

監修医師:
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)
目次 -INDEX-
耳せつ(限局性外耳道炎)の概要
「せつ(癤)」とは、皮膚に発生する細菌性感染の一種で、毛包(毛穴)とその周囲の組織に炎症が生じ、膿を伴う腫れが形成されることが特徴です。耳せつ(限局性外耳道炎)とは、耳介または外耳道にこの「せつ」が生じたものです。外耳道にある皮脂腺や毛嚢腺が細菌に感染して起こることが多いとされます。
本ページでは主に外耳道に発生する耳せつについて解説します。
*「耳介」とは、一般的に「耳たぶ」と呼ばれる部分のことです
*「外耳道」とは、耳から鼓膜まである管状の通路を指します
(「中耳」は鼓膜のさらに内側を指します)。
症状
耳せつ(限局性外耳道炎)の症状には、以下のようなものがあります。
- 耳の痛み
- 耳のかゆみ
- 耳だれ(耳漏)
- 灼熱感(耳がジンジンとやけるような感じがする)
- 耳閉感(耳が詰まったような、こもったような感じ)
- 外耳道の腫れ
診断
耳介にできた場合は視診で診断可能です。一方で外耳道にできた場合は、耳鼻咽喉科での診察が必要となります。
治療
治療には、抗生物質の投与のほか、難治性の場合は切開による排膿が行われることがあります。自然に自壊することもありますが、重症化するケースもあるので、症状が現れた場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。
耳せつ(限局性外耳道炎)の原因
耳せつの原因は大きく外的要因と内的要因の2つに分かれます。双方が関係するケースもあります。
外的要因
耳せつ(限局性外耳道炎)の主な原因として多いのは、刺激によって外耳道皮膚が傷つくことによる細菌や真菌(カビ)の感染です。外耳道皮膚は薄いため、ちょっとした刺激でも傷がつきやすいです。
具体的には以下のようなきっかけがあります。
過剰な耳かき
綿棒や耳掻きなどで強くこすりすぎると、皮膚に小さな傷ができ、感染しやすくなります。耳掃除は月1回程度までに減らしましょう。
補聴器やイヤホンの長時間使用
圧迫や摩擦によって皮膚に傷ができることで、感染を引き起こすことがあります。
水泳や入浴後(スイマーズイヤー)
プールやお風呂で水が入ることで外耳道内が湿り、細菌が繁殖しやすい環境になります。同じように、汗や湿気などで耳の中が蒸れても、感染のリスクが高まります。
内的要因
さらに、基礎疾患などで免疫力が低下している場合に、耳せつ(限局性外耳道炎)が起こりやすくなることがあります。この場合、まれに悪性外耳道炎と呼ばれる重篤な状態に進行することがあります。
具体的に外耳道炎になりやすい基礎疾患として、以下のようなものがあります。
アトピー性皮膚炎や湿疹
外耳道にも湿疹ができやすく、傷がつきやすいです。
接触性皮膚炎
シャンプーやヘアスプレー、化粧品などが外耳道に触れることで、炎症を起こします。
糖尿病
高血糖状態では免疫機能が低下するため、細菌や真菌が繁殖しやすくなります。
免疫抑制状態
がん、HIV、ステロイドの使用などにより免疫力が低下している場合は、耳介や外耳道でも感染しやすくなります。
耳せつ(限局性外耳道炎)の前兆や初期症状について
主な症状
主な症状は以下のとおりです。
耳の痛み
耳の穴の周りに、赤みや痛みが生じます。中耳炎との鑑別でも重要です。
耳だれ(耳漏)
耳の中から、白や黄色の液体が出てくることがあります。
触れると痛みが増強する
耳たぶを引っ張ったり、耳の入り口を押したりすると痛みが強くなるのも特徴です。
耳の詰まり感
耳の中が詰まる(音がこもる)感じがすることがあります。
聴力低下
腫れがひどくなると、聞こえが悪くなる場合もあります。
これらの症状が見られる場合は、診断の為にも早めに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。
中耳炎との違い
中耳炎は、鼓膜の内側にある「中耳」で起こる炎症です。
原因の違い
耳せつ(限局性外耳道炎)では外的な刺激によって傷ついた皮膚から感染することが多い一方で、中耳炎では、風邪や副鼻腔炎などから鼻や喉の細菌やウイルスが耳管(鼻の奥から中耳へ続く管)を通じて中耳に入ることで、感染を引き起こします。
症状の違い
外耳道炎では、耳の外側を触ったときに痛みが強くなるのが特徴です。 一方、中耳炎では、風邪の症状(鼻水や鼻づまり、喉の痛み)に続いて耳の痛みが現れることが多いです。
ただし、両者の症状は似ている部分も多く、自己判断が難しい場合があります。 正確な診断と適切な治療のために、早めに耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。
耳せつ(限局性外耳道炎)の病院探し
耳せつ(限局性外耳道炎)を疑う症状が見られる場合、耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。クリニックでも十分診断、治療が可能です。自己判断で市販薬を使用するのではなく、専門医の診察を受けることで、症状の悪化や合併症のリスクを避けることができます。
耳せつ(限局性外耳道炎)の検査・診断
耳せつ(限局性外耳道炎)では、主に以下の検査が行われます。
耳鏡検査
耳鏡という器具を使って外耳道や鼓膜の状態を直接観察します。これにより、炎症の程度や分泌物の有無、皮膚の状態などを確認します。耳鏡は内科ではおいていない病院も多く、耳鼻咽喉科を受診するのがよいでしょう。
細菌学的検査
外耳道から採取した分泌物(耳垂など)を培養し、感染の原因となっている細菌や真菌(カビ)を特定します。特に、治療になかなか反応しない場合や繰り返す場合、症状が重い場合には、原因菌の同定が重要です。
画像検査
症状が重く、悪性外耳道炎が疑われる場合には、CTやMRIなどの画像検査を行います。これにより、炎症が周囲の組織や骨に広がっていないかなどを評価します。
これらの検査結果を総合的に評価し、適切な診断と治療方針が決定されます。
耳せつ(限局性外耳道炎)の治療
外耳道炎の治療は、炎症の原因や重症度に応じて以下の方法が取られます。
外耳道の清掃・消毒
耳鼻咽喉科では、まず耳垢や炎症による分泌物を外耳道から取り除くため、外耳道の清掃・消毒を行います。
薬物療法
抗菌薬の投与
細菌感染が原因として疑われる場合、耳の中に直接投与する抗菌薬が使用されます。
抗真菌薬の使用
真菌(カビ)が原因の場合、抗真菌薬の投与が行われます。
鎮痛薬の処方
痛みが強い場合は、鎮痛薬による対症療法を併用します。
抗菌薬の点滴などを含む全身管理
糖尿病などの基礎疾患がある場合、その管理が重要です。特に、悪性外耳道炎が疑われるケースでは、抗菌薬の全身投与と糖尿病などの管理が推奨されています。
症状が現れた場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
耳せつ(限局性外耳道炎)になりやすい人・予防の方法
外耳道炎になりやすい方の特徴と予防方法についてお伝えします。
なりやすい人の特徴
耳かきの頻度が高い方
過度な耳掃除は外耳道の皮膚を傷つけ、炎症の原因となります。
イヤホンや補聴器を長時間使用する方
長時間の使用により外耳道内が蒸れ、細菌や真菌の繁殖を助長します。
アレルギーや皮膚炎を持つ方
これらの疾患があると、外耳道の皮膚が敏感になり、炎症を起こしやすくなります。
予防方法
耳掃除の頻度を控える
耳垢は自然に排出されるため、過度な耳掃除は必要ありません。過度な耳掃除は避け、月に1回程度、耳の入り口付近約1cm以内の範囲を優しく掃除する程度にとどめましょう。
イヤホンや補聴器の使用時間を制限する
長時間の使用を避け、適度な休憩を取り、使用後は清潔に保ちましょう。
耳に水が入った場合の対処
入浴や水泳の後は、耳に入った水分をしっかりと除去し、耳を乾燥させるよう心掛けてください。
耳を清潔に保つ
シャンプーやヘアスプレーが耳に入らないよう注意し、耳周辺の清潔を保ちましょう。
これらの対策を日常生活に取り入れることで、外耳道炎の予防に役立ちます。
関連する病気
- 外耳道炎
- 耳介蜂窩織炎
- 糖尿病性外耳道炎
参考文献




