

監修医師:
五藤 良将(医師)
イボの概要
イボは、専門用語では疣贅(ゆうぜい)と呼ばれています。皮膚から盛り上がった小さなできものを指し、1ヵ所だけでなく数ヵ所に同時発生する傾向にあります。
また、発症部位によってさまざまな名称があり、ウイルス性疣贅であれば、尋常性疣贅、指状疣贅、糸状疣贅、足底疣贅、扁平疣贅、モザイク疣贅、爪囲疣贅、爪甲下疣贅、ドーナツ疣贅などがあります。
このほか、首回りにできる軟線維腫(アクロコルドンやスキンタッグ)、加齢とともに増える老人性疣贅(脂漏性角化症)、子どもに多く見られる伝染性軟属腫(いわゆる水イボ)などがあります。
イボは痛みや痒みを伴わないことが多いため、日常生活に支障をきたすことは少ないですが、見た目や触感が特徴的です。魚の目(鶏眼:けいがん)やタコ(胼胝:べんち)に似た外観を呈する場合もあります。また、イボのなかには悪性黒色腫などの悪性腫瘍の初期症状として現れるものもあるため、自己診断は避け、専門の医療機関で診断を受けることが重要です。
イボの原因
イボの原因は、イボの種類によって異なります。
代表的なウイルス性疣贅は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というヒト乳頭腫ウイルスの感染によるものです。HPVは、皮膚にできた微細な傷から侵入し、3〜6ヵ月をかけてイボを形成します。
外陰部や口腔内の粘膜にもHPVが感染することがあり、これらの部位にできるイボは尖圭コンジローマと呼ばれます。尖圭コンジローマは性感染症の一種であり、性交渉によって感染が広がることがあります。口腔内の粘膜にできる場合もあり、これらもHPVによるものです。
伝染性軟属腫は、伝染性軟属腫ウイルスが原因で、7歳くらいまでの子どもに多くみられます。
HPVやウイルスの感染は、正常な健康な皮膚ではほとんどないといわれています。しかし、引っかき傷やかすり傷などの小さな外傷があると、そこからウイルスが皮膚に入り込みます。ウイルスは皮膚の奥にある基底層の基底細胞に感染し、異常な細胞分裂を引き起こすことでイボが形成されます。また、アトピー性皮膚炎などで肌のバリア機能が低下している場合や、風邪やインフルエンザなどの病気やストレスで免疫力が低下している場合にも、イボができやすくなります。
このため、外傷を受けやすい手足や膝、肘などにイボができやすく、アトピー性皮膚炎の子どもでは、頻繁に引っ掻くことが多い肘や膝の内側にイボができることがよくあります。
首回りにできる軟線維腫や老人性疣贅は、HPVが原因ではなく、擦過刺激や加齢、日光に当たることが原因とされています。これらの良性腫瘍は、中年期以降に増える傾向がありますが、ウイルス感染とは異なるメカニズムで発生します。
イボの前兆や初期症状について
イボの前兆や初期症状は、イボの種類やできる部位、形状によりさまざまです。
尋常性疣贅の初期には数mmから1cm程度の小さな皮膚の盛り上がりとして現れます。痛みや痒みなどの自覚症状は少なく、数の増加や発生範囲が広がることがあります。
足の裏にできる足底疣贅は、ほかのイボと異なり、あまり盛り上がらず、硬くざらざらした感触が特徴です。足底疣贅は、歩行時の圧力によって痛みを感じることがあります。放置すると、多発して治療に時間がかかることがあります。
顔にできる扁平疣贅は、若者に多く見られ、赤みや痒みを伴うことがあります。これらは小さく平らな盛り上がりとして、複数個が集まって現れます。首や顔にできる指状疣贅は、指をすぼめたような形をしており、見た目が特徴的です。
外陰部にできる尖圭コンジローマは、主に性交渉によって感染し、陰茎や肛門、膣などの外陰部に現れます。外陰部にできるボーエン様丘疹症もウイルスによるもので、同様に注意が必要です。
首回りにできる軟線維腫は、痛みを伴わない良性のイボで、皮膚が摩擦を受けやすい部位にできやすく、加齢とともに増える傾向があります。見た目の不快感以外に特に症状はありませんが、増大したり数が増えたりすることがあります。
イボは自然に治癒することもありますが、急激に増大したり、数が増えたりした場合は悪性腫瘍の可能性も考慮する必要があります。そのため、自己診断は避け、皮膚科や形成外科で専門的な診断を受けることが重要です。
イボの検査・診断
イボの検査および診断は、主に問診、視診、触診で行われます。患者さんの症状や既往歴を確認し、その後、医師が肉眼でイボの特徴的な見た目を観察します。イボは皮膚の盛り上がりやザラザラした表面、中心に見られる黒い点(ウイルスに感染した毛細血管)などで識別されます。しかし、部位や大きさによっては、魚の目やタコと見分けがつきにくい場合があります。
特に足底疣贅(そくていゆうぜい)は体重がかかるために隆起せず、魚の目と間違われることがあります。このような場合、ダーモスコープ(拡大鏡)を使用して詳細に観察し、イボとほかの皮膚疾患を区別します。ダーモスコープは、ウイルスによって増殖した毛細血管を確認するのに有効であり、表面を削り取った際に点状出血が見られることも診断の助けとなります。
視診や触診でイボであると診断された場合、さらなる検査は必要ありません。しかし、悪性黒色腫などの悪性腫瘍が疑われる場合には、確定診断のために病理組織検査を行うことがあります。この検査では、腫瘍の一部を切除し、顕微鏡で細胞の構造を詳しく調べ、腫瘍の性質や切除範囲を正確に決定します。
早期に正確な診断を行うことで、適切な治療を受けることができ、症状の進行や合併症を防ぐことができます。
イボの治療
イボの治療は、自然治癒を待つこともありますが、目立つ場所にある場合や数が多い場合は積極的な治療が必要です。治療法は大きく分けて、ウイルス(HPV)を除去する方法と、すでにできたイボを取り除く方法に分類されます。治療法には、以下のようなものがあります。
まず、冷凍凝固療法では、マイナス196度の液体窒素を浸した綿棒を患部に数秒押しつけ、その後皮膚が壊死して剥がれるのを待ちます。剥がれた部分の下から新たな皮膚が再生し、ウイルスに感染した部分が取り除かれることで治療が完了します。治療には、1〜2週間に一度のペースで複数回の受診が必要であり、患者さんは継続的にクリニックに通う必要があります。
その他の治療法としては、レーザー治療、サリチル酸(塗り薬、貼り薬)の塗布、ヨクイニンの内服などがあります。レーザー治療は、顔にできる扁平疣贅の治療に用いられ、痕を残さないようにする治療法です。サリチル酸は、イボに直接塗布し角質をやわらかくして、徐々に取り除く方法です。ヨクイニンは漢方薬の一種で、免疫力を高め、イボの治癒を助けます。
外陰部にできる尖圭コンジローマには、イミキモドという抗ウイルス効果や抗腫瘍効果が期待できる外用薬が使われます。これは局所の免疫を調整し、ウイルスの活動を抑える効果があるとされています。
治療を進めるうえで重要なのは、自己流の処置を避け、専門の医師の診断と治療を受けることです。自己処置によってウイルスが周囲の皮膚に広がり、症状が悪化するリスクがあるためです。また、治療法は患者さんによって異なるため、一人ひとりに合わせた方法を選ぶ必要があります。どの治療法でも一回の治療で治癒することは難しく、継続的な治療が必要です。
イボは治りにくく再発も多い疾患ですが、焦らずに治療を続けることが大切です。皮膚科医と協力して、根気よく治療を進めることで、イボの治癒を目指しましょう。
イボになりやすい人・予防の方法
イボは、免疫力が低下している方に発生しやすい傾向があります。免疫力が未熟な子どもや、アトピー性皮膚炎、慢性疲労、虚弱体質、そして加齢による免疫力の低下がある方は、イボができやすく、また治りにくいといわれています。
イボ全般に対する予防ワクチンは存在しないため、以下の予防策を徹底することが大切です。
まず、ウイルス感染を防ぐために、こまめな手洗いや、傷をつくらないことが重要です。外傷を受けやすい手足や肘膝、手荒れや髭剃り後の肌荒れには注意が必要で、すでに傷がある場合は、その部分を触らないように注意し、清潔に保つことが大切です。また、家族内でイボが発生している場合、タオルやバスマットなどの共用を避けることで自己感染や他者への感染を防ぎます。さらに、アトピー性皮膚炎の治療を適切に行い、乾燥肌や痒みに対する引っ掻き行為を防ぐことで、ウイルスが感染しにくい皮膚環境を整えることができます。
免疫力の低下もイボの発生リスクを高めるため、体調管理も重要です。ストレスや過労を避け、十分な睡眠とバランスの取れた食事を心がけることが、免疫力を維持するために役立ちます。糖尿病などの基礎疾患を持っている場合、その管理もイボ予防の一環として重要です。免疫抑制剤を使用している人や免疫力が低下している病気を持つ方は、皮膚のケアと体調管理により一層の注意が必要です。
総じて、イボの予防には、感染リスクを減らすための衛生管理、免疫力の維持、そして皮膚の健康を保つためのスキンケアが重要です。これらを日常生活に取り入れることで、イボの発生を防ぎ、健康な皮膚を保つことができます。
関連する病気
- 尋常性疣贅
- 脂漏性角化症
- 伝染性軟属腫
参考文献




