

監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
気道熱傷の概要
気道熱傷とは、火災や爆発事故などにより高温の煙や水蒸気、有毒なガスを吸うことによって、呼吸をするための空気の通り道(気道)が傷つく呼吸器系の障害のことです。鼻や口から肺までの空気の通り道全体が影響を受ける可能性があります。
傷ついた部位によって「上気道型気道熱傷(咽頭や声門周辺の損傷)」と「肺実質型気道熱傷(気管や気管支、肺胞の損傷)」にわけられます。基本的に熱による障害は上気道までにとどまるとされており、肺実質型気道熱傷は煙の中にある刺激性の有毒ガスによって引き起こされると考えられています。
空気の通り道が熱で傷つくと、粘膜が腫れたり、ただれたりします。すると、空気がスムーズに肺に届かなくなり、呼吸が苦しくなります。見た目で診断がつきやすい皮膚表面のやけどに比べ、気道熱傷は外から見ただけでの診断は難しいのが特徴です。
気道熱傷の治療では、気道を確保しながら炎症を抑える治療をおこないます。重度の気道熱傷や肺実質型気道熱傷は、患者の生命に危険が及ぶ可能性もあり、緊急の治療を要する重篤な状態です。
また、気道熱傷を負うような状況では、顔面や全身にも火傷、あるいは外傷を受けているケースも多いため、治療においては患者の全身状態に注意を払う必要があります。

気道熱傷の原因
気道熱傷の主な原因は、火災などで発生した煙や、非常に熱い空気を吸い込むことです。具体的には、火災現場での煙の吸入や爆発事故による熱風の吸入、高温の蒸気の吸入などです。
これらの状況では、空気の通り道が直接熱にさらされるため、粘膜が炎症を起こし、腫れ上がります。気道が腫れると、空気の通り道が狭くなり、呼吸が苦しくなります。火災による煙には有害な化学物質が含まれているケースもあり、炎症をさらに悪化させる原因となります。
気道熱傷の前兆や初期症状について
気道熱傷は、突発的な事故や災害で受けることが多いため、前兆などは通常ありません。
ただし、何らかの理由で高温の煙やガスを吸い込むような状況があれば、それが前兆となります。
気道熱傷の初期症状は、呼吸器系の症状が中心です。主な症状は咳や息苦しさ、声のかすれ、喉の痛みなどです。
これらの症状は、単独であれば上気道の感染症などと類似しますが、火災で煙を吸い込むなどの特異的な状況の有無により気道熱傷を疑います。
気道熱傷では、他の熱傷や外傷を同時に受けている影響で、患者が自覚症状を訴えられない可能性もあることにも注意が必要とされています。
気道熱傷の検査・診断
気道熱傷の診断は、患者の状況と症状を総合的に判断しておこないます。
問診が可能な状況であれば、どのような状況で煙を吸い込んだのか、いつからどのような症状が出ているのかなどを詳しく聞きます。聴診器を使って呼吸音を聞き、異常な音がしないかを確認します。
気道熱傷が疑われる場合、気管支鏡検査をおこないます。この検査では気管支カメラと呼ばれる細いカメラを口や鼻から入れて、気道内部を直接観察できます。気道熱傷の程度を評価するために重要な検査です。
血液検査では、血液中の酸素や二酸化炭素の量を測定し、呼吸の状態を評価します。胸部X線検査では、肺に異常がないかを確認します。
また、気道熱傷を負うような状況下では、患者は身体のほかの部分にも重度の火傷や外傷を受けていることが少なくありません。気道熱傷の検査では、患者の全身状態や治療の優先度が考慮される必要があります。
これらの検査結果をもとに、気道熱傷の治療方針を決定します。
気道熱傷の治療
気道熱傷の治療は、呼吸状態の安定と気道の炎症を抑えることが中心となります。気道熱傷の治療は、状態に合わせて、集中的なケアが必要となるケースも多く見られます。具体的な治療法は以下のとおりです。
薬物療法
薬物療法では、炎症を抑える薬や気管支を広げる薬、痰を出しやすくする薬などが使われます。これらの薬は、気道の腫れを和らげ、呼吸を楽にする効果があります。
気道熱傷の薬物療法では、「ネブライザー吸入」という手法がとられることもあります。この手法は、薬を細かい霧状にして吸入することで、薬が気道に直接届くようにする方法です。薬の効果が早く現れやすいという利点があります。
気道の確保
気道粘膜の腫れは徐々に進行することもありますが、急激に進行して呼吸ができなくなる場合もあります。特に、受傷後数時間から24時間以内は、腫れが急速に進む可能性があるため、注意が必要です。
空気の通り道が塞がり、呼吸ができなくなると死に至る恐れがあるため、気管挿管をおこないます。気管挿管とは、気管チューブを口や鼻から気道に挿入して、人工呼吸器によって酸素や空気を送り、気道を確保することです。
この気管チューブを入れている間は、チューブの違和感が強くあらわれることがあるため、麻酔をかけておくことが一般的です。
気道熱傷を負っている場合は、全身に火傷を追っているケースもまれではありません。大量の輸液を投与したり創部に軟膏を塗ったりなど火傷の治療も並行しておこなわれます。皮膚の損傷が広範囲に及んでいる場合は、感染症のリスクが高まるため、抗菌薬の投与などもおこなわれるなど、全身管理が重要です。
気道熱傷になりやすい人・予防の方法
気道熱傷は突発的な事故や災害を理由とする火災や爆発で負うことが多いため、誰にでも発症リスクがあると言えます。
職務環境などの要因で、気道熱傷の発症リスクが変動する可能性があります。火災現場にかけつける消防士や、焼却炉等の大きな熱源の近くで作業する人などは、気道熱傷にじゅうぶん警戒する必要があります。
火災予防を徹底すること、火災の際には煙を吸い込まないように注意することが、気道熱傷の予防につながります。
火の取り扱いに注意する、防火設備の点検を定期的におこなうなどの基本的な火災予防が重要です。
万が一火災が発生した場合は、煙を吸い込まないように、できるだけ低い姿勢で避難し、濡れたタオルやハンカチなどで口や鼻を覆いましょう。避難後は、速やかに医療機関を受診し、必要な処置を受けてください。
関連する病気
- 上気道型気道熱傷
- 肺実質型気道熱傷




