監修医師:
高藤 円香(医師)
目次 -INDEX-
皮膚炎の概要
皮膚炎とは皮膚の表層で起こる炎症であり、赤みやかゆみ、発疹などの症状が生じます。
接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎など原因によってさまざまな種類に分けられますが、皮膚炎が起きやすい患者さんには皮膚が乾燥しやすいという傾向が共通していることが多いです。
治療方法は原因によって異なります。アレルギーによるかゆみを抑える場合はステロイド外用薬、細菌感染による皮膚炎であれば抗生物質が処方されます。
治療を行わずに放置すると再発や感染、生活の質の低下につながる可能性があるため、迅速な治療および日常的なケアを行うことが重要です。
皮膚炎の原因
皮膚炎は、外的要因と内的要因が複合して起こります。
- 外的要因:金属、気候の変化、日光、薬剤、感染など
- 内的要因:アトピー素因、アレルギー体質、肌のバリア機能の低下、皮脂や汗の量など
※アトピー素因:気管支喘息、アトピー性皮膚炎などの既往歴や家族歴があるか、もしくはIgE抗体が作られやすい体質のこと。
皮膚炎の種類によって原因は異なります。発症頻度の高いアトピー性皮膚炎と接触皮膚炎の原因は以下のとおりです。
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、内的要因であるアトピー素因に加えて、外的要因であるさまざまな環境要因が複合することで発症するといわれています。
アトピー性皮膚炎では皮膚の表層全体で乾燥が顕著に見られます。
皮膚の角層内では天然保湿因子によって水分を保持していますが、天然保湿因子の一つである「セラミド」の含有率が少ない人が多いです。
また、環境要因としては日光や気候、汗、衣服の生地、ストレス、飲酒などが挙げられます。さらに「掻く」ことも一つの要因です。掻くことで炎症が促進され、慢性皮膚炎のきっかけになるケースは珍しくありません。
アトピー性皮膚炎は加齢とともに発症率が減少する傾向がありますが、20歳代や30歳代の若い成人でも発症頻度の高い皮膚炎です。
(出典:日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」)
接触皮膚炎
接触皮膚炎は大きく2つの原因である「刺激性」と「アレルギー性」に分類されます。それぞれ、刺激性接触皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎と呼びます。
刺激性接触皮膚炎は、バリア機能の役割を果たす皮膚の角質層に、刺激物質が入り込み、炎症のきっかけとなるタンパク質の産生を促してしまうことが原因とされています。
アレルギー性接触皮膚炎は、化学物質が皮膚に接触した後、アレルギー反応を起こします。アレルギー反応を起こす化学物質は、人によって異なります。
日本皮膚免疫アレルギー学会が2015年に行った日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会パッチテストによると、アレルゲンの陽性率の高い順に「硫酸ニッケル」「金チオ硫酸ナトリウム」「ウルシオール」「パラフェニレンジアミン」「塩化コバルト」であったと報告されています。
(出典:日本皮膚科学会「接触皮膚炎診療ガイドライン 2020」)
皮膚炎の前兆や初期症状について
皮膚炎には多様な皮膚症状があります。
- 紅斑(赤み):毛細血管が拡張し皮膚に赤みが出る
- 滲出性丘疹(ブツブツ):皮膚表面にブツブツした膨らみができる
- 小水疱(水ぶくれ):浸出液が溜まって盛り上がる
- 膿疱(膿をもつ水ぶくれ):水ぶくれの中に白や黄色みががった膿がたまった状態
- びらん(ジュクジュク):水ぶくれが破れて浸出液が出てくる
- 痂皮(かさぶた):浸出液が乾燥して固まり、かさぶたをつくる
- 落屑(皮膚の剥がれ):角質が蓄積したものが皮膚から剥がれる
皮膚炎の種類によって症状の現れ方は異なりますが、基本的に上記の順に経過することが多いです。
皮膚炎の検査・診断
皮膚炎は、はじめに既往歴や家族歴、問診・視診・触診にて判断します。判断が困難な場合は、必要に応じて以下のような検査を実施します。
パッチテスト
皮膚のかぶれの原因を探るための検査方法です。具体的な方法として、日本皮膚免疫アレルギー学会が定めたアレルゲンをパッチに含ませて正常な皮膚に複数枚貼ります。貼ってから48時間後に剥がし、皮膚の変化を観察することでアレルギーの有無をチェックします。
また、貼ってから72時間後にもう一度、皮膚の状態を観察し再判定を行います。2回目の判定時点での皮膚状態によっては、3回目の判定を行う場合もあります。
プリックテスト
プリックテストは、即時的にあらわれるアレルギーを検査する方法です。アレルゲンの液体を皮膚に一滴落とし、プリックテスト専用の針でアレルゲンの液体をゆっくり刺します。余分な液体を拭き取ってから15〜20分後に判定できます。
皮膚生検
確定診断を目的に、皮膚の一部を採取して調べる検査方法です。細胞レベルで皮膚の状態を確認できるため、診察や他の検査で診断が下せない場合に行われます。
光線検査
光線を皮膚に照射しながら、光線量と皮膚の症状を確認することで光線への過敏性を検査できます。通常は、照射から24時間後に再受診して判定を行います。
皮膚炎の治療
皮膚炎の治療は原因によって異なりますが、薬物療法が基本です。中でもステロイド外用薬は、先述した接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎ともに「日本皮膚科学会 ガイドライン」にて推奨されている薬剤です。
ステロイド外用薬は5段階に分けられていますが、強いものを大量かつ長期的に使用すると全身的な副作用が起こりやすくなります。外用薬の副反応は皮膚萎縮や多毛、赤ら顔などです。
適切に使用すれば全身的な副作用はほとんど起こらないため、医師の指示に従って治療を進めることが重要です。
皮膚炎になりやすい人・予防の方法
皮膚のバリア機能が低下していて、乾燥しやすい人は皮膚炎になりやすいです。皮膚炎を予防するには日頃のスキンケアが重要です。皮膚表層の保湿機能や水分の保持能力を補うために、軟膏を使用してください。朝と夕方の2回、軟膏を用いることで予防効果が高まります。
正常な皮膚に見える部位も目に見えないだけで乾燥している可能性があるため、全身に塗布することが重要です。
入浴・シャワー時の温度にも注意が必要です。皮膚のバリア機能を回復させるために適温とされている温度は38°C〜40℃です。高温だと水分の保持能力が悪化する可能性があります。
また、アレルギー性接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎のある方は、使用する化粧品や洗剤、薬剤などにも気をつけて、自身に合った製品を選択するようにしましょう。
参考文献