

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
肺真菌症の概要
肺真菌症は、真菌(カビ)が肺に感染することで発症する呼吸器感染症です。表在性真菌症である水虫(白癬菌による感染症)とは異なり、肺真菌症は深在性真菌症に分類されます。
主な原因菌としては、アスペルギルス、カンジダ、クリプトコックス、接合菌(ムーコル)などがあげられます。このうち最も頻度が高いのは肺アスペルギルス症で、続いてカンジダ症、ムコール症の順です。以下にそれぞれの特徴を示します。
肺アスペルギルス症
肺真菌症の主要な原因の一つです。アスペルギルス属という真菌が原因となり、慢性肺アスペルギルス症、侵襲性肺アスペルギルス症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症に分かれます。
肺カンジダ症
カンジダは皮膚や口腔内や消化管に常在する真菌で、通常は人体に害を及ぼしません。しかし、免疫力が低下すると病気を引き起こすことがあります。
肺クリプトコックス症
クリプトコックスはハトやニワトリなどの鳥の糞で汚染された土壌に存在する真菌です。真菌を含んだほこりなどを吸うことで感染します。免疫機能が低下している場合に発症リスクが高まります。
肺ムコール症
ムコールは土壌や腐敗した有機物に存在する真菌です。肺胞や気管支に真菌の胞子が侵入して炎症や壊死を引き起こし、重篤な症状が現れます。免疫機能が低下している場合に発症リスクが高まります。
また免疫力が低下している人がかかりやすい日和見感染として、Pneumocystis jiroveciiという真菌によって引き起こされるニューモシスチス肺炎があります。
肺真菌症の発症率は、高齢化や免疫抑制剤の使用により上昇傾向です。また慢性的な呼吸器疾患をもつ患者さんにおいて、発生リスクが高まります。真菌による感染は肺にとどまらず全身に拡大する可能性があり、重篤な合併症を引き起こすこともあるので注意が必要です。
適切な治療が行われないと致命的となる可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。
肺真菌症の原因
肺真菌症の原因は、原因となる真菌の吸入による感染です。アスペルギルス、カンジダ、クリプトコックス、ムコールは、深在性真菌症である肺真菌症の4大病原真菌として知られています。
また以下の条件下で肺真菌症の発症率が高まります。
免疫機能の低下
- がん治療で化学療法を受け骨髄抑制状態にある
- 臓器移植や骨髄移植を受けたあと
- ステロイドや免疫抑制剤の使用
- HIV / AIDS
- 糖尿病
既存の肺疾患
- 結核の既往
- 気管支拡張症
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
医療行為
- 人工呼吸器の使用
- 長期間のカテーテル留置
肺真菌症の前兆や初期症状について
肺真菌症の初期症状は非特異的であり、ほかの呼吸器疾患と類似しているため、見逃されることがあります。しかし以下のような症状が続いてみられる場合は注意が必要です。
- 慢性的な咳(痰を伴うことが多い)
- 発熱
- 全身倦怠感
- 呼吸困難
- 胸痛
- 体重減少
原因不明の高熱や、全身のだるさや疲労感が強い場合には注意が必要です。また喀血や血痰が出る場合は重症例の可能性があります。
これらの症状が長期間続く場合や悪化する場合には、呼吸器内科・感染症科・総合診療科・一般内科など早めに医療機関を受診してください。早期発見・早期治療が重要なため、上記の症状が2週間以上続く場合は、速やかに医師の診察を受けましょう。
肺真菌症の検査・診断
肺真菌症では、胸部エックス線検査、胸部CT検査で特徴的な浸潤影が現れることもありますが、画像検査のみでは診断が困難です。喀痰の検査や気管支鏡検査で病巣部の分泌物などを培養して真菌を証明することが有用です。一部の真菌では抗原・抗体検査やβ-Dグルカンといった血液検査も診断の助けとなります。
胸部エックス線検査
- 感染部位の特定
- 病変の広がりの確認
胸部CT検査
- より詳細な病変の観察
- 特徴的な所見(菌球形成、空洞形成など)の確認
血液検査
- β-Dグルカン、アスペルギルス抗原/抗体、クリプトコックス抗原、一般的な炎症マーカー(CRP、白血球数など)を確認
喀痰検査・培養検査
- 診断の確定に重要
- 喀痰検査での真菌の検出
- 血液培養検査での真菌の検出
気管支鏡検査
- 内視鏡的に病巣部から病変部の真菌を採取する
- より精度の高い培養検査を行うことが可能
ほかにも病理組織学的診断、遺伝子学的検査が行われる場合もあります。
肺真菌症の診断は、患者さんの症状や既往歴、環境要因を考慮した上で、以上のような検査を的確に用いながら行います。
肺真菌症の治療
肺真菌症の治療は、原因菌や患者さんの状態に応じて異なります。以下は一般的な治療法です。
抗真菌薬の使用
原因となる真菌ごとに用いられる抗真菌薬は異なります。主に使用される薬剤にはボリコナゾール(Voriconazole)やイトラコナゾール(Itraconazole)、重症例ではアムホテリシンB(Amphotericin B)の点滴投与などが使用されます。
治療期間は原因菌や病態により異なりますが、通常3ヶ月以上の長期投与が必要となる場合も少なくありません。
外科手術
抗真菌薬で効果が得られない場合や感染部位が限局している場合や気胸や膿胸を合併している場合には、感染部位を外科的に切除することがあります。
基礎疾患の治療
肺真菌症の発症リスクを高めている基礎疾患(糖尿病、免疫不全など)が、治療によりコントロールできていることが重要です。
支持療法
栄養状態の改善や免疫機能の改善、基礎疾患の管理など患者さんの全体的な健康状態をサポートする治療が行われます。
治療は専門医の指導のもとで行います。自己判断で治療を中止せず、気になることがある場合には必ず医師に相談をしましょう。
肺真菌症になりやすい人・予防の方法
肺真菌症は以下のような人がなりやすいと考えられます。
免疫不全状態の方
- がん治療による化学療法を受け骨髄抑制状態にある
- 臓器移植や骨髄移植を受けたあと後の免疫抑制剤使用
- ステロイドや免疫抑制剤の使用
- HIV / AIDS
基礎疾患や慢性疾患のある方
- 慢性肺疾患患者
- 糖尿病患者
- COPD患者
- 気管支拡張症患者
高齢者
- 免疫力の低下
また、注意したいことは環境要因です。真菌は土壌や腐敗した植物、湿気の多い場所などに存在します。これらの環境に頻繁に接触することで、真菌を吸入する可能性があります。
上記を踏まえて、予防のためには以下の対策が有効です。
真菌の曝露を避ける
- 湿気の多い場所やカビが発生しやすい環境を避ける
- 土壌や腐敗した植物を扱う際には手袋やマスクを着用する
- 適切な室内換気などの環境対策
- エアコンフィルターの定期的な清掃
- 建築現場や土木工事現場への不必要な立ち入りを避ける
生活習慣を整え免疫力を維持する
- バランスの取れた食事や適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレスを軽減し、健康的な生活を送る
- 禁煙
定期的な健康診断や治療の継続
- 基礎疾患の管理を徹底する
- 定期的な受診
- 処方薬の正しい服用
- 血糖値のコントロール(特に糖尿病がある場合)
感染予防対策を行う
- マスクの着用(特にハイリスク者)
- 手洗い・うがいの励行