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高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

稗粒腫の概要

稗粒腫とは、角化細胞(表皮を構成する細胞)もしくは皮膚付属器(毛包、汗管、脂腺)の成分が表皮直下で袋状に増殖して生じたものです。

うぶ毛や汗の出口が真皮から表皮につながる部分になんらかの理由で障害がおきると、出口を失った角質(ケラチンというタンパク質)が皮膚の内側に溜まってしまうために生じると考えられています。

囊腫内には角質塊が溜まっています。

直径1〜2mm程度の白色や黄白色で、半球状に盛り上がった丘疹です。
全年齢層にできるとされ、通常は自然に消失することはありません。
目の周りに生じやすいとされますが、水疱ができるような熱傷や皮膚疾患が治った後にできることもあります。

稗粒腫の原因

稗粒腫の原因は、腫瘍(原発性)や皮膚の炎症の後の反応(続発性)の2種類があります。

原発性のものは、胎生期の上皮芽の迷入により角化性囊腫が形成されて発症すると考えられています。
特に誘因はないとされています。
原発性稗粒腫は、軟毛の毛包漏斗部下部の脂腺導管に由来します。

続発性のものは、水疱症(栄養障害型表皮水疱症、後天性表皮水疱症など)、熱傷瘢痕、放射線皮膚炎、外傷などに引き続いて生じます。
付属器や角化細胞がこれらの疾患によって破壊され、表皮下で囊腫状に増殖して発症します。
続発性稗粒腫は多くの場合、エクリン汗管(汗を出す管)に由来します。

稗粒腫の前兆や初期症状について

帽針頭大~粟粒大(1〜数mm)の白〜黄白色の境界明瞭な硬い半球状に盛り上がった丘疹です。
表面は平滑で中央の小さなへこみ(中心臍窩)はなく、下床との可動性は良好です。
表皮直下に囊腫状構造が存在するため、その上の表皮が押し上げられ、周囲の平坦な皮膚より明確に隆起する境界明瞭な丘疹を形成します。
角質塊を有するため、内容物の硬さを反映して硬く触知されます。

また、皮膚の浅いところ(表皮直下)に存在するため、皮膚を通して囊腫内の角質塊が透けて見え、白〜黄白色に見えます。
疼痛や瘙痒などの自覚症状はありません。
単発のものから多発するものまであります。

原発性は新生児稗粒腫と、小児および成人の原発性稗粒腫に分けられます。
新生児稗粒腫は40〜50%の新生児に生じます。
顔面、特に鼻部に好発します。
人種、性差はなく、生後1カ月くらいまでに自然に消えます
成人の原発性稗粒腫は眼瞼周囲に好発し、その他にも、頰部、額部、陰茎や陰唇によく見られます。

続発性は皮膚の損傷に伴い、損傷部の角化細胞もしくは付属器が破壊され、治癒する過程で囊腫状に増殖することによって生じます。
このため、さまざまな部位に生じることがあります。

稗粒腫は多発奇形を生じる遺伝子疾患(特に基底細胞母斑症候群)の一症状として現れる場合があります。
皮膚科領域では、基底細胞母斑症候群(basal cell nevus syndrome, BCNS)、Gorlin症候群に合併した例をよくみかけます。
BCNSはPTCH1遺伝子の異常により常染色体顕性(優性)遺伝の疾患であり、多発基底細胞癌角化嚢胞性歯原性腫瘍手掌または足底小陥凹大脳鎌石灰化肋骨奇形を特徴とします。
稗粒腫はBCNSの30%程度に生じます。

稗粒腫の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、皮膚科です。
稗粒腫は皮膚にできる小さな嚢胞であり、皮膚科で診断と治療が行われています。

稗粒腫の検査・診断

臨床から診断が可能であるので、特に検査は必要ではありません。
皮疹の観察にはダーモスコピーが有用です。
MRIや超音波といった検査は病変がとても小さいため、有意な結果を得られにくいと考えられます。
ほかの診断と迷った場合は、パンチ生検(組織を一部とって顕微鏡の検査で調べる)が有用です。

稗粒腫は特徴的な分布、皮疹から臨床診断が容易ですが、時にほかの疾患との鑑別に迷うことがあります。

尋常性ざ瘡(ニキビ)

尋常性ざ瘡は思春期以降に見られる、毛穴の周りにできる炎症性の病気です。
赤い小さなこぶ(結節)が散らばって見られます。
また、結節をこえて紅色丘疹が見られ、炎症が周囲に広がっていることがわかります。
毛穴に一致する皮疹も見られます。
稗粒腫がドームのように急に盛り上がるのに対して、尋常性ざ瘡の皮疹はなだらかに盛り上がります。

汗管腫

汗管腫は30代以上の女性の目の周りにできやすい、皮膚色から赤色の小さな結節です。
稗粒腫と区別するのが難しい場合があります。

また、組織学的に両方の特徴を持つ例も報告されています。
汗管腫はエクリン汗管(汗を出す管)の増殖によってできるため、自然に消えることはありません。
汗管腫の結節はなだらかに盛り上がり、結節が集まると個別の結節を見分けるのが難しいです。

青年性扁平疣贅

主にヒトパピローマウイルス(HPV)3、10、28が皮膚に感染して生じる疾患です。
顔面や手の甲に常色ないし淡褐色の扁平な隆起性の皮疹が多発します。
青年性扁平疣贅は、急に発赤やかゆみなどの炎症反応を生じ、自然に消失することがあります。

伝染性軟属腫

伝染性軟属腫では、境界がはっきりとしていて、急に立ち上がったように見える白い丘疹が現れることがあります。
内容物は柔らかく、中心には小さなへこみ(中心臍窩)が見られるようになることがあります。

脂腺増殖症

脂腺増殖症でも黄白色の小さな丘疹が見られますが、稗粒腫と比べると横幅に比べて高さが低く、より平らに見える丘疹です。
また、中心に小さなへこみ(中心臍窩)があり、脂腺増殖症の方が稗粒腫よりもサイズが大きいことが多い傾向です。

稗粒腫の治療

基本的にはうつらず、悪性化することもないため、積極的な治療は特に必要ありません。

小児および成人の原発性稗粒腫は、新生児の稗粒腫よりも自然に消えることが少ないとされています。
続発性稗粒腫も突然良くなることがありますが、自然に消えることはあまりありません。

切除を希望される場合は外科的処置が必要となります。
注射針やメスで小切開し、圧出器やピンセットで白色球状の内容物を排出する方法や、CO2レーザーによる治療法があります。

稗粒腫を取った後は少し赤みがありますが、通常は数日程度で傷口が治ります。
医療機関によって対応している方法が異なる場合があります。
CO2レーザーを使用する場合は自由診療となるため事前に確認することをおすすめします。
続発性の場合はまず基礎疾患による皮膚炎のコントロールを行う必要があります。

稗粒腫になりやすい人・予防の方法

皮膚をこする習慣がある人がなりやすいとされています。
老化や生活習慣の乱れによってターンオーバーが滞っていることも原因となります。
ターンオーバーが滞ると余分な角質が適切に排出できず、結果的にケラチンが溜まっていくと思われます。
一度治療しても原因が取り除かれないと再発する可能性があります。

日々の洗顔で、こすらないようやさしく泡で洗顔する、保湿剤を塗って乾燥を防ぐ、強いマッサージは避けることなどが大切です。
肌にダメージを与える紫外線への対策として日焼け止めを塗る、帽子を被ることなどもすすめられます。

また、角質のケアとしてケミカルピーリングを行い、酸の力で皮膚の余分な角質層を剥がすことも良いとされています。

また続発性の稗粒腫の原因となる疾患がある場合は医療機関での適切な治療を受ける必要があります。

参考文献

  • あたらしい皮膚科
  • medicina 57巻 11号 pp. 1944-1945(2020.10)
  • 小児内科 54(8): 1412-1414, 2022
  • 皮膚科の臨床 63巻6号(2021.6)

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