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唾液腺腫瘍
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

唾液腺腫瘍の概要

唾液腺腫瘍は、唾液を分泌する唾液腺に発生する腫瘍です。
唾液腺は大唾液腺と小唾液腺に分類され、大唾液腺には顎下腺(がっかせん)、耳下腺(じかせん)、舌下腺(ぜっかせん)が含まれます。
腫瘍の発生部位は主に顎下腺と耳下腺で、唾液腺腫瘍の約9割を占めています。

唾液腺腫瘍には良性と悪性があり、良性のほうが多いとされています。
良性腫瘍には多形腺腫(たけいせんしゅ)やワルチン腫瘍、基底細胞腺腫(きていさいぼうせんしゅ)などの腫瘍があり、特に多形腺腫は再発率が高く、悪性化する可能性があることが知られています。

悪性腫瘍は、多形腺腫由来がん、腺がん、腺様嚢胞がんなどの腫瘍があります。
頭頸部がん全体の約5%を占めており、高齢者に多く見られる傾向があります。
舌下腺に腫瘍が生じた場合は、良性よりも悪性の割合が高いことがわかっています。

(出典:公益社団法人 日本口腔外科学会 口腔外科相談室 「唾液腺の疾患」
(出典:特定非営利活動法人 日本頭頸部外科学会「唾液腺がん」

症状としては多くの場合、無痛性のしこりとして自覚されます。
しこりは時間の経過とともに徐々に大きくなることがあります。周りの神経を圧迫して痛みやしびれ、運動麻痺などの症状が現れるような場合には、悪性腫瘍の疑いが強まります。

診断には主に病理学的検査が用いられ、腫瘍に細い針を刺して細胞を吸引する「穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)」がおこなわれます。
また、超音波検査やMRI検査、PET検査などの画像診断を併用し、腫瘍の広がりや転移の有無も確認します。

主な治療方法は外科的手術による腫瘍の全摘出です。
腫瘍の大きさや位置によっては、摘出範囲が広くなる場合があり、その際は体のほかの部位から皮膚を移植することもあります。
悪性腫瘍の場合は、手術後の補助療法として、放射線治療や分子標的薬などの薬物療法をおこなうこともあります。

唾液腺腫瘍の原因

唾液腺腫瘍の明確な原因は現在のところ特定されていません。
悪性腫瘍の場合は、発がん性物質への暴露、放射線への被爆、喫煙習慣などが発症リスクを高める可能性があると考えられています。

唾液腺腫瘍の前兆や初期症状について

唾液腺腫瘍の初期症状は、通常、痛みを伴わないしこりとして現れます。
しこりは、顎下腺では顎の下、耳下腺の場合は耳の前方や下側、舌下腺では舌の下に生じます。
初期段階では自覚できる症状が少ないですが、時間の経過とともに徐々にしこりが大きくなっていきます。

悪性腫瘍の場合、病状の進行に伴い腫瘍が拡大すると、周りの神経を圧迫し、さまざまな症状が出現します。
耳下腺の腫瘍が悪性だった場合、耳の前方の痛みやしびれ、顔面神経麻痺が生じることがあります。
顔面神経麻痺では、顔の左右どちらかに運動麻痺が起こり、水を飲むときに口からこぼれたり、目を十分に閉じられなくなったりする症状が現れます。

顎下腺や舌下腺の悪性腫瘍では、舌の痛みやしびれ、舌の運動麻痺などが生じることがあります。
これらの症状は腫瘍の大きさや位置、進行度によって異なり、徐々に進行していくことが多いです。

唾液腺腫瘍の検査・診断

唾液腺腫瘍の診断は、複数の検査を組み合わせておこないます。
はじめに、視診と触診によってしこりの有無や可動性を確かめます。
超音波検査やMRI検査、CT検査などの画像診断も用いて、しこりの広がりや周囲の組織との関係性を評価します。

触診や画像診断によって唾液腺腫瘍が疑われる場合、病変部位の組織を採取して病理学的検査をおこない、腫瘍の性質を詳しく調べます。
唾液腺の病変部位は直接採取することが難しいため、穿刺吸引細胞診を用いて組織を採取します。
採取した組織は顕微鏡で詳細に観察され、良性や悪性の鑑別、組織型やステージの判定がおこなわれます。

悪性腫瘍が疑われる場合は、PET検査という全身のがん細胞の分布を調べる検査が活用されることがあります。
PET検査をおこなうことで、原発腫瘍の検出だけでなく、リンパ節やほかの臓器への転移についても確かめられます。

これらの検査結果を総合的に判断することで、より正確な診断と治療方針の決定が可能になります。

唾液腺腫瘍の治療

唾液腺腫瘍の治療は、主に手術による全摘出が基本になります。
良性腫瘍の場合でも、摘出によって詳細な判断ができることや、後に悪性に転化する可能性などを考慮して手術が推奨されます。
悪性腫瘍の場合は速やかに手術する必要があり、がん細胞が浸潤している組織を十分に摘出することが重要です。
進行状況に応じて、頸部のリンパ節を併せて切除することもあります。

良性、悪性の場合でも、腫瘍が耳下腺に発生している場合は、腫瘍の位置や進行度によって顔面神経を切除しなければならないこともあります。
摘出範囲が広範囲に及ぶ場合、腹部や太ももの皮膚を移植して再建術をおこなうこともあります。

悪性腫瘍の治療では、放射線療法や化学療法の併用も検討されます。

唾液腺腫瘍になりやすい人・予防の方法

唾液腺腫瘍になりやすい人は明確にわかっていませんが、悪性腫瘍は高齢者に多く見られる傾向があります。

現在のところ、唾液腺腫瘍の明確な予防法は確立されていません。ただし、悪性腫瘍(唾液腺がん)については、生活習慣も発症リスクに関連していると指摘されています。
特に喫煙習慣は悪性腫瘍の発症リスクを高める可能性があり、避けることが望ましいでしょう。

定期的な健康診断や人間ドックを受けること、あるいは気になる症状があればすみやかに医療機関を受診することにより、唾液腺腫瘍を早期のうちに発見できる可能性が高まります。

関連する病気

  • 耳下腺腫瘍
  • 顎下腺腫瘍
  • 舌下腺腫瘍
  • 多形腺腫
  • ワルチン腫瘍
  • 基底細胞腺腫
  • オンコサイトーマ
  • 多形腺腫由来がん
  • 粘表皮がん
  • 腺房細胞がん

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