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サイトメガロウイルス肺炎
稲葉 龍之介

監修医師
稲葉 龍之介(医師)

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福井大学医学部医学科卒業。福井県済生会病院 臨床研修医、浜松医科大学医学部付属病院 内科専攻医、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員、磐田市立総合病院 呼吸器内科 医長などで経験を積む。現在は、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員。日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本感染症学会 感染症専門医 、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医。日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(JMECC)修了。多数傷病者への対応標準化トレーニングコース(標準コース)修了。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。身体障害者福祉法第15条第1項に規定する診断医師。

サイトメガロウイルス肺炎の概要

サイトメガロウイルス肺炎は免疫力低下により発症する日和見感染症に分類されるウイルス肺炎です。
サイトメガロウイルスは幼少時に不顕性感染の形で感染が成立することが多く、感染経路としては、母乳、尿、唾液による水平感染や産道感染、輸血、性行為が報告されています。生涯その宿主に潜伏感染し、免疫抑制状態下で再活性化してサイトメガロウイルス感染症となって種々の病態を引き起こします。

サイトメガロウイルス肺炎の原因

サイトメガロウイルスは、ヒトヘルペスウイルス6やヒトヘルペスウイルス7と同じヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科に属する、ヘルペスウイルス科のなかでは最大のウイルスです。
サイトメガロウイルスによる感染症は、血液などの検体から体内にウイルスが同定される状態にあるサイトメガロウイルス感染と、臓器障害など臨床症状を伴うサイトメガロウイルス感染症に分類されます。活動的なサイトメガロウイルス感染を示す所見は以下のとおりです。

  • サイトメガロウイルスの分離・同定
  • サイトメガロウイルス抗原陽性多形核白血球の検出(サイトメガロウイルス抗原血症)
  • 標準化定量PCRによるサイトメガロウイルスDNAの検出
  • 細胞・組織病理学的にサイトメガロウイルス感染細胞の証明

サイトメガロウイルス感染はサイトメガロウイルス感染症の前段階ですが、サイトメガロウイルス感染がすべてサイトメガロウイルス感染症に移行するわけではありません。
乳幼児期にサイトメガロウイルス感染を受けずに成人となる方が増えたため、サイトメガロウイルス抗体の陽性率は日本の妊娠可能な女性において70%と報告されており低下傾向です。そのため先天性サイトメガロウイルス感染症患児を出産する頻度が増加することが懸念されています。
臓器移植や悪性腫瘍の治療のために免疫抑制剤の投与を受けている患者さんや、先天性免疫不全患者さんや、後天性免疫不全症候群(acquired immuno deficiency syndrome:AIDS)患者さんなどの免疫不全状態の方におけるサイトメガロウイルス感染症のほとんどは、体内に潜伏感染していたサイトメガロウイルスの再活性化が原因です。

サイトメガロウイルス肺炎の前兆や初期症状について

固形臓器移植後の免疫不全患者さんでは、移植後1〜3ヶ月でサイトメガロウイルス感染症が起こりやすく、重症化しやすいと報告されています。免疫不全患者さんにおけるサイトメガロウイルス感染症では肺炎が多く認められますが、網膜炎、腸炎、肝炎、脳炎としても発症することがあります。
サイトメガロウイルス肺炎の症状としては発熱、乾性咳嗽、呼吸困難が認められますが非特異的です。また、副腎皮質ステロイド投与を受けている場合には発熱などの症状を伴わないこともあり注意が必要です。
このような症状を認めた際には、免疫抑制剤の投与を受けている患者さん、先天性免疫不全患者さん、後天性免疫不全症候群患者さんなどではまず定期通院している病院・クリニックを受診してください。免疫不全を指摘されていない方の場合は、症状だけでサイトメガロウイルス肺炎を鑑別に挙げることは困難ですが、乾性咳嗽、呼吸困難といった呼吸器症状を認めることが多いため呼吸器内科を受診してください。

サイトメガロウイルス肺炎の検査・診断

サイトメガロウイルス感染症患者さんの血液検査では白血球減少症、血小板減少症などの骨髄抑制所見、異型リンパ球の出現、低蛋白血症などが認められます。
サイトメガロウイルス肺炎では胸部X線写真や胸部CT検査で肺にモザイク状のすりガラス影、浸潤影、散在する境界不明瞭な小結節影を呈することが特徴的と報告されています。
サイトメガロウイルス肺炎を診断するためにはサイトメガロウイルスの検出が必要であり、日本ではサイトメガロウイルスpp65抗原(C7-HRP)検査とサイトメガロウイルス特異的IgM抗体検査が行われています。サイトメガロウイルスpp65抗原(C7-HRP)検査ではサイトメガロウイルス抗原陽性細胞が末梢血多形核白血球中にどれだけ存在するかの定量検出が可能であり、抗ウイルス薬の適応判断や治療効果判定に有用であり、実臨床で頻用されています。

またサイトメガロウイルス肺炎の診断にあたっては病理学的にサイトメガロウイルスが証明され、ほかの感染症が否定されることが望ましいため、可能であれば気管支鏡検査外科的肺生検が行われます。サイトメガロウイルス肺炎では気管支肺胞洗浄液や肺組織中に、サイトメガロウイルスに特徴的な封入体が認められます。またサイトメガロウイルス肺炎では、気管支肺胞洗浄液を用いての核酸増幅(polymerase chain reaction:PCR)法でサイトメガロウイルスDNAが検出されることがありますが、確定診断とはなりません。

サイトメガロウイルス肺炎の治療

サイトメガロウイルス肺炎の治療には抗ウイルス薬であるガンシクロビル、バルガンシクロビルが用いられます。さらにガンシクロビルに加えて高用量免疫グロブリンが併用されることもあります。

ガンシクロビル

ガンシクロビルは初期投与量として1回につき体重1kgあたり5mgを1日2回点滴静注し、14日間投与します。初期投与量で十分な治療効果が得られない場合には、14日間を過ぎても初期投与量での投与継続が検討されます。維持療法が必要な場合には、1回につき体重1kgあたり5mgを1日1回点滴静注し週7日間投与するか、1回につき体重1kgあたり6mgを1日1回点滴静注し週5日間投与します。維持療法中にサイトメガロウイルス肺炎の再燃が認められた場合には、初期投与量への増量が検討されます。
ガンシクロビルの副作用としては白血球減少症、貧血、血小板減少症などの骨髄抑制、腎機能障害、膵炎、深在性血栓性静脈炎、痙攣、精神病性障害などの神経障害が報告されています。副作用のなかで頻度が高いのは白血球減少症であり、ガンシクロビルの減量や投与中止、あるいは顆粒球コロニー形成刺激因子(granulocyte colony stimulating factor:G-CSF)製剤の投与が検討されます。また重症貧血、重症血小板減少症を認めた場合には輸血も考慮されます。ガンシクロビルは好中球数 500/μL未満または血小板数25000/μL未満など著しい骨髄抑制が認められるには投与禁忌となることに注意が必要です。また腎機能障害の程度に応じて減量が必要となります。

バルガンシクロビル

バルガンシクロビルはガンシクロビルのL-バリンエステル体で、体内に吸収されてただちにガンシクロビルへと変換されます。初期投与量として1回900mgを1日2回食後に内服し、最大21日間投与します。維持治療は1回900mgを1日1回食後に内服します。
バルガンシクロビルの副作用はガンシクロビルと同様で白血球減少症、貧血、血小板減少症などの骨髄抑制、腎機能障害、膵炎、深在性血栓性静脈炎、痙攣、精神病性障害などの神経障害が報告されています。特に初期投与量での投与期間が21日を超えると、高度な白血球減少症が認められるため注意が必要です。また腎機能障害の程度に応じて減量が必要となり、さらにクレアチニンクリアランスが10mL/min未満の血液透析患者さんではガンシクロビルを選択することとされています。ガンシクロビルと同様に、好中球数 500/μL未満または血小板数25000/μL未満など著しい骨髄抑制が認められるには投与禁忌となることに注意が必要です。

サイトメガロウイルス肺炎になりやすい人・予防の方法

サイトメガロウイルス肺炎は日和見感染症であり、臓器移植や悪性腫瘍の治療のために免疫抑制剤の投与を受けている患者さんや、先天性免疫不全患者さんや、後天性免疫不全症候群(acquired immuno deficiency syndrome:AIDS)患者さんなどの免疫不全状態の患者さんにおいて発症することが多い傾向にあります。
一方で、明らかな免疫不全のない方でもサイトメガロウイルス肺炎を発症することはあります。予防のためには十分な感染対策を行い、体調を整えることが重要と考えられます。
造血幹細胞移植後の患者さんにおいては、サイトメガロウイルスpp65抗原(C7-HRP)検査あるいは核酸増幅(polymerase chain reaction:PCR)法でのウイルス量測定によりモニタリングを行い、臨床症状が認めなくても検査結果で開始基準(カットオフ値)を超えるサイトメガロウイルスが検出された場合には、サイトメガロウイルス感染症の発症予防のためただちに抗ウイルス薬の投与を行う先制治療が行われています。先制治療に用いられる抗ウイルス薬としてはガンシクロビル、バルガンシクロビル、ホスカルネットが挙げられます。

関連する病気

  • 免疫不全症
  • 細胞傷害性T細胞減少症

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