監修医師:
高藤 円香(医師)
陥入爪の概要
陥入爪(かんにゅうそう)とは、爪の端が周りの皮膚に食い込んでしまうことで、痛みや腫れが生じたり、さらに傷ができたり膿んでしまったりしている状態のことです。
ときに出血しやすい肉芽を伴う疾患です。
巻き爪も陥入爪も同じ意味合いで表現されることが多いですが、厳密には異なる状態です。
巻き爪は爪が横方向に大きく曲がり、爪の下の皮膚をつかむように巻いてしまっている状態です。
それぞれが合併することも少なくありません。
陥入爪の原因
陥入爪の主な原因は、以下のような要因が挙げられます。
不適切な爪の切り方
爪を深く切りすぎたり、角を丸く切りすぎると、爪の側端が皮膚に食い込みやすくなります。
特に、深爪は爪棘(そうきょく)と呼ばれる棘状の爪の切り残しを生じさせ、これが皮膚に刺さって炎症を引き起こします。
靴の圧迫
サイズの合わない靴やきつい靴、圧迫の強い靴下の着用による爪の圧迫が原因となります。
特に、つま先が狭い靴やハイヒールなどはリスクが高くなります。
オーバーサイズネイル(幅広い爪)や巻き爪といった爪の変形が陥入爪の原因になります。
これらの変形により、爪が皮膚に食い込みやすくなります。
足の変形
扁平足や外反母趾などの足変形が原因となることがあります。
これにより、足全体のバランスが崩れ、爪に過度な圧力がかかることがあります。
足のむくみ
足のむくみによって爪が食い込みやすくなります。
爪白癬(爪の水虫)
爪の水虫が原因となることがあります。
爪白癬は爪を脆くし、爪が割れやすくなるため、爪棘が発生しやすくなります。
水虫のチェックも必要です。
外傷
スポーツや事故などで足に外傷を受けると、爪が割れたり欠けたりして陥入爪になることがあります。
また、スポーツや長時間の立ち仕事などで足に繰り返し負担がかかることも原因となります。
遺伝的要因
家族に陥入爪がいる場合、同じ問題が発生しやすい傾向があります。
爪の形状や足の構造自体が陥入爪を引き起こしやすいこともあります。
過度な発汗や湿度
足が湿っている状態が続くと、皮膚が柔らかくなり、多汗があると爪甲が薄くなり、汗の影響で爪が浸軟します。
その状態で外力が加わると爪が食い込みやすくなります。
これは特に多汗症の人や湿度の高い環境で長時間過ごす人に見られます。
陥入爪の前兆や初期症状について
爪の端が周囲の皮膚を損傷し、慢性の刺激が加わることで周囲の皮膚が赤く腫れ上がり、痛みを伴います。
時に細菌感染を合併します。
また、進行すると出血しやすい肉芽を形成し、肥厚します。
陥入爪の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、皮膚科です。
陥入爪は爪が皮膚に食い込む状態であり、皮膚科で診断と治療が行われています。
陥入爪の検査・診断
基本的には診察で診断がつくため特別な検査を必要としないことがほとんどですが、レントゲンなどの画像検査で骨の変形を見ることがあります。
また、白癬(水虫)が疑われた場合は、一部組織をとって顕微鏡でみる検査を行います。
細菌感染の合併が疑われる場合には血液検査や細菌培養検査を行うことがあります。
また、末梢動脈疾患や糖尿病がある場合は、爪の処置をきっかけに壊疽や潰瘍を形成したりする場合があるため事前に血流評価などを行うことがあります。
陥入爪の治療
陥入爪の治療は大きく分けて保存的治療と外科的治療(根治手術)に分けられます。
爪棘とその爪棘が刺さっている爪郭への対処と考えると理解しやすいです。
短期間での治療を希望される場合や、保存的治療が無効あるいは再発を繰り返すような場合に形成外科で手術を行います。
保存的治療として、爪の端と皮膚が接する部分の保護法と、矯正具による爪矯正法があります。
保護法
肉芽除去、爪甲(爪棘)部分切除、テーピング法、コットンパッキング法、ガター法(チューブ)、アクリル人工爪などが挙げられます。
軽症例では、テーピング法やコットンパッキング法で治癒することが多い傾向です。
これらの治療は、生じた爪棘をこれ以上、側爪郭に食い込ませないように保護して炎症をとる保存的な治療方法です。
爪矯正法
ワイヤー法、クリップ法、プレート法、爪甲剥削法、爪甲軟化法、爪アイロン法などがあります。
これらは爪の弯曲を平らにする方法です。
外科的治療は、陥入している爪の端と爪母(爪を作り出す組織)を除去することによって、爪の幅を狭くして、変形や食い込み部分をなくす根治的治療です。
陥入している爪甲を部分的に抜爪した後に、化学薬品であるフェノールを用いて爪母を腐食させるフェノール法、爪の横の部分を楔状に切除する鬼塚法や児島法があります。
ほかにも爪母を温存する爪甲側縁模状切除術など、さまざまな手術方法があります。
最近では、より侵襲の少ないフェノール法が広く行われています。
指の局所麻酔による日帰り手術で、手術直後から歩行できます。
その他の陥入爪の治療として、液体窒素凍結療法やステロイド外用療法も行われます。
しかし、これらの治療は陥入爪そのものではなく、陥入爪によって生じた肉芽の治療です。
もし陥入爪の原因である爪棘が既に取り除かれているのであれば、肉芽の治療として液体窒素凍結療法やステロイド外用療法を行うことは適切です。
しかし、爪棘が残っている場合、これらの療法では陥入爪の根本的な原因解決にはならないことに注意が必要です。
陥入爪の原因が取り除かれているかどうかが重要です。
治療に使用する道具や方法によっては、保険適用外の治療となることがありますので、詳細は医療機関にお聞きください。
陥入爪になりやすい人・予防の方法
陥入爪の原因となる爪棘を生じる原因は年代によって異なります。
若年者では爪甲が薄いため、スポーツや外傷などの外的刺激で爪甲が割れて爪棘を生じることが多い一方、高齢者では爪甲が厚く、巻き爪を伴っていることが多い傾向です。
また、身体が硬くて足の爪まで手が届かないため、爪切り自体が難しく、その結果として爪棘が生じることがあります。
いずれの年代でも、深爪や合わない靴、肥満などが陥入爪の原因となり得ます。
陥入爪の予防法として以下のことがあげられます。
圧迫を避ける
フットウェアの選択、調整をして爪が強く圧迫されないようにします。
正しい爪切りを行う
- 爪を切る前に足を温水に浸して柔らかくし、爪が割れないようにします。
- 爪はまっすぐに切り、角を丸めすぎないようにします。
- 爪を切る際には、少しずつ慎重に切り進めることが重要です。
- 切り終わった後は、爪の角をやすりで滑らかに整えます。
特に母趾は基本的にはスクエアオフカット(爪の長さは、指先と同じくらいにそろえ、全体的な形は、角に少し丸みのある四角形に整えるようにする)が推奨されます。
高齢者など自分自身でケアができない場合は、家族や介護者の方に正しい爪切りをしてもらうことが重要です。
フットケア(足のお手入れ)を行う
皮膚のキズや感染を防ぐために、衛生的にきちんと洗い、保湿を心がけます。