監修医師:
井林雄太(田川市立病院)
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肝斑の概要
肝斑(かんぱん)は、顔面に現れる色素沈着性皮膚疾患のひとつです。主に頬骨部、こめかみ、目尻の下、額、口の周りなどに左右対称に色素沈着が生じます。薄い茶色や濃い茶色の斑が特徴です。
肝斑は妊娠中や経口避妊薬の使用、内分泌系の変化などによって引き起こされることが多く、女性に多く見られる症状です。
この症状は一般的に良性であり、生命に危険を及ぼすものではありませんが、美容上の問題として多くの患者さんに悩みをもたらします。
肝斑の原因
肝斑の正確な発症メカニズムは完全には解明されていませんが、主に以下の要因が関与していると考えられています。
ホルモンバランスの変化
- 妊娠中のエストロゲンやプロゲステロンの増加
- 経口避妊薬の使用
- 更年期におけるホルモンの変動
紫外線暴露
- 日光に含まれる紫外線がメラニン産生を促進
遺伝的要因
- 家族性に発症することがある
内分泌系の異常
- 甲状腺機能異常
ストレス
- 精神的ストレスによるホルモンバランスの乱れ
以上の要因が単独または複合的に作用し、メラノサイト(色素細胞)の活性化や色素沈着を引き起こすと考えられています。
肝斑の前兆や初期症状について
肝斑の初期症状は、ゆるやかに進行することが多い傾向です。最初の段階では気づきにくいことが特徴です。以下に肝斑の主な前兆や初期症状をまとめます。
1.顔の特定部位におけるわずかな色の変化
- 主に頬骨部、こめかみ、目尻の下、額、口の周りなどに薄い褐色のシミが現れる
- 左右対称に色素沈着が始まる
2.日光暴露後の色素沈着の増強
- 日光を浴びた後、色素沈着が一時的に濃くなる
3.メイクのノリの変化
- 肌のきめが変化し、メイクの仕上がりに違和感を覚える
4.皮膚の質感の変化
- 色素沈着部位の皮膚がわずかに粗くなることがある
5.季節による変化
- 夏季に色が濃くなり、冬季にやや薄くなる傾向
6.妊娠中の症状出現
- 妊娠中期から後期にかけて色素沈着が目立ち始める
7.ホルモン療法開始後の変化
- 経口避妊薬の使用開始後、数週間から数ヶ月で症状が現れることがある
肝斑の症状が気になる場合は、まず皮膚科を受診しましょう。皮膚科専門医が適切な診断を行い、必要に応じて治療方針を立てます。
肝斑がほかの内科的疾患の症状からである可能性を考える場合、以下の診療科も状況に応じて受診する必要があります。
- 産婦人科:妊娠中や婦人科疾患、ホルモンバランスに関連する場合
- 内分泌科:甲状腺機能異常に関連する場合
肝斑の検査・診断
肝斑の診断は臨床所見にもとづいて行うことが基本です。皮膚の状態を詳しく観察します。症状の経過や既往歴、家族歴、紫外線の暴露の程度などの生活習慣を聴取します。
また、以下に示す皮膚疾患との鑑別が重要です。
- 両側性遅発性太田母斑(真皮メラノサイトーシス)
- リール黒皮症
- 中毒性黒皮症
- 炎症後色素沈着症
- 光接触皮膚炎
- 悪性黒色腫(まれ)
色素異常症である日光黒子(老人性色素斑)などとの合併も見られることがあります。重症度の判定には、MASI(melasma area and severity index)などが使われます。
正確な診断と適切な治療方針の決定のために、皮膚科専門医による診察がおすすめです。
肝斑の治療
肝斑の治療は、原因や症状の程度に応じて異なります。完全な治癒は困難な場合もありますが、適切な治療により症状の改善や進行を抑えることが可能です。ただし肝斑の治療は基本的に保険適用はできません。肝斑は皮膚疾患ではないからです。肌をきれいにするための美容が目的と考えられるため、保険での治療は適応されません。
以下に主な治療方法をまとめます。
1.原因の除去・管理
- 妊娠関連の場合、出産後に自然軽快することがある
- ホルモン剤の使用中止や変更(医師の指示のもと)
- 基礎疾患(甲状腺機能異常など)の治療
2.紫外線対策
- 日焼け止めの適切な使用(SPF30以上、PA+++以上)
- 帽子や日傘の使用
- 過度の日光暴露を避ける
3.外用薬治療
ハイドロキノン製剤
メラニン生成を抑制
トレチノイン製剤
角質層のターンオーバーを促進
コルチコステロイド外用薬
炎症を抑制(短期使用)
ビタミンC誘導体含有製剤
抗酸化作用、メラニン生成抑制
トラネキサム酸含有製剤
メラニン生成を抑制
4.内服薬治療
トラネキサム酸
メラニン生成を抑制
ビタミンC
抗酸化作用、メラニン生成抑制
漢方薬
体質改善
5.ケミカルピーリング
- グリコール酸やサリチル酸などを用いて角質を除去
- 定期的な施術が必要
6.レーザー治療
- 肝斑に対するレーザーやIPL(光治療)は条件によっては行うことを提案する
7.イオン導入療法
- ビタミンCやトラネキサム酸などの有効成分を電気的に浸透させる
8.マイクロニードル治療
- 微細な針で皮膚に小さな穴を開け、美容液を浸透させる
9.光線療法
- 特定波長の光を照射し、メラニン生成を抑制
治療法の選択は、症状の程度や患者の希望、副作用のリスクなどを考慮して行います。多くの場合、複数の治療法を組み合わせることで、より効果的な結果が得られます。
治療期間は個人差が大きく、数ヶ月から数年にわたることもあります。また、治療後も再発予防のためのケアが重要です。
妊娠中や授乳中の女性に対する治療は制限されることがあるため、安全性を十分に考慮した上で治療方針を決定しましょう。
肝斑になりやすい人・予防の方法
肝斑になりやすい人の特徴
1.女性
特に20〜50代の女性に多い
2.妊娠経験者
妊娠中や出産後に発症しやすい
3.経口避妊薬使用者
ホルモンバランスの変化により発症リスクが上昇
4.日焼けしやすい肌質の人
紫外線に敏感な肌タイプ
5.家族歴がある人
遺伝的要因が関与している可能性がある
6.ホルモンバランスの乱れがある人
甲状腺機能異常などの内分泌疾患がある場合
7.ストレスの多い生活を送っている人
精神的ストレスによる内分泌系の乱れが影響
8.紫外線暴露の多い職業や趣味がある人
屋外での労働や日光浴を頻繁に行う人
予防の方法
1.徹底した紫外線対策
- 日焼け止め(SPF30以上、PA+++以上)を毎日使用
- 帽子や日傘を活用し、直射日光を避ける
- 日中の外出を控えめにする
2.スキンケアの見直し
- 肌に合った保湿剤を使用し、バリア機能を維持
- 刺激の少ない化粧品を選択
- 過度の洗顔や摩擦を避ける
3.健康的な生活習慣
- バランスの取れた食事(ビタミンCや抗酸化物質の摂取)
- 適度な運動と十分な睡眠
- ストレス管理(瞑想やヨガなどのリラックス法の実践)
4.定期的な健康チェック
- ホルモンバランスや内分泌疾患のチェック
5.薬剤使用の注意
- 経口避妊薬やほかのホルモン剤使用時は医師に相談
- 肝斑を悪化させる可能性のある薬剤の確認
6.アルコールと喫煙の制限
- メラニンの正常な代謝のために過度の飲酒を控える
- 禁煙または喫煙量の減少
7.温度変化への対策
- 急激な温度変化を避ける(サウナや熱い風呂など)
- 冷暖房の使用時は湿度管理
肝斑の治療や予防には徹底した紫外線対策、適切なスキンケア、健康的な生活習慣の維持が重要です。肝斑は完治が難しい場合もありますが、適切な治療と予防策により、症状の改善や進行の抑制が期待できます。
気になる症状がある場合は速やかに皮膚科を受診することをおすすめします。また、治療中も定期的な経過観察が必要であり、医師の指示に従い継続的なケアを行うことが大切です。
関連する病気
- 甲状腺疾患
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 肝疾患