監修医師:
高藤 円香(医師)
汗疹の概要
汗疹(あせも)とは、汗が正常に排出できずに汗管(汗を排出するための管)で詰まってしまい、皮膚内部で汗が漏れ出すことで発症する病気です。特に多量の汗をかく夏に多く発症し、屋外・屋内問わずに発症する可能性があります。
汗疹が現れやすい部位は、首・肘や膝の内側・脇・お尻など汗が溜まりやすく蒸れやすい部位です。また、着用している衣服が汗を吸収しにくい素材である場合や、長時間肌に触れている場合にも発症しやすくなります。
汗疹は性別や年齢にも関係なく見られますが、子どもの方が発症リスクは高い傾向にあります。これは汗を作る汗腺の数が子どもと大人でほとんど変わらないので、体の小さい子どもの方が面積あたりの汗の量が多いことが原因です。また、汗疹は症状によって次の3種類に分けられます。
水晶様汗疹(すいしょうようかんしん)
水晶様汗疹は、皮膚の表面に近い角質で汗が詰まることで起こる汗疹です。発症すると、白や透明の1〜2ミリの水疱が発生します。発症してもかゆみはほとんどない場合が多いといわれ、数日で完治します。
紅色汗疹(こうしょくかんしん)
紅色汗疹は、角質の下にある表皮で汗が詰まることで起こる汗疹です。発症すると皮膚に赤い斑点が現れ、熱感や痒みを伴います。紅色汗疹は1週間程度で治りますが、患部を刺激すると、伝染性膿痂疹(とびひ)のような細菌感染症を引き起こす可能性があります。痒みが強い場合は、痒みを止める作用のある薬を使用して患部に触らないようにしましょう。
深在性汗疹(しんざいせいかんしん)
深在性汗疹は、表皮のさらに下にある真皮層で汗が詰まることで起こる汗疹です。発症すると皮膚が青白く扁平に盛り上がり、敷石のような状態で広がります。痒みや痛みなどはありませんが、汗をかけず体温調節ができないため、放置していると熱中症になりやすく危険な状態です。
汗疹の原因
汗疹の原因は、汗や汗に含まれている塩分や老廃物などの成分が皮膚表面に残って汗の出口を塞ぐことです。
そもそも汗は、上昇した体温を下げる際に多く排出され、皮膚表面で蒸発することで体温を調整します。しかし、高温多湿の環境や衣服が吸湿性・通気性の低い素材だと、排出した汗が皮膚表面に残ったままになってしまいます。汗は体温が高いと排出し続けようとしますが、皮膚表面に汗が残った状態だとうまく排出できずに汗管で詰まり汗疹となるのです。
汗疹の原因となりやすいものとして、包帯やオムツなど蒸れやすいものが挙げられます。特に上記でも説明したとおり、子どもは汗疹になりやすいため、オムツをしている乳幼児は注意が必要です。こまめに取り替えるなどして、着用部分が蒸れないように気をつけましょう。
また、ベビーパウダーも汗の出口を塞ぎ、汗を詰まらせる場合があります。ベビーパウダーを使用して汗疹が出るようなら、使用を中止した方がよいでしょう。
汗疹の前兆や初期症状について
汗疹には明確な前兆はありません。しかし、汗疹を発症しやすい条件として以下のようなものが挙げられます。
- 高温多湿の環境
- 通気性・吸湿性の低い衣服の着用
- 激しい運動によって多量の汗をかく
これらの条件に当てはまると、水晶様汗疹や紅色汗疹を発症しやすいといえます。また、どちらの症状も短時間で多発するので、初期症状も感じられず気付いたら発症していたということが多いです。
ただし、深在性汗疹については紅色汗疹を繰り返すことで発症しやすい特徴があります。深在性汗疹は熱中症を引き起こしやすくなるため、何度も紅色汗疹を起こす場合は注意が必要です。
症状があった場合、皮膚科を受診するようにしましょう。
汗疹の検査・診断
汗疹の検査は皮膚科で行えます。検査方法は医師が発症した患部を見て診断するので、時間はかかりません。注意点として、汗疹と似た症状がいくつかあるので自己診断をすると汗疹と別の病気を間違えてしまうおそれがあります。
特に乳幼児は皮膚の保護機能が未発達のため、汗疹だけでなくさまざまな皮膚病にかかりやすいです。そのため間違った診断をしないためにも、子どもの汗疹が疑われるときは皮膚科または小児科を訪れることをおすすめします。汗疹と似た症状には以下の病気があります。
- アトピー性皮膚炎
- 接触性皮膚炎
- 多発性毛嚢炎
- 汗疱
- 汗かぶれ、など
汗疹の治療
汗疹は症状によって治療方法が変わります。水晶様汗疹の場合は、自然に治るのを待つことが基本です。このタイプの汗疹は痒みもなく症状も軽いため、薬を使用しなくとも3日程度で治ります。ただし、患部を清潔に保つ必要があるので、汗をかいたらきれいな布などで優しく拭き取るようにしましょう。
紅色汗疹の場合は、炎症を起こしていて痒みがあるため、薬による治療が必要です。使われる薬は患部に塗布するステロイド外用剤が一般的で、汗疹の炎症と痒みを抑えます。薬はべたつきにくいクリームや低刺激の軟膏などいくつか種類があるため、症状や好みに合わせて選ぶことが可能です。
深在性汗疹の場合は、水晶様汗疹と同様に自然に治癒するのを待ちます。ただし、深在性汗疹を発症しているときは体温調節がうまくいかず熱中症の危険があるため、高温多湿を避けて涼しい場所にいることが大切です。
汗疹になりやすい人・予防の方法
子どもが汗疹になりやすいことは前述しましたが、そのほかにも、肥満の方も汗疹を発症するリスクは高いです。肥満になると体脂肪の割合が高くなるのですが、脂肪は熱を通しにくい性質があるため脂肪が多い程、体に熱が篭りやすくなります。そうすると体温を下げるために自然と汗の量が増えるため汗疹になりやすいのです。
また、汗疹の予防としては次のようなものが挙げられます。
夏は通気性・吸湿性のよい衣服を着る
通気性・吸湿性が低い衣服は蒸れてしまい汗疹ができやすくなります。通気性・吸湿性に優れた素材はコットン(綿)・リネン(麻)といった天然素材です。一方で、避けた方がよい素材は、ポリエステルやナイロンなどの一部の化学繊維です。化学繊維は丈夫なので夏服にも使用されていますが、子どもや汗をかきやすい方は、天然素材の割合が高い服を着ると汗疹の発症リスクを下げられるでしょう。
室内温度を適切にする
汗疹は屋外だけでなく屋内でも発症します。特に電気代の節約などを理由に、夏に室内温度を管理しなかったり、室内の空調温度を高めに設定したりしていると発症しやすいです。快適に感じる温度には個人差がありますが、室内の温度が28度以下になるように空調を設定するとよいでしょう。また室内では長時間座っていることも多く、この場合も汗疹を発症しやすいです。椅子に長時間座っていると太腿やお尻が蒸れてしまうので、室内の温度調整と合わせて下着やズボンを蒸れにくい素材にするなど工夫する必要があります。
汗はこまめに拭く
汗をこまめに拭くことも汗疹の予防では大切です。特に日本は夏の湿度が高いので、汗が蒸発しにくく汗疹が発症しやすい条件にあります。そのため、汗を拭き取ることで皮膚内部で汗が詰まるのを防ぎ、汗疹の予防につながります。また、スポーツをしている方は多量の汗をかくので、運動後には必ず着替えをしましょう。可能であれば、運動後すぐにシャワーを浴びると汗で排出された塩分などが流されて、さらに汗疹の予防になります。
参考文献