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鼻腔異物
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

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慶應義塾大学医学部卒。医師、医学博士。専門は耳科、聴覚。大学病院および地域の基幹病院で耳鼻咽喉科医として15年以上勤務。2年間米国で基礎研究に従事の経験あり。耳鼻咽喉科一般の臨床に従事し、専門の耳科のみならず広く鼻科、喉頭、および頭頸部腫瘍疾患の診療を行っている。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。日本耳科学会、日本聴覚医学会、日本耳鼻咽喉科臨床学会の各種会員。補聴器適合判定医、補聴器相談医。

鼻腔異物の概要

鼻の穴の中に異物がある状態のことを、鼻腔異物といいます。
鼻腔異物の多くが小児で起こります。特に5歳くらいまでの小さい子どもにみられ、2歳から3歳にかけてがピークです。鼻腔に入ってしまう異物は、ビーズ、おもちゃの部品、BB弾、豆類、紙など多岐にわたります。鼻腔異物は多くのケースで、子どもが鼻にものを入れて遊んでいて、取れなくなってしまうことにより起こります。

鼻腔に異物が入ってから時間が経過すると、主に片鼻から悪臭のある鼻汁などがみられます。また、ボタン電池、磁石などが鼻腔に入ると、鼻の粘膜を損傷する恐れがあり大変危険です。

鼻の中に異物を入れているのを家族が見ていた場合、子どもの様子がおかしい場合はすぐに受診できますが、家族が見ていないときに鼻に異物を入れて、気付かれないこともあります。家族が鼻腔に異物があることに気付かないまま、鼻の症状で受診し鼻腔異物が発見されることもあります。

子どもが鼻にものを入れてしまったとき、何とか異物を取り出そうと焦ってしまうかもしれません。しかし、自分でピンセットなどで除去しようとするのは避けましょう
異物が鼻の奥に入り、のどの方に落ちてしまうと、気管に異物が詰まる恐れがあり危険なため、すぐに病院に受診することが大切です。

鼻腔異物の原因

鼻腔異物の多くは、10歳未満の小児で起こります。小さな子どもの場合は、好奇心により入れてしまうことが多く、小学生くらいの子どもでも、ふざけて鼻にものを入れて取れなくなってしまうことがあります。成人でみられる鼻腔異物は、鼻出血や鼻の治療の際に入れた綿球の残留などです。

鼻の穴に入るサイズであれば、いろいろなものが鼻腔異物の原因となり得ます。報告されている鼻腔異物として、おもちゃの部品、BB弾、豆類、ティッシュペーパー、スポンジなどがあります。形状は丸いものの割合が多いものの、棒状のもの、紙や布の平べったいものの報告もあります。
直径12mmのパチンコ玉が鼻の中に入ってしまうケースもあり、通常の鼻の穴の大きさよりだいぶ大きいものが入ることに注意が必要です。

鼻腔異物の原因となりうるもののなかでも、ボタン電池やネオジム磁石は特に危険性が高いです。
ボタン電池は、鼻腔組織と接触した電池が通電し、電気分解により電池のマイナス側にアルカリ性の液体が作られ組織が損傷され粘膜損傷や鼻中隔穿孔(鼻の右側と左側をわける壁に穴があくこと)の原因となります。
強力な磁力をもつネオジム磁石は、2個以上鼻腔に入り粘膜を挟んでしまった場合、鼻の中で磁石が接着し鼻中隔穿孔を起こすことがあります。
また、水を含んで大きくなる高吸収性樹脂ボールも、鼻の中の水分により膨張し窒息のリスクがあります。

鼻腔異物の前兆や初期症状について

鼻腔には、上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介の3つの突起があります。鼻腔異物の多くは、下鼻甲介の前方、鼻の入口のあたりに入ります。

鼻腔に異物が入って、違和感があれば子どもが親に教えてくれることもあり、子どもが鼻を気にする様子で親が気付くこともあります。
鼻腔に異物が入っても、無症状のこともあり、子どもが鼻腔に異物を入れたのを家族が見ていないと、気付かないことがあります。

鼻腔の異物が除去されないままでいると、鼻詰まり、悪臭のする鼻水、鼻の違和感がみられます。異物が片方の鼻に入っている場合は、多くの場合症状は片方の鼻のみに現れます。さらに症状が進むと、副鼻腔炎のような頭痛、発熱がみられることがあります。
鼻腔に異物が長期間留まると、異物に炭酸カルシウムなどが沈着し、鼻石ができる可能性があります。

合併症には、異物の誤嚥(異物が気管に入ること)、鼻中隔穿孔、鼻出血、鼻粘膜損傷などがあります。異物の誤嚥は、鼻腔異物がのどに落ちることにより起こり、気管を異物が塞ぐと窒息の恐れがあります。鼻中隔穿孔は、鼻の左右を仕切っている壁の役割をはたす鼻中隔に穴が空いてしまうことで、ボタン電池や複数の磁石により起こります。

鼻腔の異物は、鼻の中を見て、耳鼻咽喉科治療で使用される器具で除去する必要があるため、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

鼻腔異物の検査・診断

鼻腔異物は、すぐに気付いて受診する患者さんもいれば、時間が経過してから受診する患者さんもいます。また、鼻腔異物が入ったときに家族が見ておらず、鼻の症状が出て受診はしたものの鼻腔異物があるという認識がない場合もあります。

患者さんの家族からの申し出がなかった場合も、片側の鼻で悪臭のする膿のような鼻汁、鼻をかんでも解消されない鼻詰まりなどの症状があれば鼻腔異物の可能性を考えることがあります

鼻腔異物は、主に患者さんや患者さん家族からの経過の聞き取りと、鼻鏡(鼻の中をみる器具)を用いた鼻腔内異物の確認により診断します。

鼻腔異物は、異物の内容や性状によって合併症のリスクや除去する道具の形状が変わることがあります。また、異物が鼻腔にとどまる期間が長いと、さまざまな症状が出てきます。
診察の際には、異物の種類・性状と、いつ異物が入ったかを確認します。

鼻腔に入っている異物はひとつだけとは限りません。異物が入ったときの経緯を聴取し、必要な場合は内視鏡、レントゲンやCTなどで確認します。

鼻腔異物の治療

鼻腔異物の治療は、異物の除去に主眼を置き行われます。

異物を除去する際には、患者さんが動かないように固定することが大切です。子どもが恐怖感や痛みに我慢できず体を動かしてしまうような場合は、全身麻酔をして異物を除去することもあります。

異物がやわらかく、鼻の前方にある場合は、直視下での除去を行います。先端がフックのような形をした器具を異物と粘膜の間に入れてかき出すように除去したり、ピンセットや鉗子という道具で異物を挟んで除去したりします。気管に異物が入ってしまうと、全身麻酔での手術が必要になるため、のどの奥に異物が落ちないよう注意して除去を行います。

異物が鉗子でつかみにくい形・性状で、鼻腔が完全に詰まっている場合に取れる方法として、鼻腔内に送り込んだ空気で異物を押し出す陽圧法があります。酸素管を鼻に入れ、酸素圧で異物を取り出すBeamsley Blaster法、異物が入っていない側の鼻の穴を閉じて親が口から息を吹き入れる方法(通称 mother’s kiss)などが代表的なものです。
ほかには、サクションカテーテルを用いて異物を吸着・吸引して除去する方法、バルーンカテーテルを異物の奥に挿入して除去する方法などがとられます。

ボタン電池を鼻に入れてしまった場合は、鼻粘膜損傷や鼻中隔穿孔リスクがあるため、速やかに除去します。除去後に粘膜損傷について経過観察が必要な場合もあります。

鼻腔異物になりやすい人・予防の方法

鼻腔異物は子どもで多く発生し、特に年齢の小さい5歳くらいまでの子どもがなりやすい傾向があります。
成人では、認知症の方、精神疾患のある方でも発生例があります。

子どもが鼻腔に異物を入れてしまう状況を避けるために、家族が対策をすることが大切です。年齢の小さい子どもが鼻腔に異物を入れてしまうのは、主に好奇心によるものです。子どもの手の届く場所に鼻腔異物の原因になりやすいものを置かないようにしましょう。
細かいパーツがあるおもちゃは、多くの場合対象年齢が設けられています。対象年齢に合ったおもちゃで遊ばせることで、細かい部品を手にとる機会が減り、鼻腔異物の発生リスクを減らすことができるでしょう。

また、子どもに鼻にものを入れてはいけないと教えることも必要です。鼻にものを入れると取れなくなってしまう可能性があること、鼻にものが入ってしまったら保護者に伝えることなどをあらかじめ話しておきましょう。

万一子どもが鼻腔に異物を入れてしまったら、鼻腔異物が奥に入ってしまったり、鼻の粘膜を傷つけてしまったりすることがあるため、ピンセットなどで無理に取るのは避けてください。鼻腔に異物が入っていることを確認した場合、耳鼻咽喉科を受診しましょう。

鼻腔に入れてしまったものがわかっている場合は、受診の際に入れてしまったものと同じものを持参し医師に見せるようにしましょう。

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