外耳道損傷

監修医師：
小島 敬史（国立病院機構　栃木医療センター）

外耳道損傷の概要

外耳道損傷（がいじどうそんしょう）とは、耳の穴（外耳道）が何らかの原因で傷ついた状態を指します。
外耳道（がいじどう）は、耳介（じかい）と呼ばれる耳の外側部分から鼓膜（こまく）まで続く、3cmほどの細長い管状の構造をした器官です。外耳道は、外耳（耳介＋外耳道）の一部であり、音を効率的に鼓膜へと伝える重要な役割を担っています。また、外耳道には皮膚や耳あかがあり、細菌や異物の侵入を防ぐバリアの役割も果たしています。
しかし、外耳道が傷つくと、痛みや出血が起こるだけでなく、感染を引き起こすリスクが高まり、場合によっては聴力にも影響を及ぼすことがあります。

外耳道の解剖と構造

外耳道は大きく分けて軟骨部と骨部の2つの部分に分類されます。

軟骨部（なんこつぶ）

外耳道の入り口（外側1/3）付近は軟骨で支えられ、柔軟性があります。皮膚の下には耳垢腺（じこうせん）という分泌腺（ぶんぴつせん）があり、耳あかを生成します。耳垢は異物や細菌の侵入を防ぐ働きを持っています。外耳道には細かな毛が生えており、異物の侵入を防ぐバリアの役割を果たします。

骨部（こつぶ）

耳の奥（内側 2/3）に進むにつれ、骨に囲まれた部分になります。皮膚は大変薄く、下に骨が直接あるため、刺激に対して敏感で損傷しやすい構造です。この部分には耳垢腺がなく、耳掃除をすると傷つきやすいです。骨部には神経や血管が密集しており、強い痛みを感じやすいです。

外耳道の血管・神経分布

外耳道の皮膚はとても薄く、その下に神経や血管が密集しているため、少しの刺激でも強い痛みを感じます。特に、以下の神経が関与しています。

耳介側頭神経（じかいそくとうしんけい）

三叉神経（さんさしんけい）の枝であり、外耳道の前方と耳介の一部の感覚を司ります。

迷走神経（めいそうしんけい）

一部の方では外耳道を刺激すると咳反射が起こります（アーノルド反射）。

舌咽神経（ぜついんしんけい）

外耳道の奥の部分の感覚を担当します。

外耳道はこれらの神経が密接に関与しているため、軽微な傷や異物の刺激でも強い痛みを引き起こします。

外耳道の自己防御機能と損傷の関係

外耳道には異物や細菌の侵入を防ぐための自己防御機能が備わっています。

耳垢の役割

耳垢には抗菌作用があり、細菌や真菌（カビ）の増殖を抑えます。乾いた耳垢と湿った耳垢があり、人種や体質によって異なります。耳垢は外耳道の自然な運動によって外へ排出されるため、過度な耳掃除は不要です。

皮膚のバリア機能

外耳道の皮膚は薄いものの、適度な皮脂や耳垢により保護されてます。頻繁な耳掃除や刺激によりバリア機能が低下し、細菌感染のリスクが高まります。

湿度調整機能

外耳道はある程度の湿度を保つことで、乾燥や炎症を防いでいます。過度に乾燥すると皮膚がもろくなり、傷つきやすくなります。

このように、耳には自然の防御機構が備わっていますが、不適切な耳掃除や外部からの刺激により損傷しやすくなります。
また、外耳道には多数の毛細血管が分布しており、出血しやすく、感染のリスクが高いといえます。外耳道の血流は豊富であるため、適切な治療を行えば早く回復するものの、不適切な管理をすると炎症が広がりやすい点にも注意が必要です。

外耳道損傷の原因

外耳道が傷つく原因はさまざまですが、日常生活で起こりやすいものを挙げると、以下のようなものがあります。

耳掃除による損傷

耳かきや綿棒を使った耳掃除が原因で外耳道を傷つけることがよくあります。力を入れすぎたり、鋭利なもので掃除すると、皮膚が傷つき出血することがあります。また、耳掃除を頻繁にしすぎると、外耳道の皮膚が薄くなり傷つきやすくなります。

異物の侵入

小さな子どもが耳に小さなおもちゃやビーズを入れてしまうことがあります。また、昆虫が耳の中に入ることもあり、取り出そうとして無理に触ることで外耳道を傷つけることがあります。成人であっても、サイズの合わないイヤホンを長時間装着することにより外耳道損傷を起こすリスクがあります。

外傷（けが）

スポーツや転倒、事故などで耳を強く打った場合、外耳道が損傷することがあります。また、耳を強く引っ張られると外耳道の皮膚が裂けることもあります。

感染症による損傷

外耳炎（がいじえん）という外耳道の炎症が悪化すると、皮膚がただれて傷つくことがあります。特に、湿度の高い環境で細菌や真菌（カビ）が繁殖しやすい状態になると、感染が起こりやすくなります。特に免疫状態の悪い高齢者の方では、緑膿菌という強い細菌の感染によって骨が変形してしまうことがあります。

圧力の変化（気圧外傷）

飛行機の離着陸やダイビングの際に急激な気圧の変化が生じると、鼓膜や外耳道の血管にダメージを与え、損傷が発生することがあります。

外耳道損傷を疑う場合は、耳鼻科の受診をおすすめします。耳の異常を感じたら早めに受診しましょう。

外耳道損傷の前兆や初期症状について

外耳道が損傷すると、以下のような症状が現れます。放置すると慢性的な聴力障害をきたすことがあるため、以下のような症状がみられる場合は耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

痛み、耳の違和感

外耳道の皮膚は薄く、神経が多いため、少しの傷でも痛みを感じやすいです。耳掃除後や異物を入れた後に痛みや違和感がある場合は、損傷している可能性があります。

出血

耳掃除をした後に綿棒に血が付いている場合、外耳道が傷ついている証拠です。軽度の傷であれば自然に治癒しますが、出血が続く場合は放置すると感染を起こす可能性があります。

耳漏（じろう）

耳漏（じろう）とは、外耳道が感染した場合に発生することがある、黄色っぽい膿（うみ）を指します。耳漏が見られる場合は、外耳道損傷に外耳炎を併発している可能性が高いです。

かゆみや腫れ

傷が治る過程でかゆみを感じることがありますが、かきむしることによって悪化する可能性があるため注意が必要です。また、感染を伴うと腫れや熱感（ねっかん）を伴うこともあります。

聴力低下

損傷の程度によっては、一時的に聴力が低下することがあります。特に腫れが強い場合や感染を起こしている場合には、音の通り道が狭まったり塞がれることがあるため、聞こえづらくなることがあります。

外耳道損傷の検査・診断

外耳道損傷は、以下のような方法で診断されます。

問診と視診

「いつ、どのようにして損傷したのか」「どのような症状があるか」を聞いたり、耳の中を観察し診察を行います。

耳鏡検査

耳鏡（オトスコープ）を使って外耳道や鼓膜の状態を確認します。損傷の程度や感染の有無を評価するのに役立ちます。

細菌検査

耳だれが出ている場合や感染が疑われる場合には、細菌を調べる検査を行うことがあります。適切な抗生物質や抗真菌薬を選択するために重要です。

外耳道損傷の治療

外耳道損傷の治療は、程度や状態によって異なります。以下のような治療法があります。

軽度の損傷

清潔に保ち、耳をいじらないことで自然治癒を待ちます。刺激を避けるため、耳栓やイヤホンの使用を控えます。

感染を伴う場合

抗生物質の点耳薬を1日数回使用します。必要に応じて抗炎症薬を併用することがあります。

外科的処置

骨に至る深い傷や異物が取り除けない場合は、医師が適切な処置を行います。局所麻酔を使用して、異物を除去する場合があります。

外耳道損傷になりやすい人・予防の方法

外耳道損傷を起こしやすい方と予防法には、以下のようなものがあります。

過度な耳掃除を行う方

綿棒や耳かきを深く入れず、耳掃除の頻度は週1回程度の軽い掃除にとどめるなど、耳掃除の適切な方法を身につける必要があります。

イヤホンやヘッドホンを長時間使用している方

耳が密閉された状態を避けるために、長時間のイヤホンやヘッドホンを使用する場合は、こまめに取り外して換気する必要があります。

外耳道を守るための習慣がない方

乾燥して掻きむしらないようにする、水泳後は耳の水分をしっかり拭き取るなど、外耳道を傷や感染から守る対策をとる必要があります。かゆみが強い場合などは医師と相談しながら適切なケアを行うようにしましょう。