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肺外結核
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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肺外結核の概要

結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による感染症であり、主に肺に感染しますが、血液やリンパ液を介して肺以外の部位にも広がることがあります。これを肺外結核と呼び、全結核症例の約10〜20%を占めます。肺外結核の発症部位は多岐にわたり、リンパ節、骨、関節、腎臓、中枢神経系(脳や脊髄)、消化管、皮膚、眼などに感染することがあります。発症部位によって症状が異なるため、診断が遅れることもあります。特に免疫力が低下している方や高齢者では、症状が進行しやすいため、早期診断と適切な治療が求められます。

近年、結核の診断や治療は進歩しており、多くの患者さんが適切な医療を受けられるようになっています。しかし、肺外結核はその発症部位ごとに異なる症状を示すため、見逃されやすい病態です。長期間続く不調がある場合は、医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。

肺外結核の原因

肺外結核は、結核菌の感染によって発症します。結核菌は主に飛沫感染によって人から人へ伝播し、感染後も免疫系の働きによって長期間潜伏することがあります。免疫が十分に機能している間は発症しませんが、免疫力が低下すると菌が活動を再開し、肺外結核として発症することがあります。

発症の要因として、以下のものが挙げられます。

  • 免疫力の低下
    糖尿病、がん、HIV感染、ステロイドや免疫抑制剤の使用、高齢などが免疫の低下を引き起こします。
  • 栄養不良
    長期間の栄養不足によって免疫機能が低下し、結核の発症リスクが高まります。
  • 過去の結核感染
    一度感染したことがある方は、再活性化によって肺外結核を発症することがあります。
  • 生活環境の影響
    結核の発生率が高い地域に住んでいる場合や、密閉空間での長時間の接触が多い環境では、感染リスクが増加します。
  • 慢性的なストレス
    持続的なストレスが免疫機能を低下させ、感染症にかかりやすくなります。

発症部位に応じて、リンパ節結核、骨結核、腎結核、結核性髄膜炎などの病態が現れます。症状が長期間続く場合は、結核の可能性を考慮し、適切な検査を受けることが大切です。

肺外結核の前兆や初期症状について

肺外結核の症状は発症部位によって異なりますが、以下のようなものがみられます。

  • リンパ節結核
    首のリンパ節が腫れ、痛みを伴うことがありますが、初期には無痛の場合もあります。
  • 骨・関節結核
    脊椎や関節に感染すると、慢性的な痛みや腫れを生じ、進行すると骨の変形を伴うことがあります。
  • 腎結核
    血尿や頻尿、排尿時の違和感がみられますが、初期には自覚症状がほとんどないことが多いです。
  • 結核性髄膜炎
    頭痛、発熱、吐き気、意識障害などが現れ、進行すると命に関わる可能性があります。
  • 腸結核
    慢性的な腹痛、下痢、体重減少、便通異常などがみられることがあります。

これらの症状はほかの疾患と似ているため、結核と診断されるまでに時間がかかることがあります。特に、症状が数週間以上続く場合は、結核の可能性も考慮して医療機関を受診することが望ましいです。総合内科結核専門の感染症内科を受診しましょう。

肺外結核の検査・診断

肺外結核の診断には、症状の確認に加え、複数の検査が行われます。早期発見のために、正確な検査が重要です。主な検査方法は以下の通りです。

画像検査(X線・CT・MRI)

結核菌が肺外の臓器に感染した場合、その病変を確認するために行われます。特に、CTやMRIは詳細な病変の把握に役立ちます。

生検

結核の疑いがある病変部の組織を採取し、顕微鏡で確認する方法です。特にリンパ節結核や骨結核の診断に有効です。

培養検査

感染が疑われる部位から採取した組織や体液を培養し、結核菌が存在するかを確認します。結果が出るまでに時間がかかることが難点です。

PCR検査

結核菌の遺伝子を増幅し、特定する方法です。短時間で高い精度の結果を得られますが、菌が死んでいても陽性になる可能性があるため、ほかの検査と併用されます。

ツベルクリン反応検査

皮膚に結核菌由来の成分を注射し、48〜72時間後の腫れ具合を測定することで、過去の感染歴を調べる方法です。ただし、BCG接種の影響を受けることがあります。

インターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)

血液検査を用いて、結核菌に対する免疫反応を確認します。ツベルクリン反応検査よりも特異性が高く、BCG接種の影響を受けません。

これらの検査を適切に組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。特に肺外結核は発症部位によって症状が異なるため、複数の検査を実施し、慎重に診断を進めることが重要です。

肺外結核の治療

肺外結核の治療には、主に抗結核薬による薬物療法が用いられます。治療の目的は、結核菌を完全に排除し、病状の進行を防ぐことです。標準的な治療法では、リファンピシンイソニアジドピラジナミドエタンブトールの4剤併用療法が用いられます。
治療期間は通常6〜9ヶ月ですが、症状が重い場合や耐性菌が疑われる場合は、12ヶ月以上の長期治療が必要になることもあります。薬の服用を途中でやめると、耐性菌が生じる可能性があるため、医師の指示に従い継続することが重要です。

抗結核薬には副作用があるため、定期的な血液検査や肝機能検査を行いながら治療を進めます。特に、イソニアジドやリファンピシンは肝障害を引き起こすことがあるため、注意が必要です。

また、症状が進行して臓器障害がある場合は、外科的治療が検討されることもあります。例えば、結核性脊椎炎(ポット病)では、手術による除圧や固定が必要になる場合があります。

肺外結核になりやすい人・予防の方法

なりやすい人

肺外結核は、免疫力が低下している方や基礎疾患がある方に発症しやすいです。特に、高齢者、糖尿病患者さん、HIV感染者さん、がん患者さん、腎不全患者さんなどはリスクが高くなります。また、結核の発生率が高い地域に住んでいる場合や、感染者との長期間の接触がある場合も発症リスクが上昇します。

予防の方法

  • BCGワクチンの接種:小児期のBCGワクチン接種は、結核の重症化を防ぐ効果があります
  • 適切な感染対策:結核患者さんと接触する際には、マスクの着用や換気の徹底が重要です
  • 栄養管理と生活習慣の改善:バランスのよい食事や十分な睡眠を心がけ、免疫力を維持することが大切です
  • 早期診断と治療:症状が出た場合には、速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です

これらの予防策を実践することで、肺外結核の発症リスクを低減することができます。

関連する病気

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