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先天性真珠腫
吉田 沙絵子

監修医師
吉田 沙絵子(医師)

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旭川医科大学医学部医学科 卒業。旭川医科大学病院、北見赤十字病院、JCHO北海道病院、河北総合病院、東京北医療センターなどで勤務後、武蔵浦和耳鼻咽喉科 院長となる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医。

先天性真珠腫の概要

先天性真珠腫(せんてんせいしんじゅしゅ)とは、「真珠腫性中耳炎」の一種であり、生まれつき鼓膜上皮(皮膚の一部)が中耳に入り込んでいる状態です。上皮の塊が、文字のとおり真珠様に白く見えることが、「真珠腫」という名前の由来です。
乳幼児期までに診断されることが多いですが、初期の症状が軽い場合は成長するまで気づかれないこともあります。

真珠腫性中耳炎の大半を占めるのは、生まれつきではなく、全年代で発症する可能性がある「後天性真珠腫」で、耳道の換気機能や滲出性中耳炎などが原因に関係すると考えられています。
一方、先天性真珠腫では、生まれつき真珠腫が形成されている状態ですが、その原因については詳しくわかっていません。

進行性の疾患であり、自然に治ることはありません。治療をおこなわないと真珠腫は徐々に耳の内側に向かって増殖し、周囲の骨を破壊していきます。その結果、耳の構造に影響を与え、難聴や耳の痛み、さらには重篤な感染症を引き起こす可能性があります。

先天性真珠腫の治療の基本は手術による摘出です。早期に発見できて適切に処置された場合は、良好な経過をたどることが多いことが知られています。
乳幼児にみられる先天性疾患であるため、早期診断のためには周囲の大人の注意が必要です。

先天性真珠腫の原因

先天性真珠腫は、胎生期に何らかの理由により表皮(皮膚の一番外側)となる細胞が、中耳に入り込むことで生じると考えられています。

詳細な発症メカニズムについては解明されていません。しかし、遺伝性の病気ではないことは明らかになっています。

初期の真珠腫は小さな病変ですが、細菌などに感染すると炎症を起こしながらさらに大きくなることがあり、やがて耳の内部の骨などの重要な構造物まで破壊するようになります。

先天性真珠腫の前兆や初期症状について

先天性真珠腫は、初期の段階では明確な症状がでないこともあり、健診や耳鼻科を受診した際に、偶然指摘されることも多いです。

真珠腫自体は悪性のものではありませんが、周囲の骨を破壊しながら増大していくことで、さまざまな症状があらわれ始めます。

比較的初期の症状としては、耳から膿の出る「耳だれ」や「耳の違和感・痛み」などがありますが、これらは中耳炎の初期症状とも似ているうえ、乳幼児の多くは自覚症状を訴えるのが難しいということから気づかれにくいケースがあります。

三半規管周辺の骨が破壊されると、めまいや耳鳴りなどの症状につながることがあります。さらに、頭痛や顔面神経麻痺など、より重い症状に進む可能性があるため、できるだけ早期の治療が重要です。

また、病変が拡大して耳小骨(音を伝えるために重要な小さな骨)を破壊し始めると、難聴を引き起こすこともあります。

先天性真珠腫の検査・診断

先天性真珠腫は、まず耳鏡検査で鼓膜の奥に白い塊が透けて見えることで疑われます。しかし、大きさや位置によっては確認が難しい場合もあります。

確定診断のためにはCT検査が必要です。真珠腫の範囲や骨破壊の有無、周りの器官への影響などを詳細に評価します。
あわせて、難聴の程度を評価するために、聴力検査も実施します。

細菌感染による炎症がひどい場合は、抗菌薬を選択するための細菌検査がおこなわれることもあります。

先天性真珠腫の治療

先天性真珠腫は自然治癒は見込めないため、基本的には手術による摘出が必要です。初期段階であれば大がかりな手術にはならず、術後の後遺症リスクなども少ないとされています。

また、炎症が起きている場合には、細菌検査をしたうえで、抗菌薬による治療も行います。

鼓室内の真珠腫を取り除くために「鼓室形成術(こしつけいせいじゅつ)」という手術がおこなわれます。先天性真珠腫は小児に多くみられるため、入院して全身麻酔下での手術となることが一般的です。
耳の後ろを切開し、特殊な顕微鏡を使って、耳の中の真珠腫を取り除きます。なお、近年では、内視鏡を用いた耳の手術を行う施設も増えてきています。

初期の小さな真珠腫であれば、取り除くだけで治療が完了することもあります。しかし、真珠腫によって耳小骨が破壊され、音の伝わりに影響がある場合には、患者自身の軟骨などを用いて修復を行います。

炎症が強い場合や再発のリスクを考慮する場合などは、手術を複数回に分けておこなうことがあります。術後は再発を予防するために、定期的な経過観察が必要です。

先天性真珠腫になりやすい人・予防の方法

先天性真珠腫は先天性の病気であり、乳幼児が発症している可能性がある病気です。
詳しい発症原因が明らかになっていないため、現時点では予防する方法はありません。

ただし、初期段階で発見し治療することができれば、治療後の経過も良好であることが知られています。
できるだけ早期発見を目指し、乳幼児には定期的な耳の健診を受けさせることが重要となります。

関連する病気

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  • 外耳道閉鎖症
  • 後天性真珠腫
  • 弛緩部型真珠腫
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  • 二次性真珠腫
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  • 先天性耳瘻孔(せんてんせいじろうこう)
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