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林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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【出身大学】
名古屋市立大学
【経歴】
東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。
【資格】
医学博士、公認心理師、総合診療特任指導医、総合内科専門医、老年科専門医、認知症専門医・指導医、在宅医療連合学会専門医、禁煙サポーター
【診療科目】
総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の概要

慢性血栓塞栓性肺高血圧症とは、過去に発生した肺血栓塞栓症(肺の血管に血のかたまりが詰まる病気)がきっかけとなり、血管内に血栓が残存・固着することで、肺動脈の血流が慢性的に悪化し、肺高血圧症(肺の血圧が異常に高い状態)を引き起こす病気です。
英語ではChronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension(CTEPH)と呼ばれます。
肺の血管に詰まった血栓が自然に溶けずに残ると、血管が狭くなり、心臓(右心室)は血液を送り出すために大きな負担を強いられます。その結果、長期間にわたり右心室に負担がかかり続けると、右心不全へ進行する危険もあります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、初期には自覚症状がほとんどないことが多いため、発見が遅れるケースが少なくありません。しかし、早期に診断して適切な治療を行うことで、症状の進行を防ぎ、生活の質(QOL)を大きく改善できることが知られています。この記事では、この病気の原因、初期症状、診断、治療、予防方法について詳しく解説していきます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の原因

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の主な原因は、肺血栓塞栓症に続発するものです。肺血栓塞栓症は、一般に深部静脈血栓症(足の静脈にできた血栓)が血流に乗って肺に到達し、肺動脈に詰まることで起こります。通常は血栓が自然に溶解したり、血液の流れで押し流されたりして回復しますが、場合によっては血栓がそのまま肺の血管壁にこびりつき、硬くなってしまうことがあります。

こうして残存した血栓によって肺の血管が狭くなったり、閉塞したりすると、血流が滞り、肺動脈圧が慢性的に上昇します。この状態が続くことで、右心室に負担がかかり、右心機能の低下へとつながります。

なお、血栓が残りやすいリスク因子として、抗リン脂質抗体症候群や血液凝固異常症など、血液が固まりやすい体質を持っている方も挙げられます。手術や長時間の安静(長時間のフライトなど)後に深部静脈血栓症が発生し、その後慢性化してしまうケースも知られています。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の前兆や初期症状について

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の初期症状はあいまいで、風邪や軽い疲労、運動不足による息切れと区別がつきにくいため、見過ごされることも少なくありません。初期段階でよくみられるのは、労作時の息切れです。普段は気にならない程度の運動、例えば階段の昇り降りや軽い坂道の歩行などでも、息苦しさや動悸を感じることがあります。

初期の段階では、休憩を取れば症状が軽くなることが多く、深刻にとらえられない場合もあります。しかし、病状が進行すると、安静時にも呼吸の苦しさを感じるようになり、胸の圧迫感や慢性的な疲労感が目立ってきます。このような症状の進行度は、WHO肺高血圧症機能分類(WHO-FC)によって次の4段階に分けられます。

  • I度:日常生活に支障はなく、普通の身体活動では呼吸困難や疲労感、胸痛、失神などの症状は現れない
  • II度:安静時には自覚症状がないが、通常の身体活動で呼吸困難や疲労感、胸痛、失神などが起こる
  • III度:安静時には自覚症状がないが、普通以下の軽い活動でも息切れや強い疲労感、胸痛、失神などが起こり、日常生活に著しい制限が出る
  • IV度:安静時にも呼吸困難や疲労感がみられ、わずかな身体活動でも症状が悪化する

このように、病状が進むにつれて日常生活への影響が大きくなり、最終的には安静にしていても症状が現れるようになります。

また、慢性血栓塞栓性肺高血圧症が進行すると、心臓の右側に負担がかかり、右心不全と呼ばれる状態を引き起こします。右心不全では、血液がうまく循環できず、足のむくみや腹部の膨満感などの症状が現れるようになります。むくみは特に夕方から夜間にかけて目立ちやすく、全身のだるさや活動量の低下を招くこともあります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、軽い風邪症状や一時的な体力低下と勘違いされやすいため、診断が遅れることが少なくありません。特に、過去に肺血栓塞栓症を発症した既往がある方や、原因がはっきりしない息切れや疲労感が続く方は注意が必要です。このような症状に心当たりがある場合には、早めに呼吸器内科循環器内科を受診することが大切です。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の検査・診断

慢性血栓塞栓性肺高血圧症が疑われる場合、まず心エコー検査(心臓超音波検査)が行われます。心エコーでは、右心室の拡大や右心機能の低下、肺動脈圧の上昇などを推測できるため、スクリーニング検査として有用です。

さらに、正確な診断に右心カテーテル検査が欠かせません。カテーテルを静脈から心臓に挿入し、肺動脈圧や心拍出量を直接測定することで、肺高血圧の有無と重症度を正確に評価します。慢性血栓塞栓性肺高血圧症では、安静時にも肺動脈圧が上昇していることが特徴です。

また、換気・血流シンチグラフィー(V/Qスキャン)も重要な検査です。肺の換気と血流の分布を調べることで、血流障害のパターンを確認でき、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に特有の所見が得られます。さらに、造影CT(肺動脈造影CT)を用いて、血管の狭窄や閉塞の有無の確認も行います。

複数の検査を組み合わせることで、病態の把握と診断の精度を高めることができます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療は、血栓を取り除く外科的治療、血流を改善するカテーテル治療、および薬物療法を中心に行われます。

外科的治療の標準は、肺動脈血栓内膜剥離術(PEA:Pulmonary Endarterectomy)です。これは人工心肺を使用し、心臓への血流を一時的に止めて行う手術で、肺動脈の内膜ごと血栓を取り除く方法です。PEAは、血栓が太い肺動脈に限局している場合に有効であり、根本的な血流改善が期待できます。

手術が困難な場合には、バルーン肺動脈形成術(BPA)、または経皮経管的肺動脈拡張術(PTPA)と呼ばれるカテーテル治療が選択肢となります。これらは、細いカテーテルを太い血管から挿入し、血栓によって狭くなった部分をバルーンで拡張して血流を改善する方法です。

薬物療法としては、肺血管を拡張する可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬(リオシグアト)や、プロスタサイクリン受容体作動薬(セレキシパグ)が使用されます。これらの薬剤は肺動脈圧を低下させ、右心室への負担を軽減する効果が期待できます。

また、低酸素の状態が進行している場合には在宅酸素療法(HOT)、右心不全による体液貯留に対しては利尿薬の使用を検討します。再発を繰り返す血栓症例では、下大静脈フィルターの挿入が選択されることもあります。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症になりやすい人・予防の方法

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、もともと肺血栓塞栓症を発症した方に多くみられる病気です。特に、深部静脈血栓症を起こした既往がある方や、血液が固まりやすい体質(凝固異常症)を持つ方、抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫疾患を抱える方はリスクが高いとされています。

予防のためには、血栓症そのものを防ぐことが重要です。長時間の座位を伴う移動(例えば飛行機や車での長距離移動)の際には、こまめに身体を動かす、水分を適度に摂る、弾性ストッキングを使用するといった対策が推奨されます。手術後や長期間安静が必要な場合には、医師の指導のもとで血栓予防のための抗凝固療法を検討することもあります。

また、深部静脈血栓症を発症した場合には、指示された期間、確実に抗凝固薬を継続することが、慢性血栓塞栓性肺高血圧症への進行を防ぐ鍵となります。

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