

監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
目次 -INDEX-
モートン病の概要
モートン病(Morton’s neuroma)は、足の指の付け根にある神経が圧迫されて炎症を起こす状態を指します。
一般的には、足の第3・第4中足骨の間で発生することが多く、中年女性に多く見られます。
この病気は指の先に向かう神経の周囲が腫れることにより、強い痛みが足の指の付け根から指先にかけて生じます。
1876年にトーマス・モートンという名の医師が発見したことで、モートン病、またはモートン氏病と呼ばれるようになりました。
指の間を走っている神経がコブのように腫れる見た目から、別名「モートン神経腫」とも言われています。
モートン病は女性に多い傾向にありますが、つま先に負担がかかり続けるような環境下においては、性別、年代に関わらず誰でも発症する可能性があります。
この病気は足の神経が圧迫されることによって生じるため、特にハイヒールをよく履く人や、ランニングや跳躍を伴うスポーツを行う人に多く見られます。
また、足の解剖学的な問題や靴の形状も影響するため、適切な靴選びが予防に重要です。
モートン病は生活の質に大きな影響を及ぼすため、早期の発見と治療が不可欠です。
モートン病の原因
モートン病の原因として挙げられるのは、つま先立ちの状態が長く続くことによるつま先への負担です。
例えばハイヒールの常用や、中腰の状態で前方に体重がかかる姿勢、バレエ、ダンスなどつま先を酷使するスポーツが考えられます。
これらの動作は、足の前方に圧力をかけ、神経を圧迫する要因となります。
特にハイヒールは、足の前部に体重を集中させるため、神経への圧迫が強くなります。
足の指の付け根には「中足趾節関節(MP関節)」という関節があります。
足の指先へとつながる神経は、中足骨の間をつなぐ靱帯(深横中足靱帯)のすぐ足の裏側を通っています。
MP関節付近で圧迫が生じると、靱帯付近で神経が圧迫されることになり、痛み、しびれといった症状が現れます。
また、足指の関節の変形(マレット指)がある場合も、結果的につま先立ちと同様な姿勢となるため、発症リスクが高まります。
それ以外では、外反母趾、扁平足といった足の変形により神経が圧迫されることで生じる場合もあります。
これらの足の形態異常は、足の骨格に不均衡をもたらし、特定の部分に過剰なストレスを与える原因となります。
また、肥満や体重の急激な増加も、足の構造に過度な負担をかけ、モートン病のリスクを高める要因となります。
モートン病の前兆や初期症状について
モートン病の初期症状としては、足の指の違和感や感覚の異常が見られることが多いようです。
その箇所は個人差もありますが、主に足の人差し指、中指、薬指の間で痛み、しびれといった神経症状が現れます。
初期においては、使用している靴の種類や運動の強度などによって症状が出たり出なかったりという程度であることが多く、歩けないほどの痛みでもない限り症状が見過ごされがちです。
つま先に負担がかかり続け、神経への圧迫や変形が進むと突如として灼けるような激痛(灼熱痛)が出ることもあります。
この灼熱痛は、足を圧迫する靴を履いているときに特に顕著になり、靴を脱ぐことで一時的に和らぐことが多い傾向です。
また、痛みは歩行や走行によって悪化し、長時間の立ち仕事や運動後に増強する傾向があります。
人によっては足の甲やふくらはぎにまで症状が及ぶこともあります。
神経の圧迫が進行すると、足の甲やふくらはぎにかけて痛みが放散し、長時間の歩行や立ち仕事が困難になることもあります。
このため、早期に症状を認識し、適切な対策を取ることが重要です。
足の感覚異常や軽い痛みを放置すると、慢性的な問題に発展する可能性があります。
モートン病の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、整形外科です。
モートン病は足の神経の圧迫による痛みであり、整形外科で診断と治療が行われています。
モートン病の検査・診断
モートン病の診断は、主に患者さんの症状と患部の診察に基づいて行われます。
検査には以下の方法があります。
モルダーテスト
足の前側を挟むように横方向からの圧を加え、痛みがあるかどうかを確かめます。
痛みがある場合、モートン病が疑われます。このテストは簡便で、診察室でもすぐに行えるため、初期診断に広く用いられています。
ティネルサイン
痛みのある場所を検査用の器具で叩き、しびれや痛みの広がりがあればモートン病が疑われます。
この検査は神経障害の有無を確認するためのもので、モートン病の診断の補助として利用されます。
上記の検査の結果、モートン病の可能性が疑われる場合、必要に応じてレントゲン、MRI、超音波、筋電図などの検査を行い、確定診断を行います。
レントゲンで骨の異常を確認し、超音波検査やMRIでは神経の肥大の状態を確認して圧迫が起きていないか、筋電図検査では電気の刺激により筋肉や神経に異常がないかを調べます。
MRIは神経腫の存在やその大きさを詳細に描写できるため、診断に非常に有用です。
また、超音波検査は動的な評価が可能であり、神経の状態をリアルタイムで観察できるため、診断の精度を高める手段として利用されます。
これらの画像診断により、ほかの疾患との鑑別を行い、正確な診断を下すことができます。
モートン病の治療
モートン病の治療は症状の重さや持続期間によっても異なりますが、基本的には保存療法または手術療法が用いられます。
保存療法
日常生活のうえでつま先に負担のかかりにくい靴を履く、インソールなどを使って靴にクッション性を持たせるなど、足に合う履き物を選ぶことです。
そのほか、つま先に負担が生じる中腰での作業を控える、また、痛みに合わせて湿布や鎮痛剤、ステロイド注射を用いることもあります。
つま先に負担がかかるような動作の癖がついてしまっている場合は、リハビリテーションとして運動療法や足底のアーチを保つ器具を使用していきます。
手術療法
保存療法でも効果が得られず、強い痛みが続いて日常生活に支障が出る場合は手術を選択することもあります。
手術では神経を圧迫している箇所を除去したり、痛んだ神経を取り除いたりします。
治療方法については患者さんごとの症状や状況を考慮して決められます。
モートン病になりやすい人・予防の方法
モートン病になりやすい傾向にある人には、以下のような特徴が見られます。
- ヒールの高い靴を常用している人
- サイズが合わない、硬い、重いといった靴を履き続ける人
- つま先立ちや中腰の姿勢が続く人
- ランニングをよくする人
- 外反母趾の人
- 扁平足の人
主な原因にハイヒールが挙げられることもあってか、男性よりも女性に多く、特に中年以降の女性に多いとされています。
足の形としては、開張足と言われるような幅が広く甲が薄い形状の足に多い傾向があります。
予防のために注意したい点としては、まず何よりも足に合った靴を選び、足の前方に過度な圧力がかからないようにすることです。
こまめに足のマッサージやストレッチを行い、筋肉や腱の柔軟性を保つことも大切です。
また、過度なランニングは足にかかる負担も大きいため、運動の強度に気をつけるとともに、足への負担という意味では適切な体重管理も重要となります。
そのほか、モートン病は足底のアーチが低下することによって生じることが多いため、足の状態に合わせて適切なインソールなどを用いることでも予防効果が期待できます
モートン病を効果的に予防し、発症を避けるためには、日常的な足のケアが重要です。
特に、足に負担をかける要因を取り除き、適切な靴選びや足のストレッチを習慣化することが健康な足を保つ鍵となります。
足の健康を守ることで、モートン病のリスクを大幅に減らし、痛みのない快適な生活を送ることができるでしょう。
参考文献