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肺炎球菌感染症
林 良典

監修医師
林 良典(医師)

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名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科、 NTT東日本関東病院予防医学センター・総合診療科を経て現職。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年科専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、禁煙サポーター。
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眼科(角膜外来)

肺炎球菌感染症の概要

肺炎球菌感染症は、肺炎球菌Streptococcus pneumoniae)という細菌が引き起こすさまざまな感染症を指します。
この細菌は健康な人の喉や鼻に常在していることが多いですが、免疫力が低下すると感染症を引き起こします。肺炎や中耳炎、副鼻腔炎といった軽い症状から、髄膜炎や敗血症といった命に関わる重篤な症状まで、幅広い疾患を引き起こす可能性があります。

感染経路は主に飛沫感染と接触感染です。咳やくしゃみによる飛沫が他人に感染を広げるほか、汚染された物に触れることで感染することもあります。この感染症は特に乳幼児や高齢者、基礎疾患を持つ人に多く見られますが、健康な人でも過労やストレスなどで免疫力が低下している場合には感染のリスクが高まります。重症化を防ぐには、早期発見と適切な治療が重要です。また、日常生活での感染予防対策として手洗い、うがい、マスクの着用などの衛生習慣を徹底することが推奨されています。

肺炎球菌感染症の原因

肺炎球菌は、莢膜(きょうまく)という特殊なカプセル構造を持つグラム陽性菌です。この莢膜は細菌を外部の攻撃から守る役割を果たし、免疫システムから逃れる能力を高めています。そのため、感染力が強くなり、身体のさまざまな部位で炎症を引き起こします

通常、肺炎球菌は鼻や喉に存在しても無害ですが、免疫力が低下すると、肺や血液、脳脊髄液などに侵入します。これにより肺炎や髄膜炎、敗血症などの重篤な疾患を引き起こすことがあります。特に、乳幼児や高齢者、慢性疾患を抱える人は感染しやすく、重症化のリスクが高いです。また、インフルエンザや風邪などのウイルス感染をきっかけに、肺炎球菌が二次感染を引き起こすことも少なくありません。

肺炎球菌による感染は季節によって増えたり減ったりしますが、特に寒い時期に流行する傾向があります。これは、乾燥した空気が喉や鼻などの気道の防御機能を低下させ、細菌が体内で増殖しやすくなることが関係しています。

肺炎球菌感染症の前兆や初期症状について

肺炎球菌感染症の初期症状は、感染した部位や個人の体調によって異なりますが、一般的には発熱、倦怠感、食欲不振などの全身症状が現れます。これらの症状は風邪やインフルエンザと似ていますが、進行すると特有の症状が現れます。例えば、肺炎の場合は高熱、咳、胸痛、呼吸困難が見られます。髄膜炎では激しい頭痛、吐き気、項部硬直、意識障害が起こることがあります。中耳炎では耳の痛みや発熱副鼻腔炎では鼻詰まりや顔面の痛みが特徴的です。

これらの症状が見られる場合、特に症状が急激に悪化する場合には早急に医療機関を受診する必要があります。どの診療科を受診するかは、症状に応じて異なります。肺炎が疑われる場合は呼吸器内科、中耳炎や副鼻腔炎は耳鼻咽喉科、髄膜炎の可能性がある場合は神経内科や感染症科が適切です。早期に適切な診療を受けることで、重症化を防ぐことができます。

肺炎球菌感染症の検査・診断

肺炎球菌感染症の診断では、患者さんの症状や既往歴を詳細に確認した後、さまざまな検査を実施します。まず、問診身体検査を通じて症状の把握を行います。症状や聴診による呼吸音の変化から肺炎が疑われる場合は胸部X線検査で肺の状態を確認します。肺に影が見られる場合、肺炎の可能性が高くなります。肺炎の診断や他の疾患の鑑別のためにCT検査が行われることもあります。

中耳炎や副鼻腔炎の場合は鼻鏡や耳鏡による耳や鼻の診察やCTスキャンなどの画像検査を行い、炎症や液体の溜まり具合を詳しく評価します。髄膜炎が疑われる場合には、脳脊髄液の検査も行います。

肺炎球菌の同定は診断で最も重要なポイントです。喀痰や髄液などの感染部位から得られた検体に対して、グラム染色や培養検査を行い、肺炎球菌が検出されれば確定診断となります。重篤な全身感染が疑われる場合には、血液培養も併せて行います。

また、尿中の肺炎球菌抗原を検出する検査は、短時間で結果が得られる非侵襲的な方法です。特に肺炎が疑われる患者さんに対しては、迅速に診断が可能となります。

迅速な診断は、適切な治療法の選択に直結します。特に重症化のリスクが高い患者さんの場合、早期診断と治療が予後を大きく改善する要因となります。

肺炎球菌感染症の治療

肺炎球菌感染症の治療は、主に抗菌薬の投与を中心に行われます。軽症の場合には経口抗菌薬が使用され、重症の場合には点滴による投与が行われます。ペニシリン系やセファロスポリン系抗菌薬が第一選択薬ですが、近年では抗菌薬に対する耐性菌が増加しているため、ニューキノロン系やカルバペネム系抗菌薬が使用されることもあります。

治療開始後の患者さんの反応を観察することも重要です。例えば、肺炎の場合は治療開始後48〜72時間以内に症状が改善しない場合、耐性菌の関与や別の合併症が疑われるため、薬剤の変更や追加検査が必要になることがあります。髄膜炎や敗血症などの重篤な症例では、集中治療室での管理が行われる場合もあります。これには、人工呼吸器や血圧を維持する薬剤の使用が含まれることがあります。

症状を緩和するための対症療法も重要です。高熱や痛みには解熱鎮痛剤が使用され、呼吸困難には酸素吸入が行われます。場合によっては、炎症を抑えるためにステロイド薬が併用されることもあります。

肺炎球菌感染症になりやすい人・予防の方法

肺炎球菌感染症は、免疫力が低下している人ほどかかりやすい疾患です。特に、高齢者や乳幼児糖尿病や慢性心疾患呼吸器疾患を持つ人、また免疫抑制剤を使用している患者さんはリスクが高いです。また、インフルエンザに感染した後や寒冷な季節には、発症リスクがさらに高まるため、特に注意が必要です。

予防の最も効果的な方法はワクチン接種です。乳幼児にはPCV13(小児用肺炎球菌結合型ワクチン)が定期接種として推奨され、高齢者や基礎疾患を持つ人にはPPSV23(肺炎球菌多糖体ワクチン)が用いられます。これらのワクチンは、感染や重症化を防ぐ効果が高く、多くの国で広く使用されています。

日常生活における感染対策も重要です。例えば、手洗いやうがいを徹底し、咳エチケットを守ることが感染の拡大を防ぐ基本です。また、バランスの取れた食事十分な睡眠適度な運動を心がけ、免疫力を高める生活習慣を維持することが推奨されます。

さらに、基礎疾患を持つ人はその管理を徹底することが重要です。例えば、糖尿病患者さんは血糖値を適切にコントロールし、慢性呼吸器疾患を持つ人は定期的に医師の診察を受けることで、感染リスクを大幅に低減することが可能です。このように、予防策を総合的に実施することで、肺炎球菌感染症の発症や重症化を効果的に防ぐことができます。

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