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柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

魚鱗癬の概要

魚鱗癬(ぎょりんせん)とは、先天的に皮膚のバリア機能が欠損し、皮膚が極度に分厚くなる先天性疾患です。皮膚のバリア機能を構成する遺伝子に異常が生じ、正常に機能しないため、バリア機能を高めるために皮膚が分厚くなります。
分厚くなった皮膚は紅潮して魚の鱗のようにひび割れるため、魚鱗癬と呼ばれるようになりました。
鱗状になった皮膚がボロボロと剥がれ落ちたものを、鱗屑(りんせつ)といいます。
日本国内での患者さんは約200人と推定されており、男女差はありません。一部の重症例では、生後まもなく死亡するケースもあります。

魚鱗癬の原因

魚鱗癬は遺伝子の異常による先天性疾患であり、異常遺伝子は患者さんの子どもにも遺伝します。

魚鱗癬を起こす異常遺伝子は、常染色体顕性遺伝(優性遺伝)のものと、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の2種類があります。

優性遺伝は両親どちらかが保有していれば子どもが発症する場合があり、劣性遺伝は両親ともに保有していないと子どもには発症しません。ただし、子どもは発症しなくても劣性遺伝子のキャリアーとなります。

日本国内での魚鱗癬遺伝子キャリアーは数百人に1人であるため、キャリアー同士が偶然に結婚する確率は極めて低いでしょう。ただし両親がキャリアーでなくても、遺伝子の突然変異により子どもが発症する場合もあります。

魚鱗癬の前兆や初期症状について

魚鱗癬は皮膚が障害される先天性疾患であり、皮膚の症状がほとんどです。しかし、皮膚は身体に細菌やウイルスが侵入しないようにバリアする機能を担っているため、皮膚の障害はさまざまな病気の原因にもなります。

魚鱗癬の症状は出生直後から現れるため、重症例では速やかな医療介入が必要です。魚鱗癬の治療は皮膚科を中心に進めていくため、皮膚の症状がある場合には皮膚科を受診してください。

魚鱗癬の主な初期症状は、以下のようなものがあります。

  • 皮膚の鱗屑
  • 瞼や唇の外反
  • 細菌感染
  • 皮膚以外の臓器異常

それぞれ以下を確認しておきましょう。

皮膚の鱗屑

魚鱗癬の代表的な症状が皮膚の鱗屑で、分厚くなって鱗状にひび割れた皮膚が、ボロボロと剥がれ落ちます。表皮融解性魚鱗癬では、皮膚の強度が極端に低いために、ごく弱い刺激でも水疱やびらんとなります。皮膚は体内の水分を保持する役目もあるため、魚鱗癬の患者さんは慢性的な脱水に注意が必要です。

瞼や唇の外反

道化師様魚鱗癬や魚鱗癬様紅板症の重症例では、極度に分厚くなって皮膚が弾力を失うため、瞼や唇が反り返ります。耳の変形を伴うこともあり、視覚障害・聴覚障害・栄養障害を合併することも少なくありません。

細菌感染

魚鱗癬の患者さんにとって大きなリスクとなるのが、皮膚からの細菌感染です。皮膚のバリア機能が弱いために細菌が侵入し、皮膚の化膿や発熱が起こりやすくなります。細菌感染が進行すると、敗血症によって死亡することもあります。

皮膚以外の臓器異常

魚鱗癬では皮膚のバリア機能が低下しているため、細菌感染などが契機となってほかの病気を合併するケースがあります。代表的なものが肝臓の障害で、肝硬変や重症肝障害となる場合もあります。

魚鱗癬の検査・診断

魚鱗癬の症状は出生直後からあらわれるため、医師による視診のほか、さまざまな検査で病型を確定します。

遺伝子の特性や病型によって症状の経過は異なり、治療方針も変わるため、病型の確定はとても重要です。

魚鱗癬の検査方法は、以下のようなものがあります。

  • 皮膚の生検
  • 遺伝子検査
  • 皮膚以外の障害の検査

下記の解説を確認しましょう。

皮膚の生検

局所麻酔をしたうえで患者さんの皮膚を一部採取し、電子顕微鏡や蛍光抗体法によって遺伝子の異常を調べる検査です。電子顕微鏡は遺伝子の塩基配列まで見えるため、どの遺伝子に異常があるかを高精度で発見できます。

遺伝子検査

患者さんの血液を5ml程採取し、遺伝子の配列を調べる検査です。以前は狙った遺伝子配列をひとつずつ調べる必要がありましたが、近年では次世代シーケンサーにより、数千種類の遺伝子を一度に調べられます。

皮膚以外の障害の検査

皮膚以外にも障害が認められる場合、魚鱗癬以外の病気がないかを検査します。皮膚科を中心に、内科・外科・眼科・歯科などと連携して診察・治療にあたります。

魚鱗癬の治療

魚鱗癬は遺伝子の異常による先天性疾患であり、根本的な治療方法は現在のところありません。治療は対症療法が基本となり、症状の悪化を防いで、生活の質を高めることを目標とします。魚鱗癬の主な治療方法は、以下の3つです。

  • 皮膚の保湿
  • 栄養補給
  • 感染症の治療

下記の詳細を確認しておきましょう。

皮膚の保湿

魚鱗癬では、皮膚のバリア機能が極端に低下しているため、保湿剤によってバリア機能を補う治療が必要です。どのような保湿剤が適しているかは、症状の程度・身体の部位・季節や気候によって大きく異なるため、医師とこまめに相談してください。一般的にはワセリン軟膏が用いられ、角質が分厚すぎる部位には角質溶解剤を用いることもあります。皮膚の健康を保つ栄養素であるビタミンD3やビタミンA(レチノール)を含有した軟膏も、症状軽減のためによく用いられます。しかし、ビタミンDやビタミンAは多量になると高カルシウム血症や催奇形性などの副作用があるため、医師との相談のもと適切に使うことが重要です。

栄養補給

魚鱗癬の患者さんは皮膚が頻繁に剥がれ落ちるため、皮膚を構成するタンパク質や微量栄養素が大量に失われ、栄養不良となるケースが少なくありません。食事に問題がなければ、毎日十分な栄養と水分を摂ることが推奨されますが、通常の食事を摂れないケースでは点滴や経口栄養剤が用いられます。

感染症の治療

皮膚からの感染症は、魚鱗癬の患者さんが特に注意すべき危険因子です。鱗屑が剥がれ落ちた部位や水疱が破れた部位から感染が生じ、化膿している場合には、抗菌作用のある外用薬を用います。また、抗生物質を内服して感染の拡大を防ぐことが必要です。抗生物質を多用すると腸内細菌に悪影響があるため、日常の食事で食物繊維や発酵食品を多く食べることを意識しましょう。

魚鱗癬になりやすい人・予防の方法

魚鱗癬は遺伝子の異常によって発症する先天性疾患で、なぜ遺伝子に異常が起こるのかはわかっていません。両親が原因遺伝子のキャリアーでなくても、突然変異で発症することもあり、予防や予測は困難です。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性魚鱗癬の患者さんと健常者の夫婦では、子どもが発症する確率は50%です。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性魚鱗癬の場合は、配偶者が原因遺伝子のキャリアーでなければ、子どもは発症しません。患者さんのなかには成長とともに軽快するケースもあるため、症状の悪化や合併症を予防しながら、生活の質を高めていく工夫をしていきましょう。


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