監修医師:
高藤 円香(医師)
ケロイド・肥厚性瘢痕の概要
ケロイドと肥厚性瘢痕は、いずれも皮膚の傷が治癒する過程で異常に盛り上がり、目立つ傷跡として残る病態です。これらの状態は見た目が似ているため区別が難しいですが、いくつかの違いがあります。
肥厚性瘢痕は、外傷や熱傷、手術などの創傷治癒の過程により発生し、傷が治った後に赤く盛り上がる傾向がありますが、傷の範囲を超えて広がることはありません。時間の経過とともに、色が薄れ、盛り上がりも減少し、柔らかい傷となります。自然に軽快するケースもあります。
一方、ケロイドは原因不明もしくは皮膚のわずかな損傷でも発症原因となり、傷が治った後に異常に盛り上がり、赤みやかゆみ、痛みを伴うことが多い傾向にあります。また、傷の範囲を超えて正常な皮膚まで広がり、治りにくいという特徴があります。好発部位は、胸の正中部や三角筋部、肩甲部、耳介や耳後部、恥骨上部などです。
ケロイド・肥厚性瘢痕の原因
ケロイドおよび肥厚性瘢痕の原因には、外部的要因と内部的要因の両方が関与しています。
外部的要因
まず、傷の深さが重要な要因となります。真皮層まで損傷を受けると、皮膚が過剰に反応し、繊維細胞が増殖して肥厚性瘢痕やケロイドが形成されやすくなります。そして、傷がゆっくり治る場合や、感染が発生する場合、炎症が深部まで広がりやすくなり、肥厚性瘢痕やケロイドのリスクが高まります。
物理的な刺激では、傷が関節部や首など、頻繁に動く部位にある場合、炎症が持続し肥厚性瘢痕やケロイドが形成されやすくなります。圧力や摩擦も肥厚性瘢痕やケロイドの形成を助長する要因となり、傷が常に圧迫されたり摩擦を受けたりする部位では、繊維細胞が刺激され、過剰に増殖することがあります。
内部的要因
まず、遺伝的なケロイド体質の素因が大きな要因の一つとして挙げられます。家族にケロイドが多い場合、その体質が遺伝することがあり、黒人やアジア人は発生しやすい傾向にあります。
また、女性ホルモンの影響を受けやすく、ホルモンバランスが変わることで、繊維細胞の増殖が促進され、妊娠中や思春期にケロイドや肥厚性瘢痕が悪化することがあります。
さらに、大きな怪我や火傷などで全身的に強い炎症反応が起こる場合、サイトカインストームと呼ばれる反応が生じ、肥厚性瘢痕やケロイドのリスクが高まります。
加えて、血管の機能が低下し、炎症が慢性化しやすくなっている高血圧や糖尿病などの基礎疾患も影響を及ぼします。
ケロイド・肥厚性瘢痕の前兆や初期症状について
肥厚性瘢痕とケロイドは、傷が治った後に皮膚に異常な変化が生じる状態ですが、その前兆や初期症状は少し異なります。
外傷や手術創などの傷の治癒は、通常は時間とともに薄れていきます。しかし、赤みが強くなり続けている場合は、肥厚性瘢痕の前兆かもしれません。また、傷の部分が徐々に盛り上がり、硬く感じるようになりますが、この盛り上がりは傷の範囲内にとどまり、時間とともに減少する傾向があります。1〜3ヵ月経過しても見た目が目立っていたり、傷が治りかけているにもかかわらずかゆみや痛みが続いていたりする場合は、炎症が続いていることを示している可能性があります。
一方、ケロイドでは、傷が治った後に傷の範囲を超えて周囲の正常な皮膚まで盛り上がりが広がります。この異常な盛り上がりは時間とともに広がる傾向があり、肥厚性瘢痕とは異なります。また、ケロイドでは傷の周囲が持続的に赤くなり、時間が経ってもその赤みが引かず、炎症が持続します。さらに、ケロイドは肥厚性瘢痕よりも強い痛みやかゆみを伴うことが多く、特に夜間や運動後などに症状が悪化することがあります。
これらの前兆や初期症状を理解し、早期に適切な治療を行うことで、肥厚性瘢痕やケロイドの悪化を防ぐことができます。症状がある場合は、形成外科や皮膚科、ケロイドや瘢痕の治療を専門外来で診療している医療機関を受診しましょう。
ケロイド・肥厚性瘢痕の検査・診断
ケロイドおよび肥厚性瘢痕の病態を正確に診断することは、適切な治療を行うために重要です。
ケロイドや肥厚性瘢痕の診断には、複数の検査が必要となります。まず、視診や問診により、患部の外見や症状、発症の経緯などを確認します。次に、触診や伸展試験などの物理的検査を行い、硬さや可動性などの特徴を評価します。
必要に応じて、傷跡の一部を採取し、顕微鏡で詳細に調べる病理組織学的検査を実施します。ケロイドや肥厚性瘢痕の診断には、繊維細胞の過剰な増殖やコラーゲン線維の異常な配列などの特徴が見られます。また、血液検査で炎症マーカー(例えばCRPやサイトカイン)を測定することで、体内の炎症状態を確認し、全身的な炎症反応の有無やその程度を評価します。さらに、超音波検査を用いて、皮下組織の状態や血流の異常を確認します。
特にケロイドの場合、血管の新生や血流の増加が見られることが多いため、これらの情報が治療方針の決定に役立ちます。遺伝的な要因が疑われる場合には、遺伝子検査を行うことがあります。特定の遺伝子の変異や多型がケロイドの発生に関与しているため、遺伝子検査によりリスクを評価します。
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療
ケロイドおよび肥厚性瘢痕の病態に対する治療は基本的には同じで、以下に解説する複数の方法を組み合わせて行われています。
まず、薬物療法と圧迫固定療法といった保存療法が行われます。内服療法では、抗アレルギー薬を服用し、皮膚線維細胞の増殖を抑制し、傷の赤みやかゆみを軽減し、柴苓湯(さいれいとう)などの漢方薬が併用されることもあります。外用療法では、ステロイドを含む軟膏やテープを使用し、抗炎症作用により皮膚線維細胞の増殖を抑制し、保湿剤も併用されます。
圧迫固定療法では、サポーターやコルセット、シリコンシートなどを使用して傷を圧迫することで、血流を低下させ炎症を鎮め、皮膚線維細胞の増殖を抑えたり、圧迫することで服や体の動きによる摩擦から傷を保護したりして、患部の安静を保ちます。その他の治療法には、ケロイドや肥厚性瘢痕に対してステロイドを直接注射する局所注射療法や血管の数を減らすレーザー治療などが、ケロイドや肥厚性瘢痕に対して選択されることがあります。
上記の治療で軽快しない場合は、手術療法の対象となります。外科手術では、病変部を切除しますが、術後に再発する可能性があります。そのため、放射線療法で数回から十数回に分けて電子線を照射し術後の再発を減少させたり、先に述べた保存療法を併用します。また、ケロイドや肥厚性瘢痕が広範囲に及ぶ場合は、皮膚移植の手術が行われることもあります。
ケロイド・肥厚性瘢痕になりやすい人・予防の方法
ケロイドや肥厚性瘢痕になりやすい人は、肥厚性瘢痕は誰にでも生じる可能性のある病態である一方、ケロイドに関しては、原因の項目で述べたように、ケロイド体質であったり、高血圧や女性ホルモンが変化しやすい方が挙げられます。黒人などの有色人種もケロイドの発生率が高く、日本人であれば約10%がケロイド体質ともいわれています。
予防方法は、まず、傷ができたら、清潔を保ち感染を防ぎましょう。傷が引っ張られたり圧迫されたりしないよう、適切に保護しましょう。シリコンジェルシートや圧迫療法は、傷の回復を助けます。傷の治癒過程で異常を感じた場合、早めに医師に相談し、適切な治療を受けることが大切です。特に前述の症状が見られた場合は、早期に対策を取ることで悪化を防ぐことができます。
高リスクの患者の場合、予防的にステロイド薬や圧迫療法を使用することがあります。これにより、ケロイドや肥厚性瘢痕の形成を抑制することが期待されます。
ケロイドおよび肥厚性瘢痕の前兆や初期症状を理解し、早期に対応することで、状態の悪化を防ぎます。そのためには、こうした定期的な観察と適切なケアが重要です。
参考文献