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脂漏性皮膚炎
高藤 円香

監修医師
高藤 円香(医師)

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防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

脂漏性皮膚炎の概要

脂漏性皮膚炎は、頭皮、顔、腋など皮脂の分泌が活発な部位に発生する湿疹で、患部の発赤と鱗屑(皮が剥けてカサカサとした状態)を特徴とする皮膚疾患です。脂漏性皮膚炎は脂漏性湿疹とも呼ばれ、かゆみは軽度であるか、まったくないことが多いといわれています。

脂漏性皮膚炎は乳児期に発症する乳児型と、思春期以降にみられる成人型に分類され、それぞれの病型に特徴的な経過を示します。

乳児型は生後2〜4週頃に頭部や顔面の脂漏部位に湿疹が出現し、生後8〜12ヵ月頃には自然治癒することが多いです。乳児型の脂漏性皮膚炎は、母体由来および児由来のアンドロゲン(男性ホルモン)の影響で皮脂の分泌が活発になることが原因とされています。

一方、成人型は思春期以降の男性に多くみられ、こちらもアンドロゲンの皮脂分泌を助ける作用が関連していると考えられます。また、成人型は慢性化する傾向が強く、中年以降に発症した場合はその傾向が顕著です。

脂漏性皮膚炎の原因

脂漏性皮膚炎は、皮膚に常在する真菌であるマラセチアが関与するといわれ、マラセチアの増殖で皮膚炎を発症させるとされています。
マラセチアは皮脂を栄養源とし、皮脂に含まれるトリグリセリド(中性脂肪)を遊離脂肪酸(エネルギー源として体内で利用される脂肪酸の一種)に分解します。遊離脂肪酸が皮膚を刺激し、炎症を引き起こすことも脂漏性皮膚炎の原因とされています。なぜマラセチアが異常に増殖するのか、根本的な原因は明確には解明されていません。

しかし、いくつかの要因がマラセチアの増殖を促すと考えられています。例えば、環境の変化による皮脂成分や分泌量の変動、ビタミンB2やB6の代謝異常、入浴や洗顔の不足、ストレス、睡眠不足、ホルモンの乱れなどです。

これらの要因が相互に作用し、マラセチアの異常増殖や皮脂の分泌異常を引き起こすことで脂漏性皮膚炎が発症します。根本的な原因の解明にはいたっていないものの、肌環境を整えることで症状を落ち着けることが可能とされています。

脂漏性皮膚炎の前兆や初期症状について

脂漏性皮膚炎の症状は、皮脂分泌が活発な部位やこすれやすい部位に現れます。典型的な部位は、頭皮、髪の生え際、眉毛、鼻の周り、耳の後ろ、胸、腋の下、背中の上部などです。患部は赤みを帯び、鱗屑と呼ばれるカサカサした皮膚の剥がれが特徴です。鱗屑はフケのように落ちることもあり、見た目に影響を与えます。

乳児では、生後2〜4週間頃から、髪の生え始めや眉毛の部分、おでこに黄色味を帯びたかさぶたや赤い吹き出物が現れます。成人の場合は、頭皮に大量のフケが生じ、場合によっては、頭部全体に広がる固いかさぶたが形成されることがあります。

かゆみは軽度であるか、感じられないといわれていますが、症状が進行すると皮膚の赤みが増し、鱗屑がボロボロと剥がれ落ちるようになります。

脂漏性皮膚炎自体は脱毛を引き起こすことはありませんが、症状が悪化すると頭皮の環境が悪化し、薄毛や脱毛を誘発する可能性があります。
症状が表れた場合は、一度皮膚科を受診されることをおすすめします。

脂漏性皮膚炎の検査・診断

脂漏性皮膚炎の診断は、定量的な方法は確立されておらず、主に症状の様子と発生部位に基づいて行われます。脂漏性皮膚炎は、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患と症状が類似しているため、これらの疾患との鑑別が重要です。

特に乳児は、アトピー性皮膚炎との鑑別が重要です。脂漏性皮膚炎は皮脂分泌が多い部位に出現するのに対し、アトピー性皮膚炎は体幹や四肢にも湿疹や乾燥が見られることがあります。また、脂漏性皮膚炎はかゆみがないか軽度であることが多く、乳児がかゆみで顔をこすりつける動作や、体をかく動作が見られる場合はアトピー性皮膚炎の可能性が疑われます。

さらに、鑑別診断の補助として、Parker-KOH液を用いた直接検鏡が行われます。400倍の倍率で1視野中に10個以上の菌要素が認められた場合、菌陽性と判断されます。また、直接検鏡で多くの菌要素が見られるのは脂漏性皮膚炎のみとされ、尋常性乾癬や接触皮膚炎などとの鑑別に役立ちます。

脂漏性皮膚炎と鑑別すべき疾患には、尋常性乾癬、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ステロイド皮膚炎、頭部白癬、膠原病などがあります。尋常性乾癬は境界がより明瞭で鱗屑が銀色で隆起するのに対し、脂漏性皮膚炎は境界が不明瞭で脂っぽい鱗屑が特徴です。

脂漏性皮膚炎の治療

脂漏性皮膚炎の治療法は、薬物で治療する方法と生活習慣を改善して治療する方法があります。

薬物治療

脂漏性皮膚炎の治療は、主に外用薬の使用を中心に行われます。乳児期に見られる脂漏性皮膚炎の症状は、大抵は軽度で、適切な洗顔の継続で改善する場合が多いようですが、浸出液が見られる場合には弱めのステロイド外用薬が用いられます。

成人型の脂漏性皮膚炎は慢性化しやすく、生活習慣の改善とともに医療機関での治療が必要です。治療には、炎症を抑えるステロイド外用薬や、マラセチアを抑制する抗真菌外用薬が使用されます。症状が軽い場合には抗真菌外用薬のみでの治療もありますが、症状が強い場合にはステロイド外用薬と併用します。しかし、ステロイド外用薬の長期間の使用は副作用が懸念されるため、症状が改善したら抗真菌薬に戻すことが推奨されます。
ステロイド外用薬や抗真菌外用薬の剤形には、クリーム、ローション、スプレーなどがあり、患部や症状に応じて使い分けられます。
また、抗真菌薬は長期間使用しても副作用が少ないため、再発予防にも有効といわれています。

そして、ニゾラールなどの抗真菌薬やステロイド外用薬で効果が不十分な場合には、プロトピック(タクロリムス)やアトピー性皮膚炎治療薬が使用されることもあります。

かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬(内服薬)が処方されることもあります。

さらに、難治性の脂漏性皮膚炎には漢方薬が用いられることもあります。十味敗毒湯や荊芥連翹湯、黄連解毒湯などが皮膚の炎症やかゆみを抑える効果が期待でき、患者さんの症状や体質に応じて処方されます。

また、ビタミンB2やビタミンDなどの不足が脂漏性皮膚炎の発症に関与している可能性があるといわれており、ビタミン剤の内服も予防の一環として検討されますが、ビタミン剤はほかの治療法が効果を示さない場合の補助として用いられます。

生活習慣の改善

脂漏性皮膚炎を治療するには、生活習慣の改善も重要です。
治療の際は、洗顔や洗髪で患部の清潔さの維持が重要です。そして、精神的および身体的ストレスは症状を悪化させるため、規則正しい生活と十分な睡眠、適度な休養でストレスの軽減が必要です。
食事はビタミンB群を含む食品(牛乳、レバー、ほうれん草、大豆など)を中心にバランス良く摂り、動物性脂肪や暴飲暴食を避けましょう。アルコールやタバコも症状を悪化させるため、控えることが推奨されます。

脂漏性皮膚炎になりやすい人・予防の方法

脂漏性皮膚炎は誰にでも発症する可能性がありますが、なかでも抵抗力が弱い乳幼児や高齢者、免疫抑制剤を内服しているなどの免疫力が低下している方は発症しやすいです。

そして、脂漏性皮膚炎の予防のためには生活習慣の見直しが重要です。
睡眠や休息をしっかりとり、ストレスを減らすことを意識し、洗顔や洗髪で肌を清潔に保ちましょう。
食事に関しては、ビタミンB群を含む食品を積極的に摂取し、脂質の多い食べ物やアルコール、タバコを控えることが推奨されます。日常的に適切なスキンケアをし、バランスの取れた食事を心がけることが脂漏性皮膚炎の予防につながります。


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