

監修医師:
吉川 博昭(医師)
目次 -INDEX-
ムンプス髄膜炎の概要
ムンプス髄膜炎とは、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の経過中に発症する可能性のある髄膜炎です。
おたふくかぜはムンプスウイルスが原因で発症します。通常は軽症の経過をたどりますが、合併症としてムンプス髄膜炎を発症することがあります。ムンプスウイルスは飛沫感染や接触感染で広がり、感染後に血液を介して髄膜に到達し炎症を引き起こします。
おたふくかぜを発症した人のうち、10〜100人に1人の割合で髄膜炎を発症するといわれています。その他の合併症としては睾丸炎や卵巣炎、難聴、膵炎などがあります。特に難聴は、ムンプスウイルスによる聴覚神経障害が原因とされており、一度発症すると回復が難しいことが特徴です。
ムンプス髄膜炎の症状は、おたふくかぜの経過中に現れます。主な症状は、発熱、頭痛、嘔吐が挙げられ、髄膜炎特有の髄膜刺激症状がみられることもあります。大人が発症すると、症状が重くなるといわれています。
診断には、症状の確認に加えて、髄液検査、血液検査、PCR検査が行われます。
ムンプス髄膜炎に特効薬はなく、治療は発熱や脱水に対する対症療法が中心です。後遺症として難聴がみられることがあり、回復後の聴力検査が推奨されます。重症化しやすい細菌性髄膜炎の可能性を疑う必要があり、入院管理を行うのが一般的です。
ムンプス髄膜炎の予防には、ムンプスワクチン(おたふくかぜワクチン)の接種が最も有効です。予防接種を受けることで発症や重症化のリスクを大幅に減らすことができます。おたふくかぜは、特に子どもに多く見られますが、ワクチン未接種の場合は大人でも発症する可能性があります。大人になって発症すると、重症化しやすく、髄膜炎をはじめとする合併症のリスクが高まるため注意が必要です。
特に、学校や保育施設での集団感染を防ぐため、ワクチン接種の重要性が指摘されています。
ムンプス髄膜炎の原因
ムンプス髄膜炎は、おたふくかぜを引き起こすムンプスウイルスへの感染が原因です。このウイルスは、感染者の唾液を通じて人から人へと広がります。たとえば、感染者がくしゃみや咳をした際に放出された飛沫を吸い込んだり、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れたりすることで感染が成立します。
ムンプスウイルスの潜伏期間は一般的に2〜3週間とされており、おたふくかぜの症状が現れた後に髄膜炎を発症することが多いです。しかし、耳下腺の腫れがほとんど目立たないケースもあり、必ずしも典型的な症状を伴うわけではないため、注意が必要です。
ウイルスが体内に侵入すると、血液を介して全身に広がり、髄膜に到達して炎症を引き起こします。おたふくかぜにかかった人のうち10〜100人に1人の割合で発症すると考えられています。また、その他の合併症には、睾丸炎、卵巣炎、難聴、膵炎などが報告されています。
ムンプス髄膜炎の前兆や初期症状について
ムンプスウイルスに感染すると、2〜3週間の潜伏期間を経て、唾液腺の腫れや圧痛、嚥下時の痛み、発熱などの症状が現れることが一般的です。ただし、一部の感染者には症状が出ない「不顕性感染」の状態となることもあります。おたふくかぜ自体は軽症で済むことが多く、通常1〜2週間で自然に回復します。
ムンプス髄膜炎はおたふくかぜの経過中に発症し、発熱、頭痛、嘔吐などの症状が現れます。
発熱は38〜40度の高熱であり、およそ5日間続きます。頭痛はおでこや眼の奥に痛みを感じることが多く、場合によっては光がまぶしく感じる「羞明」といった症状が現れることもあります。
さらに、首のこわばりや、仰向けに寝た状態で足を曲げ伸ばししようとすると抵抗や痛みを感じる「ケルニッヒ徴候」など、髄膜炎特有の症状が出ることもあります。
乳幼児の場合には、発熱に加えて、不機嫌になる、抱っこを嫌がる、長時間眠り続ける、ちょっとしたことにイライラするなどの症状がみられることもあります。特に小さな子どもは言葉で症状を伝えにくいため、保護者が普段と違う様子に気づくことが重要です。
ムンプス髄膜炎の検査・診断
ムンプス髄膜炎の診断をするには、まず患者さんの症状やこれまでの病歴を詳しく確認します。
特に、髄膜炎を引き起こす他の細菌やウイルスとの鑑別を行う必要があります。おたふくかぜの既往や耳下腺の腫れの有無が、ムンプス髄膜炎を疑う手がかりとなります。また保育園や幼稚園、学校などでの流行状況や、ムンプスワクチンの接種歴も診断の参考にします。
確定診断には、髄液検査や血液検査、PCR検査を組み合わせて行います。
髄液検査
腰の部分に針を刺して髄液を採取し、細菌培養やウイルス検査を行い、感染の原因が細菌によるものなのかウイルスによるものなのかを特定します。
血液検査
血液検査では、血液中の炎症の程度を確認します。
PCR検査
PCR検査は、ムンプスウイルスの遺伝子を検出することで、ウイルスによる感染を特定する検査です。髄液や唾液から検査でき、高い精度で診断が可能です。短時間で結果が得られるため、迅速な診断に役立ちます。
ムンプス髄膜炎の治療
ムンプスウイルスに対する特効薬はないため、治療は安静を保ち、症状を和らげることを目的とした対症療法が中心となります。
十分に休息をとりながら、体の回復を待つことが基本となります。
高熱が出ている場合には解熱剤を使用し、頭痛や体の痛みには鎮痛剤を適宜用います。嘔吐や食欲不振が強く、水分補給が難しい場合には、点滴を行い脱水を予防します。
髄膜炎の中には、細菌性によって引き起こされる重症例もあるため、一般的には入院して慎重に経過を観察することが推奨されます。
さらに発生頻度は低いですが、後遺症として重度の難聴を発症することがあるため、回復後も聴力検査を受けることが非常に重要です。
ムンプス髄膜炎は幼少期に発症することが多いため、自覚症状を訴えにくく、症状に気づかれにくいため、保護者や医療機関による注意深い観察が求められます。
ムンプス髄膜炎になりやすい人・予防の方法
ムンプス髄膜炎は、免疫が低下している人やムンプスワクチンを接種していない人に発症しやすいとされています。
予防のためには、ムンプスワクチンの接種が最も有効です。日本では、任意接種となっていますが、ワクチンを接種することでおたふくかぜの発症リスクを大幅に減らすことができます。また感染したとしても、ワクチンを接種していた場合には、症状を軽くしたり、おたふくかぜの合併症の発症率を下げる効果があることがわかっています。
おたふくかぜは保育園や幼稚園、小学校など集団生活の場で流行しやすいため、入園・入学前のワクチン接種が推奨されます。
十分な効果を得るために2回の接種が推奨されており、1回目は1歳になったら早めに、2回目は小学校入学前の1年の間に受けるのが理想的です。
また、大人になってからおたふくかぜにかかると重症化しやすいため、過去に感染したかどうかわからない場合は、抗体検査を受けることをおすすめします。もし抗体が十分でない場合は、ワクチン接種を検討しましょう。
ワクチン接種とあわせて、日頃から感染予防を心がけることも大切です。外出後や食事前の手洗いとうがいを徹底するようにしましょう。また流行時期にはマスク着用や人混みを避けることも大事です。
関連する病気
- 難聴
- 睾丸炎
- 卵巣炎
- 膵炎
- 細菌性髄膜炎
参考文献