監修医師:
大坂 貴史(医師)
紫斑病の概要
紫斑病とは、皮膚や粘膜に赤や紫の斑点が現れる疾患の総称で、これらの斑点は小さな血管が破れて出血することで生じます。紫斑病は、血液や血管、免疫系の異常によって引き起こされ、軽症のものから重篤なものまで、さまざまなタイプがあります。斑点は痛みを伴わないことが多く、圧迫しても色が変わらないのが特徴です。
紫斑病には、血管に異常が生じる「アレルギー性紫斑病(血管性紫斑病)」や、血小板の減少によって出血しやすくなる「特発性血小板減少性紫斑病(ITP)」など、さまざまな種類があります。多くの場合、出血は皮膚の表面に現れるだけでなく、内臓や関節、腎臓などにも影響を及ぼすことがあります。重症の場合、内出血や臓器の障害を引き起こし、治療が必要となることもあります。
紫斑病は、子どもから高齢者まで幅広い年齢層に発症しますが、特に小児に多いアレルギー性紫斑病と、成人に多い特発性血小板減少性紫斑病がよく知られています。早期に診断し、適切な治療を行うことで、多くの場合は回復しますが、放置すると合併症を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
紫斑病の原因
紫斑病の原因は、血管や血小板、免疫系の異常によって異なります。
以下は、紫斑病の主要な原因とそれに関連するメカニズムです。
血管の損傷や炎症
- アレルギー性紫斑病:
アレルギー性紫斑病(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病とも呼ばれます)は、免疫反応によって血管が炎症を起こすことで、血管が破れやすくなり、出血が起こる病気です。
この病気は主に小児に見られますが、成人にも発症することがあります。感染症(風邪や咽頭炎など)や薬物、食物に対するアレルギー反応が引き金となることが多く、血管壁が弱くなることで、血液が漏れ出し、紫斑が形成されます。 - 血管の脆弱性:
高齢者では、血管が加齢によって弱くなることがあり、軽い打撲や圧力でも血管が破れて出血し、紫斑が現れやすくなります。特に、皮膚が薄くなっている部分や、長期間ステロイド治療を受けている患者では、血管が脆弱になり、紫斑が発生するリスクが高くなります。
血小板の減少
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP):
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、免疫系が誤って自分の血小板を攻撃し、破壊することによって血小板が減少し、出血しやすくなる病気です。血小板は血液凝固に重要な役割を果たしており、これが減少すると小さな血管からの出血が止まりにくくなり、紫斑が発生します。ITPは、急性型と慢性型に分類され、急性型は主に子どもに多く見られ、感染症がきっかけで発症することが多いです。 - 血液疾患:
血液の疾患、特に白血病や骨髄異形成症候群などの病気は、血小板の産生が低下し、紫斑が発生する原因となります。また、抗がん剤治療や放射線治療を受けている患者も、血小板が減少しやすく、出血リスクが高まります。
免疫系の異常
紫斑病の多くは免疫系の異常によって引き起こされます。免疫系が過剰に反応したり、誤って自分の組織を攻撃したりすることで、血管や血小板が影響を受け、出血が生じます。例えば、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患では、免疫系が血管や血小板にダメージを与え、紫斑を引き起こすことがあります。
外傷や薬物の影響
紫斑病は、外傷や薬物の副作用として発症することもあります。
例えば、アスピリンやワルファリンなどの抗凝固薬や血小板機能を抑制する薬物は、出血しやすくするため、紫斑が現れることがあります。
また、血小板の機能に影響を与える薬物の長期使用もリスクを高める要因です。
紫斑病の前兆や初期症状について
紫斑病は、主に皮膚に現れる赤や紫色の斑点が特徴的な症状ですが、その他の前兆や初期症状もあります。
これらの症状は、原因やタイプによって異なり、時には全身の症状が現れることもあります。
- 皮膚の紫斑:
紫斑病の最も典型的な症状は、皮膚に現れる赤や紫色の斑点です。
これらの斑点は、血管が破れて血液が皮膚の下に漏れ出した結果であり、圧迫しても色が変わらないのが特徴です。
紫斑の大きさや形は様々で、点状のものから大きな斑点まで見られます。一般的に痛みを伴わないことが多いですが、場合によってはかゆみや軽い不快感を感じることがあります。 - 関節痛や腫れ:
アレルギー性紫斑病の場合、紫斑とともに関節痛や腫れが現れることがあります。特に膝や足首などの関節が腫れ、痛みを感じることがあり、歩行が困難になることもあります。この症状は、血管炎が関節に影響を与えるために発生します。 - 腹痛や消化器症状:
アレルギー性紫斑病では、消化器にも血管炎が及ぶことがあり、腹痛や吐き気、下痢などの消化器症状が現れることがあります。重症の場合、消化管の出血や腸閉塞などが発生することもあり、緊急の治療が必要となることがあります。 - 尿に血が混じる(血尿):
アレルギー性紫斑病やITPでは、腎臓に炎症が起こることがあり、尿に血が混じる血尿が見られることがあります。特にアレルギー性紫斑病では、腎臓の機能障害が発生し、長期的に腎臓病に進行するリスクもあります。 - 倦怠感や全身のだるさ:
紫斑病の患者は、血管や血液の異常によって全身の倦怠感やだるさを感じることがあります。特に、慢性的な紫斑病では、貧血や免疫系の異常が進行し、体力の低下や疲労感が強くなることがあります。
紫斑病の患者は、血管や血液の異常によって全身の倦怠感やだるさを感じることがあります。
特に、慢性的な紫斑病では、貧血や免疫系の異常が進行し、体力の低下や疲労感が強くなることがあります。
紫斑病の検査・診断
紫斑病の診断は、症状や病歴をもとに行われますが、さらに詳しい検査が必要な場合もあります。
以下は、紫斑病の診断に使用される主な検査方法です。
身体検査
医師は、まず患者の皮膚の状態を確認し、紫斑の広がりや特徴を調べます。また、関節や腹部の痛み、腫れがないかどうかも確認します。紫斑の形や大きさ、圧迫による変化が診断の手がかりとなります。
血液検査
血液検査では、血小板の数や凝固因子の機能を評価します。ITPの場合、血小板の数が減少していることが確認されます。また、血液中の炎症マーカーや免疫反応の異常を調べることで、アレルギー性紫斑病や自己免疫疾患の診断をサポートします。
尿検査
尿検査では、腎臓の機能を評価し、血尿やタンパク尿がないかを確認します。アレルギー性紫斑病では、腎臓に炎症が及ぶことがあり、尿に異常が見られることがあります。
画像検査
消化器症状がある場合や、腹部に痛みがある場合には、超音波検査やCTスキャンが行われることがあります。これにより、内臓に炎症や出血がないかを確認します。
骨髄検査
血小板が異常に減少している場合、骨髄の機能を評価するために骨髄検査が行われることがあります。特に、白血病や骨髄異形成症候群などの血液疾患が疑われる場合に有効です。
紫斑病の治療
紫斑病の治療は、原因や症状の重さによって異なります。
軽症の場合は自然に治癒することもありますが、重症の場合や合併症がある場合には積極的な治療が必要です。
アレルギー性紫斑病の治療
アレルギー性紫斑病は、通常は軽症で自然に回復することが多いですが、症状が重い場合や合併症がある場合には治療が行われます。
ステロイド
アレルギー性紫斑病の治療には、炎症を抑えるためにステロイドが使用されることがあります。特に関節の腫れや腹痛、腎機能障害がある場合には、ステロイドが効果的です。
鎮痛薬
関節痛や腹痛を和らげるために、鎮痛薬が処方されることがあります。ただし、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、出血リスクを高めることがあるため、使用には注意が必要です。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の治療
免疫抑制剤
ITPの治療には、免疫系が誤って血小板を攻撃しないように、免疫抑制剤が使用されます。これにより、血小板の減少を防ぎ、出血のリスクを軽減します。
ステロイド
ITPの治療には、ステロイドが一般的に使用されます。ステロイドは免疫系を抑制し、血小板の破壊を防ぎます。症状が軽快するまでの間、短期間使用されることが多いです。
免疫グロブリン療法
重症のITPや急性の出血がある場合には、免疫グロブリン療法が行われることがあります。この治療法は、速やかに血小板を増加させる効果があり、緊急時に使用されます。
脾臓摘出術
慢性的なITPで、薬物治療が効果を示さない場合には、脾臓摘出術が検討されることがあります。脾臓は血小板を破壊する役割を果たしているため、これを摘出することで症状の改善が期待できます。
その他の治療法
血液疾患が原因で紫斑病が発生している場合には、抗がん剤治療や骨髄移植など、基礎疾患の治療が行われます。
また、外傷や薬物が原因で発症した場合には、出血を抑えるための治療や薬物の中止が必要です。
紫斑病になりやすい人・予防の方法
紫斑病になりやすい人
紫斑病は、特定のリスク要因を持つ人に発症しやすいです。
以下は、紫斑病のリスクが高い人々です。
- 小児:
アレルギー性紫斑病は、特に5歳から15歳までの小児に多く見られます。感染症やアレルギー反応が引き金となることが多いため、風邪や咽頭炎の後に発症することがあります。 - 高齢者:
加齢により血管が脆くなり、紫斑が発生しやすくなります。また、血小板の産生が低下することもあり、出血リスクが高まります。 - 免疫抑制薬や抗凝固薬を使用している人:
免疫抑制剤や抗凝固薬を使用している人は、出血のリスクが高く、紫斑が発生しやすくなります。
予防の方法
紫斑病を完全に予防することは難しいですが、いくつかの方法でリスクを軽減することができます。
- 感染症予防:
アレルギー性紫斑病は、感染症がきっかけで発症することが多いため、手洗いやうがい、予防接種など、感染症予防を徹底することが大切です。 - 薬の使用に注意:
抗凝固薬や血小板機能を抑制する薬を使用している場合は、医師と相談しながら適切な用量で使用することが重要です。また、自己判断での薬の中止や調整は避けましょう。 - 定期的な検診:
血液疾患や自己免疫疾患のリスクがある人は、定期的に検診を受けることで、早期発見と早期治療が可能になります。
参考文献