

監修医師:
高宮 新之介(医師)
目次 -INDEX-
肺アミロイドーシスの概要
肺アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる異常なタンパク質が肺の組織に沈着し、呼吸機能を徐々に障害する病気です。アミロイドは本来、体内で合成・分解されるはずのタンパク質が誤って折りたたまれ、不溶性の線維状物質に変わってしまったものを指します。肺にとどまる場合を「局所性アミロイドーシス」、全身の複数の臓器(心臓や腎臓など)に広がる場合を「全身性アミロイドーシス」と呼び、肺アミロイドーシスはそのいずれかの形で発症する可能性があります。
アミロイド沈着の型としては、大きく「結節型」「気管支型」「びまん型」に分類されることが多いです。結節型は肺内にしこり状の病変が散在し、びまん型では肺胞壁などに広範囲に沈着が認められ、気管支型では気道が狭くなるため血痰や呼吸苦がみられる場合があります。いずれの型でも、沈着が進むと肺の柔軟性が損なわれ、呼吸が苦しくなる原因となります。ただし、この病気は稀で診断が難しく、無症状のまま健康診断やほかの病気の検査で偶然見つかるケースもしばしば報告されています。
肺アミロイドーシスは単独で発症する場合もあれば、全身性アミロイドーシスの部分症状として認められることもあります。全身性の場合、心臓や腎臓、消化管や神経など複数の臓器にアミロイドが沈着し、多彩な症状があらわれることが特徴です。さらに、原因となるアミロイドタンパク質のタイプ(AL、AA、ATTRなど)によって発症の背景が異なり、治療方針も変わってきます。そのため、肺アミロイドーシスと確定診断された際には、どのようなタイプのアミロイドが沈着しているのかを明らかにすることが重要です。
肺アミロイドーシスの原因
肺アミロイドーシスの原因は、作られるアミロイド(前駆タンパク質)の種類によって異なります。代表的なものは次のとおりです。
ALアミロイドーシス
骨髄中の形質細胞が、免疫グロブリンの軽鎖(λやκ)を過剰に産生して起こります。多発性骨髄腫が関係することもあります。
AAアミロイドーシス
リウマチなど慢性的な炎症を背景に、SAA(血清アミロイドA)というタンパク質が変質して生じます。
ATTRアミロイドーシス
トランスサイレチン(TTR)の構造が不安定になり、アミロイド化します。家族性(遺伝性)と、加齢によるもの(野生型)が知られています。
透析アミロイドーシス
長期間の透析でβ2ミクログロブリンが蓄積し、アミロイドとなるタイプです。
肺アミロイドーシスの前兆や初期症状について
肺アミロイドーシスの初期段階では、特徴的な前兆は乏しいのが現状です。とくに肺局所だけにアミロイドが沈着している場合、ある程度病変が進行するまで症状が表に出ないことも少なくありません。
長引く咳(せき)
乾いた咳が数ヶ月以上続く、あるいは痰に血が混じる(血痰・喀血)ことがある場合は注意が必要です。気管支型の場合、アミロイドが気道を圧迫し、咳反射を誘発しやすくなります。
息切れ・呼吸困難
階段や坂道を上るなどの日常的な動作で息苦しさを自覚するようになることがあります。進行すると、安静時にも息切れが続き、慢性的な呼吸不全を伴うリスクがあります。
胸部不快感や軽い胸痛
肺の表面や胸膜近くにアミロイドの結節が形成されると、ときに胸の圧迫感や痛みを訴える方もいます。ただし、頻度は高くありません。
ほかの臓器障害に伴う症状
全身性アミロイドーシスとして肺に沈着している場合は、腎臓の機能低下によるむくみ、心臓への沈着による心不全や不整脈、末梢神経障害によるしびれなど、全身的な症状が先行していることもあります。
呼吸器内科・呼吸器外科への受診が推奨されます。
肺アミロイドーシスの検査・診断
画像検査(X線・CT)
胸部X線写真やCTスキャンを撮影し、肺内に結節、斑状陰影、気管支狭窄、あるいはびまん性の浸潤影があるかを確認します。結節型アミロイドーシスでは、肺に数mm~数cm程度の円形状の病変が散在しており、健康診断で偶然見つかるケースも珍しくありません。気管支型であれば、気管支壁が肥厚している像が確認できることがあります。
気管支鏡検査・経皮的生検
病変が気管支や肺野にある場合、組織を採取して直接アミロイドを証明することが欠かせません。気管支鏡を使って気道内視を行い、疑わしい部位から鉗子でごく少量の組織を採取する「気管支生検」や、肺の表面近くに病変がある場合には、皮膚表面から針を刺して組織を得る「CTガイド下経皮的生検」などが行われます。
病理学的検査
採取した組織をコンゴーレッド染色という特殊な染色法で処理し、偏光顕微鏡で観察したときにアミロイド特有の緑色の偏光を示せば、アミロイドーシスと確定診断されます。さらに、免疫組織化学染色などでどの種類のタンパク質がアミロイドを形成しているかを判別します。
血液検査・尿検査
多発性骨髄腫に関連するAL型アミロイドーシスを疑う場合は、免疫グロブリン軽鎖の測定(フリーライトチェーンなど)を行います。AA型であればSAAの値が高いこと、ATTRの場合はトランスサイレチン遺伝子異常の有無を探る検査を行うことがあります。腎機能障害や心機能障害の有無を同時にチェックするため、尿検査やBNPなどの血液検査も重要です。
骨髄検査・遺伝子検査
AL型の背景に多発性骨髄腫があるかどうかを確認するため、骨髄穿刺を行い形質細胞の増殖状態を見る場合があります。ATTRアミロイドーシスの家族性型を疑う場合は、遺伝学的検査によってトランスサイレチン遺伝子変異を調べることがあります。
肺アミロイドーシスの治療
肺アミロイドーシスの治療方針は、アミロイドのタイプ(AL、AA、ATTRなど)や病変の広がり具合、患者さんの全身状態によって異なります。アミロイドそのものを直接「溶かす」薬はまだ一般臨床で確立していませんが、原因となるタンパク質の過剰産生や誤った構造変化を抑える治療法が開発されています。以下は代表的な治療戦略です。
ALアミロイドーシス(免疫グロブリン軽鎖由来)
多発性骨髄腫に準じた化学療法を行い、異常増殖している形質細胞を抑制して軽鎖の過剰産生を止めることが重要です。近年はボルテゾミブなどのプロテアソーム阻害薬や、ダラツムマブというモノクローナル抗体製剤が使われるようになり、効果が期待されています。体力に余裕があり適応がある場合は、自家末梢血幹細胞移植を含む大量化学療法を検討することもあります。また、肺に限局した結節が症状を引き起こしている場合には、外科的に切除することで症状改善が見込まれるケースもあります。
AAアミロイドーシス(血清アミロイドA由来)
まずは関節リウマチなど慢性炎症の原因疾患を適切に治療し、炎症を抑えることでSAAの産生を減らす方針をとります。リウマチに対してはメトトレキサートや生物学的製剤(抗TNF製剤やIL-6受容体阻害薬など)が用いられ、炎症コントロールに成功すればアミロイド沈着の進行を抑えられる可能性があります。肺症状が強い場合は酸素療法など対症療法を並行して行います。
ATTRアミロイドーシス(トランスサイレチン由来)
タファミジスという薬はトランスサイレチン四量体を安定化し、アミロイド化を抑制する作用があります。特に心アミロイドーシスでの心機能維持が期待されていますが、肺への沈着を直接改善する報告は限定的です。
透析アミロイドーシス(β2ミクログロブリン由来)
透析環境を見直し、高性能透析膜やオンラインHDFを導入することでβ2ミクログロブリンの除去率を向上させ、進行を抑えます。肺症状が著明な場合は呼吸不全に対する酸素吸入などの支持療法を行い、適応があれば腎移植によって根本的にβ2ミクログロブリンの蓄積を防ぐ道が考えられます。
肺アミロイドーシスになりやすい人・予防の方法
肺アミロイドーシスそのものを予防する手段は確立されていませんが、発症リスクを減らすには以下の点に留意することが役立ちます。
なりやすい人
- 多発性骨髄腫や形質細胞異常がある方
- 慢性炎症性疾患を抱える方
- 長期透析患者さん
- ATTRアミロイドーシスの家族歴がある方
- 高齢男性
予防の方法
- 基礎疾患の徹底管理: リウマチなどの慢性炎症や骨髄腫の治療を継続し、発症リスクを下げることが期待されます。
- 定期検診と早期発見: 健診や画像検査で肺に異常陰影が見つかれば、放置せず呼吸器の医師へ相談し、必要に応じて精密検査を受けましょう。
- 透析条件の見直し: 長年透析を受けている方は、担当医と透析方法について話し合い、高性能膜やオンラインHDFの導入を検討するとよいでしょう。
- 遺伝性ATTRの家族歴がある場合: 遺伝カウンセリングや、必要に応じて遺伝子検査を行い、早めの介入ができる体制を整えることが推奨されます。
関連する病気
- 軽鎖アミロイドーシス
- 家族性アミロイドポリニューロパチー
- 慢性気道疾患
- 多発性骨髄腫
- 家族性アミロイド心筋症
- 老年性アミロイドーシス
参考文献




