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皮膚がん
高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

皮膚がんの概要

皮膚がんは、皮膚に発生する悪性腫瘍の総称であり、代表的なものに基底細胞がん、有棘細胞がん、悪性黒色腫、乳房外パジェット病などがあります。このがんは、それぞれ異なる発生部位と特性を有し、進行速度や予後にも差異があります。

皮膚がんは、皮膚の表皮層から発生します。表皮層はさらに角質層、顆粒層、有棘層、基底層に細分され、各層から異なるタイプのがんが発生します。
基底細胞がんは、表皮の最下層である基底層や毛包から発生し、高齢者の顔面中央部に多く見られます。
有棘細胞がんは、表皮の中間層である有棘層から発生し、顔や四肢に多く見られ、転移の可能性が高いです。
悪性黒色腫は、メラノサイトから発生し、足裏や足指に多く見られ、悪性度が高く迅速な治療が必要です。

このがんは、いずれも皮膚にまだらなシミや色調の変化として現れ、進行に伴いしこりを形成する場合があります。皮膚がんは年間多くの患者さんが罹患し、早期発見と治療が重要とされます。なかでも、悪性黒色腫は急速に進行し、転移が見られることから、迅速な診断と治療が求められます。

皮膚がんの原因

皮膚がんの原因はがんの種類によって異なりますが、紫外線の影響が関与しているといわれています。紫外線は細胞の遺伝子に損傷を与え、発がんを促進します。基底細胞がん、有棘細胞がん、悪性黒色腫の発生には紫外線が関連しており、顔や首など紫外線を浴びやすい部位に多くみられます。
そのほかの要因は、やけどやけがによる皮膚のダメージ、ヒトパピローマウイルス感染、喫煙、ヒ素などの化学物質への曝露が挙げられます。

また、遺伝的要因も一部関与しており、なかでも白人の悪性黒色腫の発症率が高いとされています。さらに、慢性的な皮膚疾患や傷跡も発がんのリスクを高めるとされており、なかでも色素性乾皮症のような遺伝的疾患は注意が必要です。これらの要因が複合的に作用し、皮膚がんの発生リスクを高めていると考えられています。

皮膚がんの前兆や初期症状について

皮膚がんの早期発見は、治療成功の鍵となります。皮膚に異常が見られた場合、ただの赤みや炎症と思わず、早めに皮膚科を受診することが重要です。

メラノーマ(悪性黒色腫)

メラノーマは、手のひら、足の裏、爪の周囲によく発生します。メラノーマは、ほくろと見分けがつきにくく、初期に褐色から黒色のシミや腫瘤として皮膚に現れることが多いようです。また、形が左右非対称で、輪郭がギザギザしている、色むらがある、大きさが6mm以上あるなどであればより疑いが強まります。さらに、時間とともに大きさや色、形、硬さが変化することもあります。

有棘細胞がん

有棘細胞がんは、紫外線があたりやすい顔、手、背中などに発生しやすい皮膚がんです。初期症状は、皮膚が赤くなり、鱗屑(うろこ状のくず)やかさぶたが生じます。進行すると、腫瘍が硬くなり、いぼのような外観を呈します。やがて潰瘍が形成され、悪臭を伴うこともあります。

基底細胞がん

基底細胞がんは、主に顔の鼻やまぶたに発生し、初期症状として小さな黒いできものが見られます。このできものは徐々に大きくなり、中央が崩れ周辺部が盛り上がることがあります。血がにじむ場合や、中央が窪んで潰瘍を形成する場合もあります。痛みや痒みなどの自覚症状はほとんどないとされています。良性腫瘍と区別が難しいこともあり、その場合は皮膚生検で診断します。

乳房外パジェット病

乳房外パジェット病は、陰部や腋窩に発生する皮膚がんで、アポクリン汗腺から発生すると考えられています。初期症状として、赤い斑点や白く抜けたような湿疹が見られ、かゆみを伴うこともあります。進行すると、赤い斑点が広がり、ただれや結節が形成されます。湿疹や真菌症と誤診されやすく、市販薬で治療を試みても軽快しない場合は注意が必要です。

早期発見の重要性

皮膚がんは早期に発見し治療を開始すれば、高い確率で治癒が期待できます。しかし、進行すると切除範囲が広がり、転移のリスクも増すため、注意深く観察することが重要です。治らない皮膚の異常や赤みが増大する場合などは、自己判断せずに皮膚科を受診してください。デリケートな部位であっても、恥ずかしがらずに受診することが大切です。

皮膚がんの検査・診断

皮膚がんを診断するためには、複数の検査を行います。

ダーモスコピー検査

ダーモスコピー検査は、特殊な拡大鏡であるダーモスコピーを用いて皮膚の病変部を観察する検査です。ダーモスコピー検査は痛みがなく、簡便に行えるため、初診の際も多く利用されます。ダーモスコピーは、皮膚の色素状態や形状を10倍程度に拡大して確認して、目視での診断精度を向上させ、良性疾患と悪性疾患の鑑別を助けます。悪性黒色腫や基底細胞がんの診断に有用です。

健康保険も適用され、患者さんの負担額は数百円程度です。ただし、ダーモスコピー検査だけですべての病変を確定診断できるわけではなく、生検が必要な場合もあります。また、すべての医療機関がダーモスコピーを導入しているわけではないため、事前に確認して受診しましょう。

病理組織検査

病理組織検査は、皮膚がんの確定診断に必要な検査で、病変部の組織を採取し顕微鏡でがん細胞の有無を調べます。病理組織検査により、皮膚がんのタイプを鑑別するため、治療方針を決定するうえで重要です。病理組織検査は局所麻酔を用いて行い、部分生検や全摘生検などの方法があります。また、皮膚がんが深部にある場合は針生検を行います。見た目だけでは診断が難しい場合、病理組織検査によって診断精度を高められます。

画像検査

画像検査は、皮膚がんの進行状況や転移の有無を確認するために行われます。悪性黒色腫などの進行がんでは、CTやMRI、PET-CTを用いて全身を検査します。また、病変部の広がりや深さを調べるために超音波検査を行う場合もあります。これらの検査により、リンパ節やほかの臓器への転移を確認し、適切な治療方針を決定できます。また、定期的な画像検査は再発の早期発見にも役立ちます。

皮膚がんの治療

皮膚がんの治療法は主に3つあります。

外科的治療(手術)

外科的治療は、ほとんどの皮膚がんで効果が期待できる治療法です。なかでも早期の皮膚がんでは根治が期待でき、病変から数mm〜数cm離して切除することで目に見えないがん細胞も取り除きます。また、リンパ節転移がある場合はリンパ節郭清術(転移部分のリンパ節を除去する手術)を行います。

切除後はシンプルに縫い閉じますが、必要に応じて皮弁術(皮膚を使って傷をふさぐ手術)や植皮術(別の部分の皮膚を傷に移植する手術)も行います。
がん細胞の広がりが不明瞭な場合は、病理検査で確認後に再度手術を行うこともあります。

また、センチネルリンパ節生検という検査を行う場合もあります。センチネルリンパ節生検は、リンパ節の転移の有無を確認するために行われ、体への負担が少なく、不必要なリンパ節郭清術を避けられます。そして、センチネルリンパ節生検は悪性黒色腫や有棘細胞がんなどで保険適用されます。

薬物治療

皮膚がんの薬物治療は、転移が認められ手術が困難な場合に行われます。化学療法、免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬などがあり、化学療法は抗がん剤を用いて、有棘細胞がんや血管肉腫などが適応です。

免疫チェックポイント阻害薬は悪性黒色腫に対して使用される、免疫細胞ががんを攻撃しやすくする薬です。
分子標的薬は遺伝子変異を持つがん細胞に対して高い奏効率が期待でき、悪性黒色腫ではBRAF/MEK阻害薬、血管肉腫ではマルチキナーゼ阻害薬、皮膚悪性リンパ腫ではHDAC阻害薬が用いられます。患者さんの状態やがんの進行度に応じて適切な薬物治療が選択されます。

放射線治療

放射線治療は、高エネルギーの放射線を用いてがん細胞を死滅させる治療法です。基底細胞がん、有棘細胞がん、メルケル細胞がんなどで、手術が困難な場合や術後の再発予防に行われます。
また、血管肉腫では、化学療法と併用して治療されます。悪性黒色腫では初発の治療には用いられませんが、脳転移や骨転移の疼痛に対して効果が期待できます。

皮膚がんになりやすい人・予防の方法

皮膚がんは、屋外で働く方、スポーツをする方、日光浴を好む方に多くみられます。なかでも色白の方はメラニンが少ないため、紫外線に対する感受性が高く、皮膚がんになりやすいとされます。メラニンは皮膚を紫外線から保護する役割を果たしていますが、その量が少ないと防御機能が低下します。

皮膚がんの予防には、紫外線への曝露を減らすことが重要です。日光を避ける、紫外線保護効果が期待できる衣類を着用する、SPF30以上の日焼け止めを使用することが推奨されます。
また、日焼けマシーンの使用は、若年者も含め黒色腫のリスクを高めるため避けるべきです。


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