目次 -INDEX-

唾液腺がん
長友 孝文

監修医師
長友 孝文(医師)

プロフィールをもっと見る
浜松医科大学卒業。自治医科大学附属病院、東京大学医科学研究所などで勤務の後、2022年に池袋ながとも耳鼻咽喉科を開院。院長となる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医。

唾液腺がんの概要

唾液腺がんは、唾液をつくる唾液腺という組織に発生する悪性腫瘍(がん)の総称です。

唾液腺は、耳下腺(じかせん)、顎下腺(がくかせん)、舌下腺(ぜっかせん)といった大唾液腺と、口腔粘膜やのどの粘膜に存在する小唾液腺に分けられます。 唾液腺がんはこれらすべての部位で発生する可能性がありますが、とくに耳下腺がんと顎下腺がんが多く、耳下腺がんは60〜70%、顎下腺がんは20〜30%と、唾液腺がんの約90%を占めます。その次に多いのが舌下腺がんですが、その割合は2〜3%程度です。

唾液腺がんは、頭頚部がん(首や顔の領域に生じるがん)の約6%を占めるとされますが、日本における年間発症数は人口10万人あたり1人程度と、がんの中でもまれながんに分類されています。

唾液腺がんは他の頭頚部がんに比べて病理組織型(がんを構成する組織や細胞の種類によって決まる分類)が多いことが特徴です。唾液腺がんには、粘表皮がんや腺様嚢胞がん、腺房細胞がんなど、さまざまな組織型があり、その数はWHO分類で20種類以上にもおよびます。

唾液腺がんの症状は、痛みをともなわない首のリンパ節の固い腫れ(しこり)から自覚することが多いですが、がんが進行するにつれて、痛みやしびれ、顔面神経の運動麻痺などがあらわれることがあります。

唾液腺がんでは、外科的手術によってがんを切除することが基本の治療法となります。近年、がん細胞の表面にある特定の分子に作用してがん細胞を制御する分子標的薬が有効であることも報告されており、唾液腺がんの新たな治療選択肢として期待されています。

唾液腺がんの原因

他の多くのがんと同様に、喫煙、飲酒、化学物質や放射線への曝露などがリスク要因として指摘されてはいるものの、唾液腺がんの明確な原因は明らかになっていません。

特定の遺伝子異常ががんの発生に関与しているとの研究結果もあり、さらなる研究が進められています。

唾液腺がんの前兆や初期症状について

唾液腺がんは、初期段階では症状があらわれにくいことが多いですが、初期に多いとされる兆候は、耳下腺や顎下腺における無痛性のしこりです。耳下腺は耳の前から下、顎下腺はあごの下に存在しています。しこりは徐々に大きくなることがありますが、痛みをともなわないことも多いため見過ごされることが少なくありません。唾液腺がんが進行すると痛みがあらわれることがあります。

唾液腺がんの増大や進行にともない、顔面神経が圧迫されることがあり、顔面神経麻痺やしびれ、感覚の異常が生じることがあります。顔面神経麻痺では、目が閉じにくい、口角が下がる、口元から水がこぼれる、顔が左右非対称になってゆがむ、などの症状がみられます。耳下腺の中に顔面神経が走行しているため、唾液腺がんのなかでもとくに、耳下腺がんで顔面神経麻痺の症状がみられることが多いです。

舌下腺がんでは、口腔底とよばれる舌と歯ぐきの間のくぼんでいる床の部分が腫れたり、顎の骨の下部が腫れたりする症状がみられる場合があります。

唾液腺がんのこれらの症状はほかの疾患でもみられることがあるため、ほかの疾患との鑑別することが重要です。耳の周囲やあごの下のしこり、顔面麻痺などの症状がある場合には、早めに耳鼻咽喉科や頭頚部外科を受診するようにしましょう。

唾液腺がんの検査・診断

唾液腺がんの診断は、まず問診や視診、触診を通じて行われます。耳下腺や顎下腺がある耳周りやあごの下に腫瘤(しこり)が確認され、唾液腺がんが疑われる場合、画像検査や病理細胞診(生検)が行われ、確定診断に至ります。

画像検査では、超音波検査(エコー)、MRI、CTが用いられ、腫瘍の大きさや性質、広がり方、転移の有無などが評価されます。必要に応じて、全身への転移を調べるためにPET検査が行われる場合もあります。

細胞診とは、実際にがん細胞の一部を採取して顕微鏡でくわしく調べる検査です。唾液腺がんでは、直接腫瘍のある部分に到達することが難しいため、腫瘍の一部に細い針を刺して細胞を吸引する方法(穿刺吸引細胞診)が用いられます。細胞診は良性と悪性の鑑別や、病理組織型を診断するのに重要な検査です。

唾液腺がんの治療

唾液腺がんは、抗がん剤などの化学療法や放射線療法が効きにくいことが知られています。したがって、外科的手術によって腫瘍を切除することが唾液腺がんの治療の基本となります。手術は腫瘍の広がり具合に応じて切除範囲が決定されます。腫瘍が神経、筋肉、骨、皮膚などの周囲の組織へと広がっている場合には、周囲の組織もあわせて切除されます。

耳下腺がんでは、耳下腺の中に顔面神経が走っているため、可能な限り顔面神経を温存できるように切除範囲が検討されますが、腫瘍の悪性度や大きさ、広がり方によっては顔面神経を切除せざるを得ない場合もあります。

腫瘍の悪性度が高い場合や、手術で摘出した腫瘍の組織型(がんの種類)によっては、手術後に放射線治療を行うケースもあります。

手術によって皮膚や筋肉、神経、あごの骨などの周囲の組織が切除された場合には、腕や足の皮膚や骨を移植して再建手術を行うこともあります。

また、近年では、がん細胞の表面にある特定の分子に作用してがん細胞の増殖を抑える「分子標的薬」が有効であることも報告されており、唾液腺がんの新たな治療薬として期待されています。

唾液腺がんは、悪性度やがんの種類によって再発や転移のしやすさなどが大きく異なるため、治療後の経過観察も重要です。定期的な診察や画像検査により、再発や転移を早期に発見することで、迅速に適切な治療を受けられる可能性が高まります。

唾液腺がんになりやすい人・予防の方法

唾液腺がんの原因は明らかになっていないため、唾液腺がんの発症を高めるリスク要因や予防の方法も、正確にはわかっていません。

唾液腺がんの初期症状が耳まわりやあごの下のしこりであることから、そのようなしこりに気がついた場合には、なるべく早く医療機関を受診することが重要です。

また、喫煙習慣と唾液腺がんの発症との因果関係については明確にはなっていませんが、唾液腺がんが含まれる頭頚部がんは喫煙によって発症リスクが高まることが明らかになっています。 そのため、喫煙習慣のある人は、禁煙をすることが唾液腺がんの予防につながる可能性があります。

関連する病気

この記事の監修医師