

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
気管支肺異形成症の概要
気管支肺異形成症は、主に早産で生まれた新生児にみられる慢性的な肺の病気です。
生まれて間もない新生児は、肺がまだ十分に発達していない場合があります。その結果、新生児期に呼吸窮迫症候群という強い呼吸障害を起こし、人工呼吸器によるサポートや高濃度の酸素投与が必要となります。これらの治療は新生児の命を支えるうえで大切ですが、一方で未熟な肺に負担がかかり、気管支肺異形成症という状態が続くことがあります。
この病気になると、生後4週間(28日)を過ぎても酸素投与が欠かせないほど呼吸が不安定になり、長期にわたり人工呼吸器や在宅酸素療法などが必要になる可能性があります。新生児の肺は成長とともに機能を高めていく性質があるため、多くのケースでは成長にしたがって呼吸状態は落ち着いていきます。しかし、それまでは集中治療や継続的なフォローアップが必要となることが少なくありません。
気管支肺異形成症の原因
特に大きな要因は、早産などによる肺の未成熟です。通常、新生児の肺はお母さんのお腹の中でゆっくり成長し、出産までに十分な肺胞(酸素と二酸化炭素の交換を行う部位)が形成されます。しかし、在胎週数が短い段階で生まれてしまうと、肺胞や気道の発達が追いつかないまま呼吸を始めることになります。肺を膨らませるために不可欠なサーファクタント(肺表面活性物質)が不足し、呼吸が難しくなるため、生後直後から高濃度酸素投与や人工呼吸器を用いた治療を受けることが多いです。
さらに、肺が未成熟な段階で強い圧力(人工呼吸の陽圧など)や高濃度の酸素が加わると、繊細な肺胞や気管支に炎症や損傷が生じることがあります。こうした酸素や機械的刺激によるダメージ、あるいは肺の感染症などが重なり合って起こる結果として、気管支肺異形成症という慢性的な肺障害が残る場合があります。
気管支肺異形成症の前兆や初期症状について
この病気の特徴は、新生児期の呼吸障害が落ち着かずに長引くことです。例えば、生後しばらくしても人工呼吸器や酸素投与が手放せないほど呼吸が苦しい状態が続く、呼吸が速くて苦しそう(頻呼吸)、唇や皮膚が青紫色になる(チアノーゼ)などがあげられます。ゼーゼーと音を立てる喘鳴(ぜんめい)や、鼻の孔を広げて呼吸する鼻翼呼吸、肋骨の間がへこむ陥没呼吸がみられることもあります。
これらの症状は、たいてい新生児集中治療室(NICU)で管理される段階から小児科・新生児科の医師たちが注意深く見守ります。退院後も酸素や薬を必要とする場合があり、新生児の呼吸状態に異変を感じたときは小児科を受診してください。
気管支肺異形成症の検査・診断
診断は、早産で生まれて人工呼吸管理や酸素吸入が必要だった新生児が、生後28日(4週間)を過ぎても酸素や呼吸器のサポートを要する状態が続くことを基準の一つとします。
胸部レントゲン検査では、肺全体にまだらな影や小さな嚢胞状の変化、線状の陰影などが確認される場合があります。ただし、すべての症例で同じような画像所見が出るわけではなく、あくまで臨床経過とあわせて総合的に判断されます。
さらに、類似の症状を示す先天性心疾患や肺高血圧症などを除外するために、心臓の超音波検査(心エコー)や血液検査などを行うことがあります。早産児は肺以外にもさまざまな問題を抱えやすいため、総合的な検査を経て気管支肺異形成症と診断するケースが多い傾向にあります。
気管支肺異形成症の治療
治療の中心は呼吸管理と肺への負担を減らすことに尽きます。症状の重さや新生児の状態に応じて、次のような治療が行われることがあります。
呼吸管理
- 人工呼吸器(気管挿管)で直接肺に空気を送り込む方法
- CPAP(シーパップ)と呼ばれる非侵襲的な鼻マスク型の装置で、持続的に気道へ圧力をかける方法
- 在宅酸素療法(退院後に自宅でも酸素濃縮器などを使い、酸素を吸入する方法)
いずれの方法も、必要な範囲で肺をサポートしつつ、新生児の負担をできるだけ軽くすることが目標です。新生児の体重や肺の状態をみながら少しずつ呼吸補助を減らし、最終的に自力で呼吸できるようサポートします。
薬物療法
利尿薬
肺にたまった余分な水分を減らし、呼吸を楽にするために使われることがあります。
気管支拡張薬
ネブライザーなどの吸入により気道を広げることで、呼吸をスムーズにする薬です。
ステロイド薬
肺の炎症を抑えるために投与される場合があります。ただし、投与量や時期には注意が必要とされています。
抗生物質
感染が疑われる場合に使用され、肺炎などの合併症から新生児を守る役割があります。
栄養管理
新生児の肺が回復していくには十分な栄養が欠かせません。早産児は体重が少ないため、ミルクを飲む力が弱いこともあります。経管栄養(チューブ)や静脈栄養を利用しながら、新生児の成長を促す工夫をします。
感染予防
早産児は免疫機能が未熟で、気管支肺異形成症の新生児は特に呼吸器感染症にかかりやすいようです。RSウイルスなどの重症化を予防するため、パリビズマブ注射が適用となることがあります。また、退院後は手洗いや周囲の禁煙なども含め、日常的な感染予防に気を配る必要があります。
気管支肺異形成症を完全に治す特効薬はなく、肺の成長を待ちながら症状を和らげるサポートを続けるのが基本です。軽症であれば生後数ヶ月程度で酸素吸入を卒業できる場合もありますが、重症の場合は退院後も在宅酸素療法を続けながら1歳前後までフォローアップが必要となることもあります。それでも、肺は成長に伴って少しずつ機能を高めていく可能性があるため、多くの新生児は時間の経過とともに呼吸状態が安定していきます。
気管支肺異形成症になりやすい人・予防の方法
気管支肺異形成症は、早産や低出生体重で生まれた新生児に起こりやすい傾向にあります。特に在胎週数が大幅に短い超早産児(例えば妊娠28週未満など)や、出生時に体重1,000グラム以下の極低出生体重児ではリスクが高いとされています。これらの新生児は肺が未熟なためにすぐ呼吸が難しくなり、どうしても人工呼吸器などを長期間使わざるを得ない場合があるからです。
予防のためには、まず妊娠をできるだけ正期産に近づけるようにすることが重要です。具体的には以下の点が大切です。
妊娠中の喫煙や飲酒の禁止
これらは早産や胎児発育不全のリスクを高める要因になります。周囲の家族にも喫煙を控えてもらい、受動喫煙の環境を作らないようにすることも大切です。
栄養バランスのとれた食事と十分な休息
体力を維持し、新生児の発育を促すためにも、妊婦さんは適切な体重管理と栄養管理を心がけます。
定期的な妊婦健診
産科の受診をこまめに行い、子宮頸管の長さや感染症のチェックなどを受けることで、早産の兆候を早めに見つけられることがあります。
必要に応じた医学的対応
切迫早産が疑われる場合には、医師の判断で入院治療やステロイド注射(胎児の肺成熟を促す)などが行われます。このステロイド投与で、生後すぐの呼吸管理を助けられる可能性があります。
もし早産を避けられなかった場合でも、新生児科医が人工呼吸管理やサーファクタントの投与などを適切に調整し、新生児の肺への負担をできるだけ軽くする対策を行います。医療技術の進歩によって救われる新生児は増えてきていますが、それでも在胎週数が早い新生児ほど気管支肺異形成症を発症するリスクが高い傾向にあります。そのため、妊娠期の管理と出生後の集中治療、そして退院後の小児科フォローアップを通じて、新生児の肺の成長を長い目で支えていくことが重要です。
関連する病気
- 慢性呼吸器疾患
- 肺高血圧症
- 呼吸器感染症
参考文献




