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鼻咽腔血管線維腫
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。

鼻咽腔血管線維腫の概要

鼻咽腔血管線維腫(Nasopharyngeal angiofibroma)は、主に思春期の男性の鼻咽腔に発生するまれな良性の腫瘍です。鼻咽腔血管線維腫は一般的には若年性鼻咽腔血管線維腫(Juvenile Nasopharyngeal Angiofibroma)と表記されます。

この腫瘍は鼻の奥にある上咽頭部分に発生し、血管が豊富に含まれています。鼻咽腔血管線維腫は組織学的には良性ですが、周囲の組織に浸潤しながら成長することがあり、放置すると腫瘍の大きさや位置によって呼吸や視力に影響を及ぼすことがあります。

発症年齢としては、特に10代の男児に好発します。腫瘍は血流が豊富で成長が早く周囲の組織に浸潤することが多いため、早期の診断と治療が重要です。

鼻咽腔血管線維腫の原因

鼻咽腔血管線維腫の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、主に思春期の男性に多く見られることから、性ホルモンの変化が関与していると考えられています。また、鼻咽腔血管線維腫そのものに遺伝的要因はないとされていますが、家族性大腸腺腫症の家系に好発することは知られています。

腫瘍の発生には、成長因子や血管内皮細胞の増殖が関与していると考えられています。これにより、腫瘍は血管が豊富で、出血しやすい性質を持っています。腫瘍の成長は思春期の成長と関連していて、成長が止まると腫瘍の成長も鈍化することが多いようです。

鼻咽腔血管線維腫の前兆や初期症状について

鼻咽腔血管線維腫の初期症状は、以下のようなものがあります。

鼻出血

特に片側からの出血が多く見られます。出血は頻繁で、ときには重度になることもあります。鼻出血は、腫瘍が血管を圧迫することによって引き起こされます。

鼻づまり

鼻腔が腫瘍によって圧迫されるため、呼吸が困難になることがあります。これにより、睡眠時にいびきをかくことや、日常生活での呼吸困難を感じることがあります。

頭痛

特に顔の上部や鼻の周りに痛みを感じることがあります。腫瘍が周囲の神経を圧迫することによって頭痛が引き起こされることがあります。

嗅覚の低下

鼻腔が塞がれることで、匂いを感じにくくなることがあります。これにより食欲が低下することもあります。

顔の腫れ

腫瘍が成長することで、顔の一部が腫れることがあります。特に頬や目の周りに腫れが見られることがあります。

これらの症状は腫瘍が成長するにつれて悪化し、ほかの症状が現れることもあります。
例えば、繰り返す滲出性中耳炎や難聴、視力低下を生じることがあります。さらに腫瘍が成長する過程で顔面骨や頭蓋骨を破壊してゆくため、眼球突出をはじめとする顔面の変形を伴う場合もあります。中頭蓋底や翼状突起への浸潤が起こると再発しやすいとされます。

早期の診断が適切な治療につながるため、症状が現れた場合は速やかに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。

鼻咽腔血管線維腫の検査・診断

鼻咽腔血管線維腫の診断は、主に以下の方法で行われます。

1. 内視鏡検査

鼻の奥を直接観察するために、内視鏡を使用します。これにより、腫瘍の大きさや位置を確認できます。
発症年齢や性別といった背景情報と、豊富な血流を反映して赤みを帯びた腫瘍の状態から、鼻咽腔血管線維腫を疑います。
内視鏡検査は痛みが少なく迅速に行えるため、初期診断に適しています。なお、大出血の原因になりうるため、原則として生検は禁忌とされています。

2. 画像診断

CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)を用いて、腫瘍の詳細な画像を取得します。これにより、腫瘍の広がりや周囲の組織への影響を評価します。特にMRIは、腫瘍の性質や周囲の組織との関係を明確にするのに役立ちます。

3. 血管造影

腫瘍に血液を供給している血管を特定するために行われます。通常は手術前に実施され、引き続いて特定された血管に塞栓物質を詰めて血流と遮断します。これにより、手術中の出血を最小限に抑えることができます。

鼻咽腔血管線維腫の治療

鼻咽腔血管線維腫の治療は主に外科手術によって行われます。
手術の目的は、腫瘍を完全に切除することです。手術は通常、全身麻酔下で行われ、腫瘍の位置に応じて適切なアプローチが選択されます。血管が豊富な腫瘍で出血コントロールが重要になるため、手術前に血管造影を行って腫瘍に血液を供給する血管を突き止め、その血管を塞いでおく選択的血管塞栓を併用します。

腫瘍の大きさや位置によっては内視鏡を用いた手術も可能で、これにより大きな切開を避けることができます。鼻咽腔血管線維腫の患者さんは若年男性なので、手術による傷跡が小さく済む内視鏡手術は有用です。ただし海綿静脈洞への浸潤、内頸動脈への進展がある場合は手術中に大量出血する恐れがあるため、通常切開による手術が推奨されます。
一般的な切開手術は経口蓋アプローチ、鼻側切開術、midfacial degloving 法、facial translocation 法、側頭下窩アプローチなど、可能な限り見えない場所か目立たない場所を切開します。

手術が困難な場合や再発した場合には、放射線療法が補助的に用いられることがあります。放射線療法は、腫瘍の成長を抑える効果がありますが、周囲の健康な組織にも影響を与える可能性があるため、慎重に行う必要があります。

さらに、手術の前後や放射線治療の補助として、エストロゲンやテストステロンなどの性ホルモンの投与による腫瘍の縮小が検討されることもあります。

鼻咽腔血管線維腫は良性腫瘍のため、生命予後は一般的によいと考えられていますが、再発することもあるため、手術後も定期的なフォローアップが必要です。

鼻咽腔血管線維腫になりやすい人・予防の方法

鼻咽腔血管線維腫は主に思春期の男性に多く見られるため、性別や年齢がリスク要因となります。具体的には、以下のような方々が鼻咽腔血管線維腫になりやすいとされています。

思春期の男性

特に7歳から19歳の間に多く発生します。この時期は成長ホルモンの影響を受けやすく、腫瘍の発生リスクが高まります。

家族性大腸腺腫症の家系

家族性大腸腺腫症の家系にある方は鼻咽腔血管線維腫を発症するリスクが高いことがわかっています。

予防策として特に有効な方法は確立されていませんが、早期の症状に気付き、適切な医療機関での診断検査を受けることが重要です。鼻出血や鼻づまりなどの症状が見られた場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

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