いた服を着た時に日焼けのように赤くなる症状です。
ショール徴候
肩や背中にかけて赤くなることがあります。
逆Gottron徴候
手指関節の掌側に角化性紅斑が見られることがあります。
mechanic’s hand
母指と示指の間に落屑を伴う角化性紅斑が生じる症状です。
その他の症状
発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少などが見られることがあります。
どの診療科目を受診すればよいか
皮膚筋炎の症状が現れた場合は、皮膚科または膠原病内科を受診するのが良いでしょう。
医師による適切な診断と治療を提供してくれます。
皮膚筋炎の検査・診断
ここでは、皮膚筋炎の診断に必要な検査所見解説します。
1. 筋炎特異的自己抗体
皮膚筋炎の診断には、筋炎特異的自己抗体の検出が重要です。
自己抗体とは、体の免疫システムが誤って自分の細胞を攻撃する際に作られる抗体です。
皮膚筋炎に関連する主な自己抗体には以下のものがあります。
抗ARS抗体
陽性例では筋炎、間質性肺炎、関節炎、機械工の手(mechanic’s hand)がみられることが多いです。間質性肺炎は約90%でみられます。
抗MDA5抗体
筋症状がほとんど見られない無筋症性皮膚筋炎に関連します。予後不良の急速進行性間質性肺炎を伴うことが多く、早期治療が必要です。
抗TIF1-γ抗体
悪性腫瘍を合併する皮膚筋炎に関連し、40歳以上の患者さんの70%以上で悪性腫瘍が見られます。嚥下障害を高頻度で引き起こします。
抗Mi-2抗体
典型的な皮膚筋炎で見られる抗体です。筋症状が強く再燃しやすいですが、間質性肺疾患や悪性腫瘍の合併は少ないです。
抗NXP2抗体
約30%の患者さんに悪性腫瘍が合併します。筋症状は重症で、石灰沈着や皮下浮腫が高頻度で見られます。
抗SAE抗体
皮膚症状が先行し、その後筋症状が現れることが多いです。軽症の間質性肺疾患と悪性腫瘍を伴うことがあります。
2. 筋病理所見
筋病理所見は、筋肉の組織を顕微鏡で観察することで得られる情報です。
皮膚筋炎では以下の特徴的な所見が見られます。
筋束辺縁萎縮(PFA)
筋束の辺縁部の筋線維が中央部の筋線維よりも小さくなる現象です。
炎症細胞の浸潤
CD4陽性T細胞やマクロファージ、B細胞が主体となり、筋組織に浸潤します。
MHC classⅠ発現亢進
非壊死筋線維の筋細胞膜上に主要組織適合性複合体(MHC)classⅠが広範囲に発現し、特に筋束辺縁部で目立ちます。
補体C5b-9の沈着
抗TIF1-γ抗体や抗NXP2抗体陽性例では筋内の小血管に多く見られ、Mi-2抗体陽性例では筋細胞膜で認められます。
3. その他の臨床検査所見
皮膚筋炎の診断には、血液検査や筋電図検査、画像検査も重要です。
血液検査
全身の炎症を示す指標としてCRPよりも赤沈が鋭敏な指標となります。筋障害のマーカーとして血清クレアチンキナーゼ(CK)が用いられ、IIMでは通常の10倍以上に上昇することがあります。
筋電図検査
筋肉の電気的な活動を測定し、筋肉の異常を調べます。安静時に線維自発電位や陽性鋭波が見られ、弱収縮時には低振幅で多相性持続時間の短い運動単位電位が見られます。
画像検査
MRIやCT、超音波検査は、筋肉や臓器の状態を調べるために用いられます。これにより、病変の広がりを確認し、筋生検部位の決定にも役立ちます。
皮膚筋炎の治療
皮膚筋炎の治療は、炎症を抑え、症状を和らげることを目的としています。
主な治療法は以下の通りです。
薬物療法
ステロイド
炎症を抑える効果が高く、皮膚症状と筋力低下の両方に有効です。プレドニゾロン(PSL)がよく用いられます。
免疫抑制薬
免疫の働きを抑え、炎症を抑制します。ステロイドの副作用軽減や、ステロイドの効果が不十分な場合に追加されます。アザチオプリン(AZA)、シクロスポリン(CsA)、タクロリムス(TAC)、メトトレキサート(MTX)、シクロホスファミド(CPA)、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)などが使用されます。
大量免疫グロブリン療法
血液中の免疫グロブリンを補充することで、免疫異常を調整します。ステロイドが効かない場合などに検討されます。
リハビリテーション
筋力低下や関節の動きが悪くなることを防ぐため、理学療法士などによるリハビリテーションを行います。
皮膚筋炎になりやすい人・予防の方法
皮膚筋炎は、誰にでも起こりうる病気ですが、特定の予防法は確立されていません。
ただし、自己免疫の異常が関与していると考えられているため、免疫力を高める生活習慣を心がけることが大切です。
規則正しい生活
バランスの取れた食事、十分な睡眠を心がけましょう。
適度な運動
適度な運動を習慣づけることで、免疫力を高めることができます。
ストレス管理
ストレスを溜め込まないようにしましょう。
禁煙
禁煙を心がけましょう。
定期的な健康診断
定期的に健康診断を受けることで、早期発見に努めましょう。
また、皮膚筋炎は悪性腫瘍を合併することがあるため、健康診断などで悪性腫瘍の早期発見に努めることも重要です。
参考文献
- http://www.aid.umin.jp/wp-aid/wp-content/uploads/2024/03/PMDMGL2020.pdf
- 臨床雑誌内科 97巻 4号
- BRAIN and NERVE 76巻 5号
- 検査と技術 47巻 4号