監修医師:
高藤 円香(医師)
手湿疹(主婦湿疹)の概要
手湿疹とは
手湿疹は、手に接触する物質の刺激やアレルギーによって生じる皮膚疾患で、正式には「接触皮膚炎」といいます。
手には皮脂腺が少ないため、とても乾燥しやすい器官です。
乾燥すると皮膚のバリア機能が損傷され、その部位に刺激物やアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)が接触すると手湿疹を発症します。
手湿疹の症状は、手のひら、手背、指間などに、皮膚の赤みや、小さいブツブツ、水疱や亀裂などが単独あるいは混在して見られます。
かゆみや痛みを伴うこともあります。
手湿疹は、発症の機序による分類と湿疹の形態による分類ができます。
発症の機序による分類には、「刺激性接触皮膚炎」、「アレルギー性接触皮膚炎」、「蛋白質抗原に対する接触皮膚炎」などがあります。
「刺激性接触皮膚炎」は、手湿疹の約7割を占め、洗剤などの刺激物が直接手に触れることによって起きます。
原因となる刺激物が日常的に触れるために経過が長期化することも多く見られます。
利き手側の指先や手掌、爪周囲などに好発し、軽度の紅斑からはじまり、慢性化すると苔癬化、皮膚の肥厚や亀裂が目立つようになります。
アレルギー性接触皮膚炎は、アレルギーを起こす化学物質(アレルゲン)によって生じる皮膚炎です。
原因物質が接触した部位から症状が出るため、指先や母指球や手背側が好発部位となり、指間や手首や前腕に皮疹が見られることもあります。
蛋白質抗原に対する接触皮膚炎は、アレルゲンに対する即時型アレルギーの症状を示します。
アレルゲンを取り除くと通常数時間以内に症状が消える点がアレルギー性接触皮膚炎と異なります。
また、湿疹の形態による分類には、「角化型手湿疹」、「進行性手掌角化症」、「貨幣状型手湿疹」、「再発性水疱型(汗疱型)手湿疹」、「乾燥・亀裂型手湿疹」があります。
角化型手湿疹は、境界明瞭な厚い鱗屑が手掌に見られ、時に亀裂を伴います。小水疱や明らかな紅斑は見られません。中年以降の男性に好発し、原因不明な場合が多いとされています。
進行性指掌角化症は、指先や指腹が乾燥して指紋が見られなくなり、さらに悪化すると亀裂が生じます。
これらの症状は、皮膚のバリア機能の低下と繰り返す刺激が原因で起こります。
貨幣状型手湿疹は、主に手背に貨幣大の円形で痒みが強い湿疹が見られるのが特徴です。
再発性水疱型(汗疱型)手湿疹は、手掌、手指側縁に両側性、対称性に小水疱が多発し、強い痒みを伴います。
小水疱は次第に乾燥して落屑し、周囲に紅斑を伴うようになります。
足底にも同様の病変が見られることもあります。
乾燥・亀裂型手湿疹は、手掌、手指全体の乾燥と亀裂が特徴の慢性手湿疹です。
主婦湿疹とは
「主婦湿疹」と「手湿疹」は、どちらも手に発生する皮膚疾患で、基本的に同じ症状を指す言葉です。
主婦湿疹は、特に水仕事を頻繁に行う人々によく見られる湿疹を指し、指先や指腹が乾燥して指紋が見られなくなり、さらに悪化すると亀裂が生じます。
これらの症状は、女性に多く見られるため「主婦湿疹」と名付けられました。
しかし、男性より女性の方が罹患率が高いのは遺伝的要因ではなく、主に家事を担う人や理・美容師、看護師などの職業に女性の割合が多いことが関係しているといわれています。
原因となる洗剤や薬品などの刺激物が日常的に触れるために経過が長期化することも多く見られます。
これらのことから「主婦湿疹は、手湿疹の中で進行性指掌角化症の症状を示すことのある刺激性接触皮膚炎である」といえます。
手湿疹(主婦湿疹)の原因
刺激性接触皮膚炎は、洗剤や化粧品、化学物質、薬品、食品(肉・魚・野菜など)、樹液などの植物由来の物質、衣類や紙による摩擦などによる刺激が主な原因です。
アレルギー性接触皮膚炎を引き起こす化学物質には、ニッケル、クロムなどの金属、ゴム製品、洗剤やシャンプーの成分、毛髪用の染料の成分、ウルシやキクなどの植物があります。
それ以外にも、手に 触れるすべてのものがアレルギーの原因になりうるとされています。
蛋白質抗原に対する接触皮膚炎の主なアレルゲンには、食品(果物、野菜、香辛料、肉、魚類、エビやカニなどの甲殻類、乳製品)やラテックスなどがあります。
いずれの場合も、原因の特定には詳細な情報が必要です。
受診の際に、「日常生活の中で常に触れる刺激物がないか」「触れると必ず症状が出たり、悪化するものがないか」「症状が出る(または悪化する)までにどのくらい時間がかかるか」「皮膚症状がどこに出るのか」などの情報を提示すると原因を確定するのに役立ちます。
手湿疹(主婦湿疹)の前兆や初期症状について
指や手がかさつきや皮膚の突っ張るというような乾燥の状態があり、手の赤み(紅斑)、かゆみ、小さなブツブツ(丘疹)やひび割れなどの症状が現れた場合は注意が必要です。
手湿疹の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、皮膚科です。
手湿疹は手の湿疹やかゆみを引き起こす皮膚の疾患であり、皮膚科で診断と治療が行われています。
手湿疹(主婦湿疹)の検査・診断
検査
アレルギー性の手湿疹が疑われる場合、血液検査やアレルゲンを特定するためにパッチテストやプリックテストが行われます。
また、手湿疹と似た疾患(細菌、真菌、疥癬の感染症)の鑑別をするために、皮膚生検を行うこともあります。
診断
手掌に乾燥や赤味が見られるなどの皮膚の変化、患者さんの職業やウェットワークに関すること、使用している化粧品などの情報から診断が行われます。
手湿疹(主婦湿疹)の治療
手湿疹の原因(接触アレルゲン、接触刺激因子)を回避することが大切です。
また、保湿剤の塗布や保護手袋の着用に関する生活指導を行います。
炎症を伴う場合には、ステロイド外用剤を用います。
手は外用剤の吸収効率が悪いため、ステロイド外用剤の強さのランクでストロングクラスのものを用いて、1日2回塗布します。
また、かゆみがあるときは抗ヒスタミン薬の内服を併用します。
これは患部をかきむしると皮膚バリアが障害され、皮疹が悪化する悪循環を避けるのに有効です。
ステロイド外用剤の開始から4週間後に症状の評価を行います。
症状が軽快している場合は、ステロイド外用剤を減量するか強さのランクを下げる、あるいはタクロリムス軟膏に変更して経過を観察します。
ステロイド外用剤の減量は、1日1回塗布または隔日に塗布するなど、塗布する回数を減らすことで行います。
4週間後に症状が軽快していない場合は、原因の回避と保湿剤や保護手袋の使用がきちんと行われていることを確認した後、ステロイド外用剤の増量またはベリーストロングまでランクをあげて4週間経過を見ます。
それでも軽快しない場合は、光線療法、ステロイドや免疫抑制剤の内服による全身療法を行います。
手湿疹(主婦湿疹)のなりやすい人・予防の方法
なりやすい人
アトピー素因を有している人は、皮膚のバリア機能の低下をきたしている可能性が高く、刺激性接触皮膚炎を発症しやすい状態にあります。
主婦、理・美容師、医療従事者、飲食業、建設業など、手を頻回に洗ったり、手袋類(革・ゴム・プラスチックなど)を着用する機会の多い職種に従事している人も、手湿疹を発症するリスクが高いといえます。
また、レジンを使用する歯科技工士など、アレルギー性接触皮膚炎になりやすい職業もあります。
予防
手湿疹の発症を予防するためには、原因物質の除去と乾燥による皮膚バリアの損傷を防ぐことが大切です。
皮膚の乾燥を防ぐためには、保湿剤をしっかり塗布することと手袋を着用することが有効です。
保湿剤には、ワセリンやヘパリン類似物質製剤、尿素製剤が用いられます。
これらの薬剤には、軟膏、クリーム、ローションといったさまざまな剤型があり、塗布を継続しやすい剤型を患者さんの好みに合わせて選択することが可能です。
塗布する保湿剤の量は、ティッシュが皮膚につく、または皮膚がテカる程度を目安とします。
ウェットワーク時に保護手袋を着用すると、水や洗剤、食品などから手指を保護することができます。
しかし、手袋の素材(ゴムやラテックスなど)が刺激となる場合や保護手袋を長時間装着することでさらなる皮膚バリアの損傷をきたす場合は、木綿の手袋の上に保護手袋を着用します。また、洗濯物をたたむなど布に触れることによっても手指の乾燥をきたすことがあるので、家事労働の際には木綿やポリ塩化ビニル製の手袋の着用が勧められます。
参考文献