

監修医師:
稲葉 龍之介(医師)
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福井大学医学部医学科卒業。福井県済生会病院 臨床研修医、浜松医科大学医学部付属病院 内科専攻医、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員、磐田市立総合病院 呼吸器内科 医長などで経験を積む。現在は、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員。日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本感染症学会 感染症専門医 、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医。日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(JMECC)修了。多数傷病者への対応標準化トレーニングコース(標準コース)修了。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。身体障害者福祉法第15条第1項に規定する診断医師。
目次 -INDEX-
アスベスト関連疾患の概要
アスベスト関連疾患とは、石綿(アスベスト)を吸入したことにより発症する疾患である中皮腫、原発性肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水のことを指します。石綿(アスベスト)の吸入開始から発症までの潜伏期間が長いことが特徴です。このうち中皮腫、原発性肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚は石綿健康被害救済制度の対象疾患となっています。 アスベスト関連疾患のなかでも中皮腫、石綿肺は石綿吸入は石綿(アスベスト)吸入に特異的な疾患ですが、一方で原発性肺がんやびまん性胸膜肥厚は石綿(アスベスト)吸入以外の原因でも生じることがある点に注意が必要です。中皮腫の概要
中皮腫は、肺を覆う臓側胸膜・壁側胸膜、肝臓や胃などを覆う腹膜、心臓および大血管起始部を覆う心膜、そして精巣鞘膜にできる悪性腫瘍です。すべての中皮腫のうち、胸膜中皮腫が約90%を占めており最多です。組織学的には上皮様(全体の50〜70%)、二相性(全体の10〜20%)、肉腫様、線維形成性に分類されます。石綿肺の概要
石綿肺は、粉塵を長期間吸入することで発症するじん肺の一種で、石綿(アスベスト)を大量に吸入することにより肺が線維化する疾患です。びまん性胸膜肥厚の概要
石綿(アスベスト)吸入によるびまん性胸膜肥厚は、良性石綿胸水による胸水貯留を反復した結果として生じることが多い、臓側胸膜の慢性線維性胸膜炎です。胸壁を覆う壁側胸膜にも病変が及んで両者が癒着していることが多いとされます。アスベスト関連疾患の原因
アスベスト関連疾患の原因は天然に産出する繊維状の鉱物である石綿(アスベスト)です。石綿(アスベスト)の繊維は肉眼では見ることができないレベルであり、飛散すると空気中に浮遊しやすく、人間が吸入すると肺胞に沈着しやすい特徴があります。吸入された石綿(アスベスト)の一部は痰に混じって体外へ排出されますが、排出されなかった石綿(アスベスト)は肺胞内に長く滞留します。この石綿(アスベスト)が原因となってアスベスト関連疾患が引き起こされます。中皮腫の原因
胸膜中皮腫の男性患者さんでは80~90%に明らかな石綿(アスベスト)吸入歴がありますが、女性の場合には明らかな石綿(アスベスト)吸入歴がある割合は男性に比べて低いとされます。石綿(アスベスト)吸入から中皮腫発症までの潜伏期間は平均40~50年と長く、20年以下での発症は少なく、10年未満で発症した方の報告はありません。石綿肺の原因
石綿肺は石綿(アスベスト)を大量に長期間吸入曝露した労働者に起こることが知られています。1970年代後半以降の規制により、大量・長期間の石綿(アスベスト)を吸入する機会が減少していることから新規の石綿肺患者さんは発生しなくなりつつあります。びまん性胸膜肥厚の原因
びまん性胸膜肥厚も石綿肺と同様に高濃度の石綿(アスベスト)を吸入することで発症すると考えられており、潜伏期間は30〜40年という報告があります。アスベスト関連疾患の前兆や初期症状について
中皮腫の症状について
胸膜中皮腫の方に多い症状は呼吸困難、胸痛です。ほかには咳嗽、発熱、全身倦怠感、体重減少なども認められます。一方で無症状のまま胸部X線写真で胸水を発見される例も認めます。 腹膜中皮腫の方では、腹痛、腹部膨満感、腹水貯留などが認められます。原発性肺がんの症状について
原発性肺がんの方では咳嗽、喀痰、血痰などの症状が認められることがあります。一方で無症状のまま胸部X線写真や胸部CT検査で胸部異常陰影として発見される例も認めます。びまん性胸膜肥厚の症状について
びまん性胸膜肥厚の方では呼吸困難、反復性の胸痛などが認められることがあります。アスベスト関連疾患が心配なときには
アスベスト関連疾患は、石綿(アスベスト)を吸入した後に長い潜伏期間を経て発症します。過去に石綿(アスベスト)を吸入した可能性があり、上記の様な症状がある方や、無症状でも心配な方は呼吸器内科や近隣の労災病院を受診してください。アスベスト関連疾患の検査・診断
中皮腫の検査・診断
中皮腫では胸部X線写真、胸部CT検査などの画像検査、胸水・腹水穿刺による細胞診断が行われます。また確定診断には病理組織診断が必須となるため、胸腔鏡、腹腔鏡などによる胸膜生検、腹膜生検が行われます。原発性肺がんの検査・診断
石綿健康被害救済制度の対象となるのは原発性肺がんであり、転移性肺腫瘍との鑑別が必要になるため病理組織診断のために気管支鏡検査などが行われます。石綿(アスベスト)吸入が原因である肺がんの診断には、高濃度の石綿(アスベスト)曝露作業歴があることに加えて、じん肺法で定められた1型以上と同様の肺線維化所見、広範囲な胸膜プラーク、肺内の石綿(アスベスト)小体などの医学的所見が参考になります。石綿肺の検査・診断
石綿肺を診断するためには、胸部X線写真で両下肺野線状影などの不整形陰影の所見を認めることと、大量の石綿(アスベスト)曝露歴が必須です。高分解能胸部CT検査は診断に有用ですが、1度の検査で石綿肺と確定診断をすることはできず、特発性間質性肺炎、膠原病関連間質性肺疾患、薬剤性肺障害、下気道感染症と鑑別するために経過観察が必要となります。びまん性胸膜肥厚の検査・診断
びまん性胸膜肥厚の診断には、胸部X線写真で側胸部のびまん性胸膜肥厚像が片側性の場合は側胸壁の1/2以上、両側性の場合は側胸壁の1/4以上が目安になるとされています。また多くの方で肋骨横隔膜角の消失が認められます。アスベスト関連疾患の治療
中皮腫の治療
上皮様胸膜中皮腫は胸膜切除/肺剥皮術(P/D)などの外科療法や、免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物療法による治療で長期生存が期待されるようになってきました。腹膜中皮腫でも、腹膜切除術(CRS)と術中腹腔内温熱化学療法(HIPEC)により予後は改善されてきています。原発性肺がんの治療
原発性肺がんの治療は病期により外科療法、放射線療法、薬物療法が選択されます。外科療法では胸腔鏡手術によって高齢者や呼吸機能障害を合併する患者さんでも治療が行えるようになっています。また切除された肺組織の一部を用いて石綿小体濃度を測定することによって、石綿健康被害救済制度の対象疾患となるか判断することができます。放射線治療も定位放射線療法や重粒子線治療も行われるようになってきています。薬物療法も副作用の予防法や対策が進歩していることもあり、長期入院ではなく定期通院しながら外来で治療を受けることが多くなっています。石綿肺の治療
咳嗽に対する鎮咳剤や、喀痰に対する去痰剤による対症的な薬物療法が行われます。石綿肺患者さんの一部では、肺線維化が進行することで酸素と二酸化炭素のガス交換機能が損われてしまい呼吸困難が生じることがあります。進行して慢性呼吸不全を呈した場合には在宅酸素療法が開始されます。びまん性胸膜肥厚の治療
現在のところ、びまん性胸膜肥厚に特別な治療法はありません。病状が進行して慢性呼吸不全を認めた場合には在宅酸素療法などが行われます。アスベスト関連疾患になりやすい人・予防の方法
石綿(アスベスト)を吸入したことによる中皮腫や原発性肺がんの発症を予防する有効手段は現時点では明らかではありません。しかし石綿(アスベスト)を吸入した方全員がアスベスト関連疾患を発症するわけではありません。中皮腫になりやすい人
胸膜中皮腫は石綿(アスベスト)の累積吸入量が多いほど発症率が上昇します。また原発性肺がんや石綿肺よりも低濃度の石綿(アスベスト)吸入でも発症する危険性があり、職業的曝露のみならず家庭曝露や近隣曝露による発症も報告されています。 さらに腹膜中皮腫の男性患者さんでは角閃石族石綿(青石綿、茶石綿)の曝露が多いとされています。また胸膜中皮腫と比べて、明らかな石綿(アスベスト)吸入歴がない割合は約40%と多く認められます。特に女性の腹膜中皮腫では石綿(アスベスト)吸入歴が判明する場合は25%以下と報告されています。原発性肺がんになりやすい人・予防の方法
原発肺がん発症の大きなリスクは喫煙ですが、石綿(アスベスト)吸入によりそのリスクはさらに上昇することが知られています。具体的には喫煙しない方の原発性肺がんの発症リスクを1とすると、喫煙者では10倍、石綿(アスベスト)曝露者は5倍、喫煙をする石綿(アスベスト)曝露者では50倍とされています。そのため原発性肺がん発症のリスクを減らすためには、禁煙が重要となります。関連する病気
- 肺癌
- 悪性中皮腫
- アスベスト肺
参考文献




