

監修医師:
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会
目次 -INDEX-
コリン性蕁麻疹の概要
蕁麻疹とは、皮膚の一部が突然、蚊に刺されたように盛り上がり、短時間で跡を残さず消えてしまう皮膚の炎症です。赤みや強いかゆみを伴いますが、多くは数十分〜1日以内に治まります。
コリン性蕁麻疹は、運動、入浴、ストレス、熱い食べ物などによって体温が上昇し、汗をかいた際に現れる蕁麻疹の一種です。発疹は小さく、直径1〜3mm程度の丘疹が集まった形で現れ、特に強いかゆみを伴うことが特徴です。コリン性蕁麻疹は若年成人に多く見られ、特に男性に多い傾向があります。
コリン性蕁麻疹の原因
コリン性蕁麻疹は、体温の上昇による発汗のために、アセチルコリンが分泌されることが主な原因とされています。アセチルコリンは、ビタミンに類似したコリンから生成される神経伝達物質であり、神経信号の伝達において重要な役割を担っています。副交感神経に関係しており、汗腺を刺激して汗を分泌させる役割を持っています。以下に、コリン性蕁麻疹の具体的な原因を詳しく説明します。
運動
運動により体温が上昇すると、熱が産生され、それを発散しようと汗をかくためにアセチルコリンが分泌されます。そのアセチルコリンにより蕁麻疹が発生することがあります。
入浴
暖かい風呂やシャワーも同様に体温を上昇させ、アセチルコリンの分泌を促進します。このため、入浴後にコリン性蕁麻疹が発生することがよくあります。
精神的ストレス
ストレスは副交感神経系を刺激し、アセチルコリンの分泌を増加させます。緊張や不安などの精神的なストレスが蕁麻疹のトリガーとなることがあります。
食べ物や飲み物
辛い食べ物や熱い飲み物も体温を上昇させるため、アセチルコリンの分泌が促進され、コリン性蕁麻疹が発生することがあります。なお、コリンは水溶性ビタミン様作用物質の一種であり、肉、卵、魚、大豆製品、ナッツなどに含まれていますが、これらを食べることが直接的にコリン性蕁麻疹を引き起こすわけではありません。
コリン性蕁麻疹の前兆や初期症状について
コリン性蕁麻疹の前兆や初期症状には、以下のようなものがあります。発疹やかゆみなどの症状は、通常、体温が下がるとともに数分から数時間以内に消失します。
小さな赤い丘疹
発疹は小さく、赤みを帯びた丘疹が皮膚に現れます。これらの発疹は通常、体幹や上肢に多く見られます。ときに痛みを伴います。
強いかゆみ
丘疹が現れるとともに、強いかゆみが生じます。かゆみは運動や入浴後に特に強く感じられることが多いと言われています。
体温上昇時の症状
発疹やかゆみは、体温が上昇する状況で顕著に現れます。例えば、運動中や入浴中、ストレスを感じたときなどです。
これらの症状が現れたら皮膚科を受診しましょう。
コリン性蕁麻疹の検査・診断
コリン性蕁麻疹の診断は、主に患者さんの病歴や臨床症状の評価に基づいて行われますが、特定の検査を通じて確定診断を行うこともあります。以下に、具体的な検査方法と診断手順を説明します。
病歴の聴取
医師は、患者さんの症状の詳細を聞き取ります。具体的には、発疹が現れる状況(運動後、入浴後、ストレス下など)、発疹の持続時間、かゆみの程度、過去のアレルギー歴や家族歴などを確認します。体温上昇が発疹の原因であることを確認します。
症状のパターンの把握
発疹の出現頻度、持続時間、季節性の有無など、症状のパターンを詳細に把握します。
運動誘発試験、発汗テスト
患者さんに運動を行わせて、発疹が誘発されるかどうかを確認します。通常は、トレッドミルやエルゴメーターを使用して運動を行い、汗をかいた後の皮膚反応を観察します。この試験は、発疹が現れる時間や部位を確認するのにも役立ちます。
温浴試験
患者さんに暖かい風呂やシャワーを浴びさせ、その後の皮膚反応を観察します。温浴試験も体温上昇による発疹の誘発を確認するために使用されます。
アセチルコリン皮内注射試験
アセチルコリンを皮内注射し、局所的な皮膚反応を確認します。アセチルコリンはコリン性蕁麻疹の発疹を誘発するため、この試験により診断が確定されることがあります。
血液検査
血液検査により、全身的なアレルギー反応や炎症反応を確認します。具体的には、白血球数、好酸球数、IgE値などを測定し、そのほかの原因の可能性も含めて検討します。
皮膚生検
必要に応じて皮膚の一部を採取し、顕微鏡で観察します。これにより、ほかの皮膚疾患との鑑別が行われます。
現在、コリン性蕁麻疹は、汗管閉塞型、減汗症合併型、汗アレルギー型、特発性の4つの病態が提唱されています。汗管閉塞型では、汗の出る量が多く、それによって汗腺が詰まったような状態になり、局所的に炎症を起こします。減汗症合併型では、汗腺でのアセチルコリンレセプターの発現が汗腺で少なく、そのため、アセチルコリンの分泌が相対的に多くなり、痛覚神経に影響して肥満細胞の脱顆粒を引き起こすとされています。汗アレルギー型では、自分の汗に対するアレルギー反応が起こる、とされています。特発性はこれら3つ以外のもので、原因がはっきりしないものを言います。
コリン性蕁麻疹の治療
コリン性蕁麻疹の治療は、症状に対する治療ときっかけとなることの回避が中心となります。以下に、具体的な治療方法を説明します。
抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、かゆみや発疹の軽減に効果的です。第二世代の抗ヒスタミン薬は、眠気を引き起こすリスクが低いため、日中の使用にも適しています 。
抗コリン薬
原因としてアセチルコリンが考えられているため、その作用を抑制する抗コリン薬が使用されることがあります。これらの薬が副交感神経の活動を抑えます。
冷却療法
発疹が現れた際に冷やすことで、かゆみを軽減することができます。冷却パッドや冷たいシャワーが効果的です。また、冷水を使用して体温を下げることも有効です。
生活習慣の改善
トリガーとなる状況を避けるために、以下のような生活習慣の改善が推奨されます。
適度な運動
過度な激しい運動を避け、体温が過度に上昇しないようにします。患者さんによっては発汗障害を伴うことがあるため、軽度の運動を行って発汗の改善を試みます。発汗障害が軽快すると、蕁麻疹の症状もしばしば改善します。
温度調節
入浴時の温度を適度に保ち、熱い風呂を避けます。
ストレス管理
ストレスを軽減するためのリラクゼーション法やストレスの管理方法を実践します。
脱感作療法
一部の患者さんには、脱感作療法(身体を徐々に高温に慣らしていく方法)が効果的であるとされています。この方法は、身体が高温に慣れて反応しにくくなることを目指しています。
コリン性蕁麻疹になりやすい人・予防の方法
コリン性蕁麻疹になりやすい人
若年成人
代謝が良く、汗をかきやすい20~30代の若年成人に特に多く見られます。
男性
女性よりも、汗をかきやすい男性に多い傾向があります。
運動をよくする人
頻繁に運動を行う人は、体温の上昇に伴い汗をかくことが多くなるため、コリン性蕁麻疹のリスクが高まります。
ストレスが多い人
精神的なストレスが多い人は、副交感神経系の刺激が増加し、コリン性蕁麻疹を発症しやすくなります。
予防の方法
適度な運動
過度な運動を避け、適度な運動量を保つことで体温の急激な上昇を防ぎます。
温度調整
入浴時の温度を適度に保ち、熱い風呂やサウナを避けることで体温の上昇を抑えます。
ストレス管理
ストレスを軽減するためのリラクゼーション法(瞑想、ヨガ、深呼吸など)を実践します。
適切な服装
運動時や暑い環境では、通気性の良い服装を選び、過剰な発汗を防ぎます。
参考文献




