

監修医師:
五藤 良将(医師)
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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。
目次 -INDEX-
疥癬の概要
疥癬(かいせん)は、ヒゼンダニ(疥癬虫:Sarcoptes scabiei)が皮膚の角質層に寄生することによって引き起こされる皮膚疾患です。ヒゼンダニは非常に小さく、肉眼では確認できないほどのサイズで、顕微鏡を使って初めてその存在を確認できます。 疥癬は、ダニの数や感染力の強さによって、通常疥癬と角化型疥癬の2つのタイプに分類されます。| 通常疥癬 | 角化型疥癬 |
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疥癬の原因
疥癬の原因は、皮膚の角質層にヒゼンダニが寄生することが最大の原因です。ヒゼンダニは、卵から孵化して幼虫、若虫、成虫へと成長し、成虫のメスは角質層にトンネルを掘り進みながら卵を産み続けます。ヒゼンダニのライフサイクルは約2週間で、成虫が生き続けられるのは4〜6週間です。人の体温が最適な環境であり、皮膚から離れると長くは生きられません。また、乾燥や高温に弱く、50℃以上の環境に10分以上さらされると死滅します。 ヒゼンダニは、直接的な皮膚接触によって感染します。例えば、家族間での接触や、介護施設での介護者と高齢者の接触が主な感染経路です。また、感染者が使用した寝具や衣類を介して間接的に感染することもあります。特に角化型疥癬は非常に多くのヒゼンダニが寄生しているため、感染力が非常に強く、短時間の接触でも感染してしまうことが特徴です。 疥癬は、免疫力が低下している人に感染しやすい傾向があります。高齢者や重篤な基礎疾患を持つ人、ステロイド薬や免疫抑制薬を使用している人などは特にリスクが高いです。通常疥癬から角化型疥癬に移行することもあり、特にステロイド外用薬の長期使用がその原因となることがあります。疥癬の前兆や初期症状について
疥癬の初期症状は、感染後すぐには現れず、通常1カ月ほどの潜伏期間を経てから現れます。この潜伏期間中はヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生し、卵を産み付けるためのトンネルを掘り進んでいます。初期症状としては、強いかゆみと赤いブツブツ(丘疹)です。かゆみは特に夜間に強くなることが多く、患者さんの睡眠を妨げることがあります。通常疥癬の前兆や初期症状
通常疥癬の初期症状の特徴は、体幹や四肢に現れる赤い丘疹(きゅうしん)です。これらの丘疹は、ヒゼンダニが皮膚に寄生して生じるアレルギー反応であり、特に指の間や陰部、太ももの内側など皮膚の柔らかい部分に集中的に発生することが多いです。また、疥癬トンネルと呼ばれる線状の皮疹が見られます。これは、ヒゼンダニのメスが卵を産むために角質層に掘り進んだ跡であり、疥癬に特有の症状です。角化型疥癬の前兆や初期症状
角化型疥癬の場合は、皮膚の角質層が異常に増殖し、灰色や黄白色の垢が付着します。通常疥癬に比べてヒゼンダニの数が非常に多く、感染力が強いため、早期の診断と治療が必要です。角化型疥癬の患者さんは、特に免疫力が低下していることが多く、重篤な基礎疾患を持つ人やステロイド薬を使用している人に多く見られます。 疥癬の初期症状は、他の皮膚疾患と区別が難しいことがあるため、かゆみや皮疹が続く場合は、早期の対応が求められます。 上記の症状がみられた際には、皮膚科の受診が推奨されます。疥癬の検査・診断
疥癬の診断は、臨床症状や顕微鏡検査、ダーモスコピー検査などを組み合わせて行います。まず、患者さんの症状や家族歴、接触歴などを詳しく問診します。臨床症状
臨床症状は、診断には重要な要素です。通常疥癬の症状としては、強いかゆみと赤い丘疹、疥癬トンネルが挙げられます。角化型疥癬の症状としては、皮膚の角質層が異常に増殖し、灰色や黄白色の垢が付着することが特徴です。これらの症状を総合的に評価し、疥癬の診断を行います。顕微鏡検査
顕微鏡検査は、疥癬の確定診断において最も重要な方法です。皮膚の角質層を削り取り、10%KOH(水酸化カリウム)溶液で処理した後、顕微鏡でヒゼンダニの虫体や卵、糞を確認します。顕微鏡検査でヒゼンダニが検出されれば疥癬の確定診断となります。ダーモスコピー検査
ダーモスコピー検査は、特殊な拡大鏡を使用して皮膚の表面を観察する方法です。疥癬トンネルの先端に対してダーモスコピー(10倍程度拡大できる虫メガネ)を使って検査を行うと、ヒゼンダニを見つけることができます。ダーモスコピー検査は、非侵襲的で簡便な方法であり、特に疥癬トンネルが見つかりにくい場合に有用です。疥癬の治療
疥癬の治療は、ヒゼンダニを殺すことを目的に、内服薬と外用薬を使用します。通常疥癬の場合、イベルメクチンの内服またはフェノトリンの外用が推奨されます。イベルメクチンは、疥癬に保険適用のある唯一の内服薬です。体重1kgあたり200μgを空腹時に1回、水と共に服用し、1週間後に再度投与してヒゼンダニを死滅させます。フェノトリンは、1回30gを頸部以下の皮膚に塗布し、12時間以上経過後に洗い流します。1週間隔で少なくとも2回の塗布が必要です。 角化型疥癬の場合、厚い角質層を除去した後にイベルメクチンの内服とフェノトリンの外用を併用することが推奨されますが、場合によってはいずれかの単独治療を行うこともあります。角化型疥癬は、非常に多くのヒゼンダニが寄生しているため、治療が難しく、長期間の治療が必要です。 外用薬としては、フェノトリンローションやイオウ剤、クロタミトンクリームが使用されます。フェノトリンは、ガイドラインにおける推奨度がA(行うよう強く勧められる)であり、イオウ剤とクロタミトンは推奨度がC1(行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない)です。イオウ剤は、5〜10%の沈降イオウ軟膏を塗布し、24時間後に洗い流します。その後、2〜5日間または7日間塗布し続けてください。クロタミトンは10%クロタミトンクリームを全身に塗布し、24時間後に洗い流します。その後、5日間は繰り返して塗布してください。疥癬になりやすい人・予防の方法
疥癬になりやすい人は、免疫力が低下している人や、集団生活を行う施設にいる人です。家族間や介護施設での感染が多く報告されており、長時間の接触がある場合は感染のリスクが高まります。特に、高齢者や重篤な基礎疾患を持つ人、ステロイド薬や免疫抑制薬を使用している人はリスクが高いです。 疥癬の予防には、感染者との接触を避けることが最も重要です。感染者が使用した寝具や衣類は、熱処理や乾燥機を使用してダニを死滅させることが推奨されます。特に角化型疥癬の場合は、感染力が非常に強いため、感染者を個室で隔離し、周囲の人々との接触を避けることが必要です。 また、高齢者施設や病院のような集団生活を行う場所では、感染拡大を防ぐための対策を徹底することが求められます。 疥癬は、適切な治療を行えば完治する病気ですが、治療後もかゆみや皮疹が続くことがあるため、早期の診断と治療が求められます。感染拡大を防ぐためにも、感染者との接触を避け、適切な衛生管理を行うことが必要です。関連する病気
- 伝染性膿痂疹
- アトピー性皮膚炎
- 接触皮膚炎




