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リンパ浮腫
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

リンパ浮腫の概要

リンパ浮腫とは何らかの原因でリンパ管に回収されなかった体液が細胞同士のすき間に溜まり、手脚などにむくみが生じる状態のことをいいます。

リンパ浮腫は、原因が明らかでない原発性リンパ浮腫(一次性リンパ浮腫)と原因が明らかな続発性リンパ浮腫(二次性リンパ浮腫)に分けられます。日本では続発性リンパ浮腫が多く、がんの手術や放射線治療に伴って発症するケースがほとんどです。

注意すべき合併症の一つに蜂窩織炎(ほうかしきえん)があります。蜂窩織炎とは小さな傷から細菌が入ることで起こる皮膚の炎症です。すでにむくみがある場合、さらに状態が悪化してしまったり、自覚症状がない初期段階でも、蜂窩織炎をきっかけにリンパ浮腫を発症することもあります。そのため蜂窩織炎を起こしたら、早期に治療し速やかに炎症を抑えることが重要です。

リンパ浮腫の治療は、圧迫療法などの理学療法にセルフケア指導を加えた複合的治療が基本です。複合的治療をおこなっても進行する場合には、手術治療が選択されることもあります。リンパ浮腫は一度発症すると治りづらく進行しやすいという特徴があるため、早期発見・早期治療が重要です。

リンパ浮腫

リンパ浮腫の原因

リンパ浮腫は、原発性リンパ浮腫(一次性リンパ浮腫)と続発性リンパ浮腫(二次性リンパ浮腫)の2つに分類されます。

原発性リンパ浮腫は、原因不明のものと遺伝子異常などによる生まれつきのものがあります。一方、続発性リンパ浮腫の原因としては、がん治療後の後遺症や外傷、フィラリア感染などが挙げられます。がん治療後のリンパ浮腫は、手術でリンパ節を取り除いたり、放射線治療によりリンパの流れが悪くなったりすることで起こります。

手足のリンパ液はリンパ管を通り、腕から心臓または足から心臓へと流れていきます。リンパ液の流れ道であるリンパ管の途中に、リンパ節があります。
リンパ節は、細菌・ウイルス・がん細胞などがいないか調べて排除し、外的から体を守る働きがあります。最終的に心臓の近くにある静脈角とよばれる場所でリンパ液は静脈に合流し血液と混ざり、最終的に尿として体の外へ排出されます。
しかしリンパの流れが悪くなるとリンパ液が回収されず、体の中にリンパ液が貯まりむくみにつながるのです。

日本ではがん手術によるリンパ節の切除や放射線治療、一部の薬物療法などによるものがほとんどですが、世界的にはフィラリア症によるものが多いといわれています。国内では1978年以降フィラリア症の発症者は出ていません。
(出典:日本癌治療学会 がん診療ガイドライン「リンパ浮腫 診療ガイドライン」))

リンパ浮腫の前兆や初期症状について

初期の段階では、リンパの流れは悪くなっているものの、むくみ症状がないために気づきにくいといわれています。次第に、張りや重だるさといった症状がでてきます。
進行するとむくみが目立つようになり、初期では皮膚を押すと一時的にへこみがみられます。軽いむくみであれば、腕や足を高い位置に上げることで軽減できるでしょう。

さらに進行すると、皮膚の繊維組織が異常に増殖して硬くなりはじめ、徐々に皮膚を押してもへこまなくなります。皮膚が厚くなってイボやかさぶたができるようになった状態を「象皮症」といいます。

また皮膚に小さな袋状のイボを生じる「リンパのう胞」や、リンパ浮腫を起こしている皮膚に衣類のこすれや傷がつくことでリンパ液が皮膚から漏れ出してくる「リンパ漏」が生じることもあります。むくみがひどくなると、関節の曲げづらさを自覚するようになり、日常生活にも支障をきたします。

リンパ浮腫の検査・診断

日本ではがん治療後のリンパ浮腫がほとんどです。そのため診察時に病歴(手術や放射線治療、外傷歴など)を聴き、当てはまればリンパ浮腫を疑います。次に、一般的な診察でリンパ浮腫以外の病気によるむくみでないことを確認し、ほかの病気の可能性を取り除きます。ほかの病気でないことが明らかとなってはじめて、リンパ浮腫と診断されます。

主な検査は、診察や血液検査、CT・MRI・超音波検査などの画像診断、リンパ管造影(リンパシンチグラフィなど)があります。超音波検査では局所的に、MRIでは体全体のリンパや脂肪の溜まり具合をくわしく観察します。リンパ管造影では浮腫がある部分のリンパ管の形やリンパの流れ、むくみの度合いを確認します。

リンパ浮腫の治療

リンパ浮腫はリンパ管という全身に張り巡らされた管が詰まり、リンパ液の流れが悪くなることで起こります。リンパは一度詰まると元に戻ることはできません。しかし放っておくと徐々に悪化してしまいます。そのため、いかに早く見つけて、治療を開始できるかが重要なポイントです。

治療方法は複合的治療と手術治療の2つの方法があります。基本は複合的治療をおこないますが、むくみがひどくなる場合や蜂窩織炎(ほうかしきえん)を繰り返す場合は手術治療を検討します。現在、リンパ浮腫に有効な薬はありません。

複合的治療

圧迫療法、スキンケア、圧迫しながらの運動療法、用手的リンパドレナージ、セルフケア指導を組み合わせた治療を、複合的治療といいます。
圧迫療法とは、弾性包帯(パンテージ)や弾性着衣(ストッキングやスリーブ)を日常的に腕や足に身につけて圧迫することで、リンパの流れをよくします。圧迫療法はむくみを軽減し効果を維持するために重要です。用手的リンパドレナージは皮膚を手でマッサージし、むくみとして溜まったリンパ液を正常に働いているリンパ節に移動させる方法です。一般的なマッサージとは異なり、専門的な知識や技術を持つ医療従事者の指導のもとでおこないます。

手術治療

手術方法には、リンパ管細静脈吻合術・血管柄付きリンパ節移植術・脂肪吸引術・切除減量術があります。リンパ管細静脈吻合術・血管柄付きリンパ節移植術は、リンパ組織を移植したり、リンパ管と同じ大きさの静脈やリンパをつなぎ合わせることでリンパの流れを改善させる手術です。

脂肪吸引術や切除減量術は、増えた脂肪組織を取り除きリンパ浮腫を小さくする手術です。リンパ浮腫が進行すると、その部分に皮下脂肪が溜まり、ますますリンパや血管を圧迫して重症化するという悪循環が起こります。リンパ液の流れを改善しただけでは、脂肪を減らすことはできないため、重度の場合は脂肪を取り除きます。手術直後から目に見えてリンパ浮腫は小さくなりますが、リンパの流れはかえって悪化するため、継続的により強い圧迫療法が必要となります。リンパの流れがまったくない場合の最終手段といえるでしょう。

リンパ浮腫になりやすい人・予防の方法

がん治療後は、リンパ浮腫になりやすいといわれています。リンパ浮腫を引き起こしやすいがんは、乳がん・子宮がん・卵巣がん・前立腺がんなどです。術後10年以上経ってから、発症することもあります。
(出典:国立研究開発法人国立がん研究センター「リンパ浮腫 もっと詳しく」)

リンパ浮腫の予防は、日々の管理が重要であり、そのためにはセルフケアがかかせません。セルフケアは、体重管理や感染症予防としてスキンケアをおこないます。体重が増えるとリンパ管が脂肪に圧迫されリンパの流れが悪くなります。そのため適正体重を保つことが重要です。定期的に体重を測る習慣をつけましょう。

またリンパ浮腫がある方は、正常の肌に比べて感染症にかかりやすい状態にあります。感染症予防のためには、スキンケアが効果的です。

スキンケアの3つのポイント

  • 皮膚を傷つけない
    虫刺され、巻き爪、日焼け、火傷、けが、ペットのひっかきに注意しましょう。外出時は、長袖・長ズボンなどで肌の露出を減らします。

  • 皮膚のうるおいを保つ
    保湿クリームをこまめに塗る習慣をつけましょう。しっとりやわらかな肌を保つことで、刺激から肌を守れます。

  • 清潔を保つ
    体を洗う際には、石鹸の泡でやさしく丁寧に洗いましょう。また入浴時に合わせて、乾燥や赤み、傷はないかなど皮膚を観察することをおすすめします。


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