気管支嚢胞
松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

気管支嚢胞の概要

気管支嚢胞は、胎児が母体内で成長する過程で気管支の発育が正常に進まなかった結果まれに生じる先天性の疾患です。
極まれに肺炎などの感染や炎症がきっかけで、後天的に嚢胞を発生する場合もあります。
気管支嚢胞は、肺の内部や胸部の中央にある空間(縦隔)に発生し、内部に空気や液体を含む袋状の構造が特徴です。

通常、特別な自覚症状は現れず、健康診断や他の検査の際に偶然発見されます。
嚢胞のサイズが大きくなったり、特定の部位に形成された場合、周囲の組織を圧迫して呼吸困難や胸痛などの症状を引き起こす可能性があります。
また、嚢胞が感染を起こすと発熱や咳などの炎症症状が現れることもあります。

治療を行わない場合、合併症リスクが高まる可能性があるため、外科的切除が推奨されます。
手術によって嚢胞を除去することで、症状の進行や合併症の発生を防ぐことが可能です。

気管支嚢胞の原因

気管支嚢胞の原因は、主に先天的(生まれつき持っている)な原因と後天的(生まれた後に起こる)な原因に分けられます。

先天的な原因

先天的な原因は、胎児期の気管や気管支の発育過程における異常です。
胎生3〜4週頃の呼吸器の発生段階において、気管支の枝分かれや分化(細胞が役割をもつ状態)が正常に進行しないことが嚢胞形成の主な理由です。

発生時期によって、嚢胞の位置や特徴が異なります。
発育異常が早期に起こると気管支に嚢胞が形成され、やや遅れて発生すると肺内に嚢胞が形成されます。

参考:気管支原性嚢胞の臨床病理学的検討/日本呼吸器外科雑誌/Vol24/No5/2010/p784-788

後天的な原因

後天的な原因としては、肺炎などの感染や炎症が挙げられます。
感染を契機として気管支腺の分泌が過剰になったりすると、嚢胞の症状や大きさに影響を与えます。

まれに、感染や炎症が嚢胞形成の一因となることもあり、特に肺内型の気管支嚢胞は感染を合併しやすい傾向があります。

気管支嚢胞の前兆や初期症状について

気管支嚢胞は、多くの場合無症状のまま、健診などの機会に偶然発見されます。
嚢胞の大きさ、位置、進行状況によって症状は変化し、乳幼児期、幼児期、成人でそれぞれ以下のような症状が現れることがあります。

乳幼児期(0~1歳頃)

乳幼児期では、気管支嚢胞が大きくなり気道を圧迫することで、呼吸が苦しそうなゼイゼイ音(喘鳴)や呼吸困難が起こります。
唇や指先が青紫色になるチアノーゼも見られることがあります。
症状は急速に悪化することもあるため、早めの医師の診察が重要です。

幼児期(1~5歳頃)

幼児期以降になり、嚢胞が感染を起こすと、肺炎により発熱し、痰が増えることがあります。
嚢胞が周囲の組織を圧迫すると、呼吸がしづらくなったり咳がでる場合もあります。
症状が出たり治まったりを繰り返すことがあるため、経過観察が必要です。

成人期(18歳以上)

成人期では、気管支嚢胞が無症状のまま発見されるケースも多いですが、嚢胞が拡大すると胸の痛み、息切れ、呼吸困難などの症状が出ることがあります。
嚢胞に細菌感染が起きると、発熱や咳などの炎症症状が現れます。
非常にまれですが、嚢胞が悪性腫瘍に進行するリスクもあるため、注意が必要です。

気管支嚢胞の検査・診断

気管支嚢胞の診断は、画像検査を用いて行われ、主な検査は胸部X線検査とCT検査、MRI検査です。

診断の過程では、単に画像検査だけでなく、患者の症状である喘鳴、呼吸障害、感染症の兆候などは、診断を行う上で重要な情報です。

胸部X線検査

胸部X線検査は嚢胞の基本的な位置とサイズを確認する最初のステップとして重要な役割を果たします。

CT検査

CT検査では、より詳細な画像情報が得られるため、嚢胞の正確な形状や周囲組織との関係性を評価できます。

MRI検査

MRI検査は、CT検査と併用されることが多く、嚢胞の内容物や壁の特性をさらに詳細に評価します。
頸部に発生する嚢胞の場合は、他の頸部腫瘤との鑑別が重要となるため、MRIが診断に貢献します。

超音波検査

妊婦検診の超音波検査によって胎児の段階で嚢胞が発見されるケースもあり、早期発見の可能性を広げています。

気管支嚢胞の治療

気管支嚢胞の治療は、患者の状態に応じて適切な治療法を選びます。
無症状または軽症の場合は、慎重に経過観察が行われ、定期的な検査によって嚢胞の変化を注意深く観察します。

症状が顕著な場合や嚢胞が増大傾向にある場合は、外科的切除が推奨されます。
一般的な手術方法は、胸に小さな穴を数か所開けて、細いカメラ(胸腔鏡)を使って行う胸腔鏡下手術です。
従来の開胸手術と比較して体の負担が少なく、回復が早いという利点があります。
嚢胞を摘出することで症状の改善が期待できます。

感染を伴う気管支嚢胞の場合は、抗生物質による治療が重要となります。
感染症状に応じて、抗生物質の投与や去痰薬の使用など、適切な対症療法が行われます。

気管支嚢胞になりやすい人・予防の方法

気管支嚢胞は主に胎児期に肺や気管支の発育異常が確認された人や、家族歴に呼吸器系の異常がある人がなりやすい傾向があります。
主に先天的な要因によって発生するまれな疾患であり、予防は難しいため、早期発見が重要な対策です。

妊娠中および乳幼児期における定期的な健康診断や画像検査を徹底することで、早期に異常を発見できる可能性が高まります。

また日常的に感染症予防対策を心がけることも重要です。
免疫力を高く保ち、適切な予防接種を受けることで、気管支嚢胞に伴う合併症のリスクを低減できます。
妊娠中は特に、栄養バランスの取れた食事、適度な運動、禁煙、アルコールの制限など、健康的な生活習慣を心がけることが推奨されます。

遺伝的要因や環境要因が関与している可能性はありますが、現時点では具体的なメカニズムは分かっていません。
定期的な検診と健康的な生活が、リスクを軽減するのに役立ちます。


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