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ALK融合遺伝子陽性肺がん
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

ALK融合遺伝子陽性肺がんの概要

ALK(アルク)融合遺伝子陽性肺がんは、非小細胞肺がん(NSCLC)の一種で、肺腺がんの患者の約3〜5%に認められるまれなタイプのがんです。ALK融合遺伝子陽性肺がんは「ALK融合遺伝子」と呼ばれる遺伝子異常が原因で発生し、がん細胞が制御不能に増殖します。一般的な肺がんと異なり、喫煙との関連性が低いと考えられており、非喫煙者や比較的若年層にも見られることが特徴です。

初期の自覚症状はほとんどなく、進行すると長引く咳や息切れ、胸の痛み、さらには脳や骨への転移による神経症状が現れることがあります。診断には、CTやPET-CTなどの画像検査に加え、組織検査や遺伝子検査が必要です。確定診断にはALK融合遺伝子の有無を確認する検査が欠かせません。

治療の中心は、「ALK阻害薬」と呼ばれるALK融合タンパクの働きを抑える治療薬です。治療後も薬が効かずに生き残る細胞があり、再発の原因となることがあります。

ALK融合遺伝子陽性肺がんの原因

ALK融合遺伝子陽性肺がんは、「ALK融合遺伝子」と呼ばれる異常な遺伝子によって発生するがんです。

ALK(Anaplastic lymphoma kinase:未分化リンパ腫キナーゼ)遺伝子は、本来、細胞の正常な増殖を調整する役割を持っています。ALK遺伝子が別の遺伝子と融合すると、ALK融合タンパクという異常なタンパクが作られます。ALK融合タンパクは、細胞に過剰な増殖の指示を出し、がん細胞が増殖する原因となります。

ALK融合遺伝子がどのように発生するのかについては、現在の医学でも完全には解明されていません。しかし、肺がんの中でも特に腺がんの患者に多く見られることがわかっており、遺伝的な要因が関与している可能性も示唆されています。

ALK融合遺伝子陽性肺がんは、他の遺伝子変化(EGFR遺伝子変異やKRAS遺伝子変異)が原因となる肺がんと同時に発生することはないとされています。

また、一般的な肺がんとは異なり、喫煙や大気汚染など外部の環境要因との関連性はほとんどないと考えられています。

ALK融合遺伝子陽性肺がんの前兆や初期症状について

ALK融合遺伝子陽性肺がんは、一般的な肺がんと同様に、初期の段階では自覚症状に乏しく、気づかないうちに進行してしまうことの多い病気です。

症状の一つは、原因不明の咳が長引くことです。腫瘍が大きくなると気管支を圧迫し、息苦しさや胸の痛みを感じることがあります。階段を上るとすぐに息が切れる、深呼吸がしづらくなるといった症状も出現する可能性があります。

また、ALK融合遺伝子陽性肺がんは、脳や骨への転移を起こしやすいという特徴があります。そのため、肺がんとしての症状以外に頭痛やめまい、視力の異常、手足のしびれといった神経症状が現れやすいのも特徴の一つです。

ALK融合遺伝子陽性肺がんの検査・診断

ALK融合遺伝子陽性肺がんの確定診断には遺伝子検査が必要です。一般的な肺がんと同じように画像検査で肺の異常を確認し、組織検査でがん細胞の性質を調べた後、遺伝子検査でALK融合遺伝子の有無を特定します。

画像検査

CT検査では、肺の内部を詳細に映し出し、腫瘍の位置や大きさ、周囲の臓器への影響を評価します。MRI検査は、特に脳や骨などへの転移の有無を調べる際に用いられます。PET-CT(陽電子放射断層撮影)は、がん細胞の活動の様子を可視化し、全身の転移を調べるのに役立ちます。

組織検査

組織検査である気管支鏡検査では、細い管を口や鼻から挿入し、肺の内部を直接観察しながら腫瘍組織の一部を採取します。CTガイド下生検では、CT画像を使いながら細い針を肺に刺し、がん細胞を採取します。採取した組織は、顕微鏡で詳しく調べられ、がんの種類や性質が判断されます。

遺伝子検査

遺伝子検査の方法として、ALKタンパクの有無を確認するRT - PCRがあります。蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)という方法では、ALK遺伝子の異常があるかどうかを詳しく調べることができます。

ALK融合遺伝子陽性肺がんの治療

ALK融合遺伝子陽性肺がんの治療では、ALK融合タンパクの働きを抑えるALK阻害薬が効果的です。しかし、長期間の使用によって薬が効かなくなる「耐性化」が起こることもあり、耐性化が起きた場合には別の治療法への切り替えが必要となります。

ALK阻害薬による分子標的治療

ALK阻害薬は、ALK融合タンパクの働きを抑え、がん細胞の増殖を防ぐ薬です。アレクチニブという薬剤が第一選択薬として広く使用されています。

耐性化への対応と化学療法

ALK阻害薬は高い効果を発揮しますが、長期間の使用により耐性が生じ、次第に効果が薄れてしまった場合、新しいALK阻害薬への切り替えが行われます。それでも効果が見られない場合には、従来の化学療法(抗がん剤)が選択肢となります。

ALK融合遺伝子陽性肺がんになりやすい人、予防の方法

ALK融合遺伝子陽性肺がんは、非喫煙者や若年層にも発症することが特徴です。一般的な肺がんは、喫煙歴のある高齢者に多く見られますが、ALK融合遺伝子陽性肺がんは喫煙歴のない人や、50歳代以下の年齢層にも発症しやすい傾向があります。

また、ALK融合遺伝子の異常が発生するメカニズムはまだ完全には解明されていないため、ALK融合遺伝子陽性肺がんの予防方法も確立されていません。

ALK融合遺伝子陽性肺がんは比較的まれながんですが、従来の肺がんのリスク要因に該当しない人でも、このタイプのがんを発症する可能性があります。早期発見のためには、症状の有無にかかわらず定期的な健康診断を受けることが重要です。

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