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扁桃悪性リンパ腫
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

扁桃悪性リンパ腫の概要

悪性リンパ腫とは、リンパ球の一部が異常に増殖したもので、がんの一種です。リンパ球は身体の免疫を担い、ウイルスや細菌を排除する働きがあります。扁桃悪性リンパ腫とは、扁桃という喉の組織に生じた悪性リンパ腫です。

扁桃とは、喉にあるリンパ組織です。リンパ球が数多く存在し、ウイルスや細菌などの病原体から身体を守る役割を担っています。以下のような扁桃組織が喉を取り囲んでいます。

  • 口蓋扁桃(こうがいへんとう)
  • 咽頭扁桃(いんとうへんとう、アデノイド)
  • 舌扁桃
  • 耳管扁桃

扁桃はリンパ球が多く集まる部位のため、悪性リンパ腫の好発部位となっています。扁桃悪性リンパ腫は、扁桃のなかでは口蓋扁桃に多く発生し、次に咽頭扁桃に多いとされています。

悪性リンパ腫は、リンパ組織であるリンパ節、脾臓(ひぞう)、扁桃などのリンパ系の組織で発生しやすいことが知られています。しかし、リンパ球は全身を巡っているため、胃や腸、脳、皮膚など、リンパ組織以外の部位に発生する場合もあります。

悪性リンパ腫には何十種類もの種類がありますが、扁桃に発生する悪性リンパ腫は、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)という組織型の頻度が高いことが報告されています。

扁桃悪性リンパ腫の原因

扁桃悪性リンパ腫の原因ははっきりわかっていません。一部ではHIV、EBウイルスなどのウイルス感染が関与している報告もありますが、ほとんどの悪性リンパ腫の原因は不明です。
悪性リンパ腫の発症には、リンパ球の異常増殖を引き起こす遺伝子変異が関与していると考えられています。悪性リンパ腫に関与する遺伝子異常は複数報告されています。しかし、遺伝子異常がなぜ出現するかの明確な原因は、解明されていません。

扁桃悪性リンパ腫の前兆や初期症状について

初期の段階では症状がほとんどありません。初期症状としては、喉の異物感、嚥下時痛が起こります。この症状は、ほかの扁桃疾患である扁桃炎、頚部リンパ節炎、扁桃肥大などと間違われる場合があります。
病状が進行すると扁桃が大きくなり、嚥下困難感を起こすことがあります。咽頭出血が起こることもあります。

さらに進行すると、扁桃だけでなく周囲のリンパ節、全身のリンパ節へと広がります。
扁桃周囲に広がると、耳の違和感や痛みが起こったり、耳管という耳と鼻をつなぐ管が圧迫されて中耳炎や難聴を起こすこともあります。上咽頭に広がると鼻詰まりや鼻出血を起こします。また、首のリンパ節が腫れることもあります。
全身のリンパ節が腫れる場合、首だけでなく脇や鼠径部(足の付け根)のリンパ節が腫れる場合もあります。

扁桃悪性リンパ腫に限らず、悪性リンパ腫は症状が進行するとB症状といわれる症状が起こります。以下の3つの症状をB症状といいます。

  • 発熱
  • 体重減少
  • 寝汗(盗汗)

扁桃悪性リンパ腫はこのように、おもに喉の症状が出現します。そのため、扁桃悪性リンパ腫を疑う症状が出た場合は、患者さんは耳鼻咽喉科を受診することが一般的です。症状が気になる場合は耳鼻咽喉科を受診し、医師の診察を受けましょう。

扁桃悪性リンパ腫の検査・診断

扁桃悪性リンパ腫が疑われた場合は、以下のような検査を行い確定診断します。

診察

口を開けて扁桃の見た目を確認します。
一般的には、左右どちらか一方の扁桃に腫瘤を形成します。潰瘍を作ったり、白苔(はくたい。白くべたついたもの)が付着している場合もあります。
両方の扁桃が腫れている場合、扁桃肥大などほかの疾患と区別がつかない場合もあります。

生検

扁桃悪性リンパ腫が疑われた場合、腫大している扁桃を生検し、病理診断が行われます。病理診断では顕微鏡で細胞の形態や増殖パターンを観察したり、免疫染色でどのような特徴の細胞が増殖しているかを確認します。細胞表面マーカーという検査で、細胞の特徴を確認する検査も行われます。1回の生検でわからない場合、何度か繰り返し生検を行うことでようやく診断がつく場合もあります。
悪性リンパ腫と診断するだけでなく、悪性リンパ腫のどの組織型であるかを丁寧に診断します。この組織型で治療方針が異なるため、組織型の確認がたいへん重要な検査です。

血液検査

肝機能や腎機能を確認し、臓器へのリンパ腫浸潤の有無や治療が可能な全身状態であるかを確認します。また、悪性リンパ腫の予後因子の一つであるLDHや白血球数、病気の勢いを反映する可溶性IL-2レセプター(sIL-2R)などを測定します。

全身検査

全身への病気の広がりを調べるためCT、エコー、MRI、PET CTなどで全身を検査し、病変の詳細な部位や広がりを確認します。 PET CTは、がん細胞が正常の細胞に比べてブドウ糖を多く取り込むことを利用する検査です。放射性薬剤を体内に投与し、その薬剤が腫瘍に取り込まれているのを特殊な方法で撮影する検査です。これによって詳細な病変部位の確認をし、悪性リンパ腫の病期分類が行われます。

病期はAnn Arbor分類に基づき以下のⅠ~Ⅳ期に分類されます。

Ⅰ期
がんが1か所のリンパ節にとどまっている
Ⅱ期
がんが2か所以上のリンパ節にあるが、横隔膜を超えていない
III期
がんが横隔膜を超えて広がっている
Ⅳ期
がんがリンパ組織以外の臓器や組織に存在する

Ⅰ、Ⅱ期を限局期、Ⅲ、Ⅳ期を進行期といいます。

扁桃悪性リンパ腫の治療

扁桃悪性リンパ腫の治療は、ほかの悪性リンパ腫に準じて治療が行われます。

限局期(Ⅰ、Ⅱ期)

扁桃か、その周囲に限局された病変の場合は、化学療法放射線照射を組み合わせて治療が行われます。化学療法は、複数の抗がん剤を組み合わせた治療が行われます。病理検査でわかった悪性リンパ腫の組織型に応じて、適切な抗がん剤を組み合わせます。
放射線照射は、腫瘍の広がりが広範でない場合に行われます。必要な放射線量を複数回に分け、何日かかけて治療が行われます。
特に咽頭部では放射線照射によって、唾液減少による口渇感や咽頭炎が起こる場合があります。そのため、うがいや歯磨きなどの口腔衛生をしっかり行いながら治療がなされます。

進行期(Ⅲ、Ⅳ期)

進行期の場合は病変が広範になるため、化学療法がメインで行われます。複数の抗がん剤を組み合わせ、複数コースの投与がされます。
扁桃悪性リンパ腫で最も多いびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫であれば、R-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、アドリアシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン併用療法)が標準治療として施行されます。近年では、ポラツズマブベドチンという薬が使用されるようになっており、Pola-R-CHP療法(ポラツズマブベドチン、リツキシマブ、シクロホスファミド、アドリアシン、プレドニゾロン併用療法)が選択される場合もあります。

再発、難治の場合の二次治療では、初回の治療と異なる抗がん剤の組み合わせで治療が行われます。場合によっては、造血幹細胞移植や、CAR-T(カーティー)療法が行われる場合もあります。これらは、病気や患者さんの状態にあわせて治療が行われます。
CAR-T療法とは、患者さん自身のT細胞(白血球の一種)に遺伝子改変を行い、患者さん自身の免疫システムを利用してがんを攻撃する新しい治療法です。

扁桃悪性リンパ腫になりやすい人・予防の方法

扁桃悪性リンパ腫の原因は不明であることが多いですが、HIV、EBウイルスが一因となっている場合が指摘されています。特にHIVは、扁桃悪性リンパ腫に限らず、悪性リンパ腫の一種である非ホジキンリンパ腫の頻度が約200倍高くなることが知られています。

扁桃悪性リンパ腫の原因は不明である場合が多いため、予防の方法はありません。そのため、咽頭の違和感や痛みといった自覚症状が出現した場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診し医師の診察を受けるようにしましょう。

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