MERS(中東呼吸器症候群)
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

MERSの概要

MERS(Middle East Respiratory Syndrome、中東呼吸器症候群)は、MERSコロナウイルスによって引き起こされる感染症です。特にサウジアラビアを中心とした中東地域で報告されています。発熱や咳などの症状を伴い、重症化すると呼吸困難を引き起こすことがあります。MERSは致死率が高く、特に高齢者や基礎疾患を持つ人が感染すると重症化しやすい傾向にあります。感染経路はラクダからの感染が主で人から人への感染はあまり見られませんが、医療機関などの密閉された空間ではクラスターが発生することがあります。現在も有効なワクチンがないため、予防がとても重要です。(参考文献1)

MERSの原因

MERSは、コロナウイルス科ベータコロナウイルス属のMERSコロナウイルス(MERS-CoV)によって引き起こされます。このウイルスは、ヒトコブラクダが持っており、ラクダとの濃厚接触が感染の主な原因と考えられています。
人から人への感染は起こりにくいですが、医療機関や家庭内での感染例が報告されています。また、一部の患者から予想以上に多くの人へ感染が広がる「スーパー・スプレッディング現象」が起こることもあります。
(参考文献1)

MERSの前兆や初期症状について

MERSに感染すると、症状が出るまでの期間(潜伏期間)は平均すると5日程度あり、その後に以下のような症状が現れます。

  • 発熱
  • 呼吸困難
  • 全身のだるさ

重症化すると、肺炎を引き起こし、人工呼吸器が必要になることもあります。また、下痢などの消化器症状を起こしたり、腎不全や敗血症性ショック(血圧が低下し、臓器が正常に働かなくなる状態)に陥ることもあります。特に、高齢者や糖尿病、腎疾患のある人は重症化しやすいとされています。(参考文献1)

MERSの検査・診断

MERSは、特定の地域(中東地域など)への渡航歴や、ヒトコブラクダとの接触歴がある場合に疑われます。
鼻や喉、痰などから採取した検体から、PCR法という検査法によりウイルスの遺伝子が検出されるとMERSと診断されます。PCR検査は専門の医療機関でしか実施できず、医療機関から保健所に相談が必要です。そのため、診断に時間がかかります。
(参考文献1)

MERSの治療

現在、MERSに対する特効薬はなく、治療は症状を和らげる対症療法が中心となります。MERSは致死率が高く、34%の患者が亡くなっていると報告されています。そのため、特に重症化リスクの高い人は注意が必要です。
また、MERSは感染症法において2類感染症と指定されているため、MERSと診断された場合は「特定感染症指定医療機関」「第一種感染症指定医療機関」「第二種感染症指定医療機関」のいずれかに入院することとなります。(参考文献1)

MERSになりやすい人・予防の方法

MERSは主に中東地域で発生しています。2019年3月までに、世界で2,399人の感染が報告されており、そのうち83.7%がサウジアラビアで確認されています。その他にはアラブ首長国連邦、ヨルダン、カタール、オマーン、クウェートなどで発生しています。
中東地域以外では感染例は少ないものの、海外旅行者による持ち込みのリスクは常に存在します。ヨーロッパや東南アジアでも流行地域で感染したと思われる旅行者の感染例が見られています。また、2015年には韓国で186人の感染が発生しました。これは中東から帰国した1人が感染源となり、病院内で広がったケースです。
MERSには有効なワクチンがないため、レベルの高い感染防護策が重要です。
特に中東地域へ旅行する際はラクダに触れたり、未加熱のラクダの乳や肉を摂取しないようにしましょう。ラクダとの接触があった人は検疫所が最大14日間の健康監視を行う場合もあります。日本への入国時には必ず検疫官へ申し出るようにしましょう。
また、基本的な感染対策として、石鹸と水でしっかり手を洗うこと感染のリスクがある場所ではマスクを着けることも大切です。(参考文献1,2)


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