袋耳
松澤 宗範

監修医師
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)

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2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会

袋耳の概要

袋耳(ふくろみみ)は、埋没耳(まいぼつじ)とも呼ばれ、耳の上半分が頭の側面の皮膚に埋もれた状態です。

新生児の約400人に1人の割合で見られる比較的一般的な症状です。医学的には先天性の軽度の耳介奇形として知られています。

出典:独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院「耳の「形」に関する診療 ~埋没耳と小耳症に対する当院の治療について~」

耳の上部を指でつまんで引っ張り上げることはできますが、指を離すと元の状態に戻るのが特徴です。片方の耳だけに生じることもあれば、両方の耳にあらわれることもあります。また両方の耳に生じている場合でも、左右で変形の程度が異なることがあります。

袋耳は、健康に影響を及ぼすことはありませんが、眼鏡やマスクが掛けにくいなどの問題が生じることがあります。また、子どもの成長にともない、見た目の問題で心理的な影響をおよぼす可能性もあります。集団生活が必要な幼稚園や保育園、学校での生活を考えると、治療が推奨されています。

袋耳の原因

袋耳の主な原因として、耳の後ろ側にある「内耳介筋」などの小さな筋肉の異常が考えられています。内耳介筋などの筋肉に異常が起こる根本的な原因については、今のところ解明されていません。
内耳介筋は、動物だと耳を動かすために使用されますが、人間ではほとんど退化しています。しかし、人間でも耳の形を保つうえで重要な役割を果たしていることから、耳の上部が埋もれてしまう一つの原因になると考えられています。

耳の変形は生後すぐから認められ、放置すると成長とともに固定化してしまう可能性があるため、できるだけ早期に治療を開始することが推奨されます。

袋耳の前兆や初期症状について

袋耳では、生まれた時から耳の上部が頭部の側面に埋もれている状態が観察できます。指でつまんで引っ張り上げることはできますが、手を離すとすぐに元の状態に戻るのが特徴です。

また、痛みなどの自覚症状はないため、子どもが不快感を示すことはありません。聴力にも影響はないため、治療しなくても聴覚や言葉の発達は正常に進みます。ただし、先述したとおり、日常生活や心理面への影響が考えられるため、治療が推奨されます。

袋耳の検査・診断

視診で両耳を比較し、特徴的な症状を確認することで診断が可能です。

袋耳であることが判明した後は、変形の程度や特徴を確認するとともに、指で耳を引っ張り上げた時の戻り方を確認し、重症度の判断に役立てます。

袋耳の重症度は「耳を引っ張り上げるとしばらく元に戻らないもの(I型)」「すぐに元に戻るが軟骨の変形が軽度なもの(II型)」「すぐに元に戻り軟骨の変形が高度なもの(III型)」の3つに分類されることがあります。重症度の把握は治療方針の決定に役立ちます。

出典:J-Stage「外耳形成外科の臨床-軽度の耳介奇形について-」

また、まれに小耳症など他の耳介変形を引き起こす病気を併発するケースがあるため、検査時には併発の有無も確認します。

袋耳の治療

袋耳の治療は、患者の年齢や重症度によって使い分けられます。具体的な治療法としては、ワイヤーによる矯正と手術があります。

ワイヤー矯正治療

ワイヤー矯正治療は、ワイヤーを耳に装着して正常な耳の形に矯正する治療方法です。1歳以上になると耳介軟骨が硬くなっており矯正が難しいため、一般的に1歳以下の患者が適応対象となっています。

出典:独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院「耳の「形」に関する診療 ~埋没耳と小耳症に対する当院の治療について~」

ワイヤーの装着は、患者の耳の状態に合わせて医師が調整します。治療期間は数ヶ月程度で、定期的な診察を受けながら進めていきます。ワイヤー治療中は、皮膚のかぶれや傷つきを防ぐために耳の保護やケアも行います。

もし、乳児がワイヤーに対して不快感を示し、ワイヤーを外すような行動が見られた場合は効果が薄くなるため、すぐ医師に相談しましょう。

手術療法

ワイヤー矯正で十分な効果が得られなかった場合や、重度の変形がある場合は手術による治療を検討します。手術の適応となるのは、3歳程度~小学校入学前後の年齢です。

出典:一般社団法人 日本形成外科学会「埋没耳」

手術は局所麻酔または全身麻酔下で行われ、耳介軟骨の変形を修正し、必要に応じて皮膚の移動や植皮を行います。

また、手術後は医師の指示に従って包帯固定を行い、その後も夜間は特殊な固定具を使用して形を保持します。傷跡は耳の後ろにできますが、髪の毛で隠れる場所に位置します。

袋耳になりやすい人・予防の方法

袋耳は先天性の形態異常のため、現時点では確実な予防法は確立されていません。しかし、早い段階で治療を開始することで改善が期待できるため、早期発見・早期治療が重要です。

医学の進歩により、超音波検査で胎児の体を詳しく調べられるようになりましたが、現状では耳の形まで確認することは難しい状況です。そのため、袋耳の診断は生まれてから行うのが一般的で、出産直後や乳児健診の際に発見されることが多くなっています。

また、袋耳の再発を防ぐために、治療後の経過観察も重要です。とくに手術後は医師の指示に従い、適切なケアと定期的な経過観察を行うことで、良好な状態を維持できます。医師から指示された期間は確実に固定具を使用し、定期的な診察を受けて、変化がないかどうかを確認していきましょう。


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