淋菌性咽頭炎

淋菌性咽頭炎の概要

淋菌性咽頭炎とは、Neisseria gonorrhoeae（ナイセリア・ゴノレア）という細菌が、のどの粘膜に感染することで発症する性感染症の一種です。 通常の咽頭炎と異なり、主にオーラルセックスなど性行為に伴う粘膜の接触を通じて感染する点が特徴です。感染しても症状が現れないことも多く、知らないうちにほかの方へうつしてしまう恐れがあるため、早期の発見と適切な治療が重要です。

この感染症は性別に関わらず誰にでも起こりうるものですが、特に性行為の機会が多い方や、パートナーが複数いる方では感染のリスクが高くなります。感染に気付かず放置されることで、体内のほかの部位に広がったり、別の性感染症（例えばクラミジアや梅毒など）と同時に感染しているケースもあります。 淋菌性咽頭炎は、咽頭（のど）に限らず性器、肛門、目などさまざまな部位にも感染する可能性があり、症状がないからといって油断は禁物です。特にパートナーとの関係性のなかで無症状の感染者が存在していると、感染が繰り返されるリスクも高くなります。ここでは、淋菌性咽頭炎の原因、症状、診断、治療、予防法についてわかりやすく解説します。

淋菌性咽頭炎の原因

淋菌性咽頭炎の原因は、Neisseria gonorrhoeaeというグラム陰性の双球菌である淋菌が、口腔や咽頭の粘膜に感染し、炎症を引き起こすことによって発症します。この菌は感染力が高く、粘膜と粘膜が触れ合うわずかな接触でもうつる可能性があります。特に、オーラルセックスにより、感染者の精液や膣分泌液がのどに触れることで菌が侵入することが主な感染経路です。 通常の性行為だけでなく、キスなどよって感染する可能性もありますが、感染リスクはオーラルセックスが最も高いとされています。咽頭に感染した淋菌は、目立った症状がないまま長期間とどまり、別の方にうつしてしまう感染源となることがあります。また、のどに感染している状態で性行為を行えば、今度は自分から相手の性器に感染させてしまうおそれもあります。 また、咽頭内の淋菌は治療に対して耐性を持ちやすく、抗菌薬が効きにくい例も報告されており、正しい診断と治療の重要性がさらに高まっています。気付かぬうちに周囲の方々へ感染を広げてしまわないためにも、感染の経路とリスクを正しく理解することが大切です。

淋菌性咽頭炎の前兆や初期症状について

淋菌性咽頭炎は、多くのケースで自覚症状がほとんどないか、あっても軽度な風邪症状にとどまるため、感染に気付かないまま過ごしてしまうことが多くあります。症状が出る場合には、のどの痛みや違和感、軽い咳などがみられますが、これらは風邪やアレルギーと間違われやすく、医療機関でも見逃されることがあります。 一部の方では、のどの腫れや赤み、白い膿のような付着物が確認されることもありますが、それでも強い痛みや発熱が伴うことは少なく、無症状でありながら感染力は強いという特徴があるため、注意が必要です。また、ほかの性感染症（例えばクラミジア）と同時に感染している場合には、症状が重くなることもあります。

症状が軽いために検査を受けるきっかけがないまま感染を放置してしまうと、パートナーとの関係性のなかで何度も再感染が繰り返されてしまう可能性があります。そのため、オーラルセックスを行った経験がある方で、原因不明ののどの不調が続く場合や、パートナーが淋菌感染と診断された場合には、自分も感染している可能性を考えたうえで、早めに医療機関で検査を受けることが重要です。 診療科としては、耳鼻咽喉科や性感染症に詳しい泌尿器科、皮膚科、感染症内科が対応しており、症状が軽くても遠慮せずに相談することが大切です。

淋菌性咽頭炎の検査・診断

淋菌性咽頭炎の診断は、のどの粘膜から採取した咽頭ぬぐい液を使って行われます。細い綿棒でのどの奥をぬぐい、その検体を使って淋菌が存在するかどうかを検査します。近年では、核酸増幅法が診断の主流となっており、検出感度が高く、迅速な結果が得られるという利点があります。 核酸増幅法にはいくつか種類があり、具体的にはSDA法、TMA法、PCR法などが医療機関で広く使用されています。これらの検査は、淋菌の遺伝子を増幅して検出するため、症状がほとんどないケースでも正確な診断が可能です。 加えて、グラム染色や培養検査も診断の補助として用いられることがあります。グラム染色では、咽頭ぬぐい液を顕微鏡で観察し、グラム陰性双球菌である淋菌の形状を確認します。ただし、咽頭内の常在菌との鑑別が難しいため、あくまで参考所見とされます。確定診断には、より精度の高い核酸増幅法が推奨されます。

検査結果は、通常数分から数日以内に判明します。医師は、問診や症状の内容、パートナーの感染歴などを総合的に考慮しながら診断を進めます。性感染症が疑われる場合には、咽頭だけでなく性器や肛門などほかの部位についても診察や検査を行い、別の性感染症が同時に感染していないかどうかもあわせて確認します。

淋菌性咽頭炎の治療

淋菌性咽頭炎が診断された場合、治療の基本は抗菌薬の内服または注射です。かつてはペニシリン系の抗生物質が用いられていましたが、近年は耐性菌の増加により、現在ではセフトリアキソン（注射）とアジスロマイシン（内服）の併用が一般的な初期治療とされています。これにより、淋菌に加えてクラミジアなどほかの性感染症の同時治療も可能になります。 ただし、淋菌は年々多剤耐性化が進んでおり、治療薬が効かない例も報告されています。そのため、治療を受けた後も、確実に菌が排除されているかどうかを確認する治癒確認検査（TOC：Test of Cure）が重要になります。特に咽頭感染の場合は、性器感染よりも治療効果が不安定であるため、治療終了から1〜2週間後に再検査を行うことが推奨されます。 治療期間中および治療後しばらくの間は、パートナーとの性行為を控えることが大切です。パートナーにも検査と同時治療を受けてもらうことが重要であり、これにより再感染のリスクを減らすことができます。

淋菌性咽頭炎になりやすい人・予防の方法

淋菌性咽頭炎は、オーラルセックスによって感染することが多く、性的接触の頻度が高い方や、複数のパートナーがいる方に感染リスクが高いとされています。特に、コンドームなどの保護具を使用しない場合は、粘膜を通じて菌が体内に入りやすく、感染の機会が増加します。 この感染症の特徴として、症状がほとんど出ないことが多く、自分でも気付かないまま他者にうつしてしまうことが少なくありません。そのため、感染リスクのある行動をとった後に、のどの違和感や痛みなどの症状がある場合には、早めに医療機関を受診することが大切です。

予防には、まず正しい性知識を身につけることが基本です。保護具の使用や、リスクのある行為を避けることは感染を防ぐ第一歩になります。また、心配な接触があった際に自分の体調の変化に気付き、必要に応じて検査を受ける判断ができるようにしておくことも重要です。 さらに、パートナーとの間で性感染症に関する情報をきちんと共有し、感染が確認された場合は一緒に治療を受ける姿勢を持つことが、再感染の防止や周囲への感染拡大の防止につながります。