監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)
中葉症候群の概要
中葉症候群とは、右肺にある中葉が閉塞して無気肺や慢性的な炎症を起こす病気です。1937年にBrockらによって初めて報告され、1948 年に Graham らが中葉症候群として
報告して、この概念が生まれました。
左の肺には左肺舌区という部分で中葉症候群と同じような病態を起こすこともあり、これを舌区症候群といいます。
肺は右側が上葉・中葉・下葉の3つ、左側が上葉・下葉の2つの肺葉にわかれています。中葉は、右肺の中央部分に位置しており、気道が細くなることで空気の出入りが妨げられ、息苦しさや咳などの症状が現れます。
この症候群は放置すると、肺の他の部分にも影響を与えることがあります。
症状が長引く場合には、早期に医療機関を受診することが推奨されます。治療を受けることで症状の悪化を防ぐことが期待できます。
中葉症候群の原因
中葉症候群の原因は多岐にわたります。
以前は、気管支周囲のリンパ節が腫脹して気管支を圧迫することで症状が現れると考えられていました。
しかし、その後の研究によって、中葉症候群はリンパ節の腫脹に関わらないことが明らかとなりました。気道の狭窄や肺の分泌物による閉塞、肺炎や感染症などによる気管支の拡張、結核や非結核性のリンパ節腫脹による中葉気管支の圧迫などによって起こるとされています。
さらに、喫煙習慣がある人では、気道炎症や粘液の増加が中葉の気管支の閉塞につながるため中葉症候群を発症しやすいです。
右の中葉が他の肺葉よりも無気肺や炎症を起こしやすい要因は、肺の中葉の気管支が鋭角に枝分かれしており分泌物が流れやすいことや、上下葉に囲まれており換気するスペースが狭いこと、発育が不十分であることなどが挙げられます。
慢性的な気道炎症や繰り返す感染症が、中葉の気管支を狭めてしまい、結果として中葉症候群を発症することもあります。
中葉症候群の前兆や初期症状について
中葉症候群の初期症状は、息苦しさや長引く咳、胸の違和感などが挙げられます。
息苦しさは、運動をしたときや横になったときに強く感じることがあります。咳は乾いた咳が続き、夜間に悪化しやすい傾向があります。これは、横になった際に気道に圧力がかかることで粘液の排出が難しくなり、呼吸しにくくなるためです。
胸の違和感は、炎症が進行することで炎症の刺激が胸部全体に広がるため起こります。
長期間の咳によって喉や気管が傷つき、さらに炎症が悪化する恐れもあります。早期に症状に気づき、適切な治療を受けることが症状の悪化を防ぐために大切です。
これらの症状が長期間続くと生活の質が低下し、日常生活に支障をきたすことがあります。夜間に咳が続くと十分な睡眠が取れなくなり、疲労が溜まることがあります。呼吸困難が日常生活に影響を及ぼすようであれば、速やかに医師に相談することが重要です。
中葉症候群の検査・診断
中葉症候群の主な検査は胸部レントゲン検査です。
肺の中葉部分に陰影や炎症がないかを確認します。胸部レントゲン検査は迅速かつ比較的簡単におこなえるため、初期診断として重要です。
詳細な情報を得るためにCT検査がおこなわれることもあります。肺の状態を立体的に観察できるため、中葉の閉塞や炎症の広がりをより細かく把握できます。
また、呼吸機能検査を実施することで、肺の働きを評価し、呼吸の障害の程度を確認します。
これらの検査結果を総合的に判断して中葉症候群を診断します。必要に応じて、血液検査や喀痰検査などで感染や炎症の程度を測定して、細菌やウイルスの有無を確認し、適切な抗生物質の選択に役立てることもあります。
さらに、治療が難しい場合や症状が繰り返される場合は気管支鏡検査をおこない気道の内部を観察します。気管の内腔を覆う繊毛に異常が疑われる場合は、気管支粘膜生検をおこなうこともあります。
中葉症候群の治療
中葉症候群の治療は、原因となっている症状や病気に対しておこないます。薬物療法として、去痰剤や抗生剤、気管支拡張薬などを投与します。必要に応じて、気管支鏡を使用して肺の洗浄がおこなわれることもあります。
これらの治療をおこなっても、症状の改善がみられなかったり、喀血や感染症を繰り返したりする場合は、中葉の切除を検討します。
喫煙によって気道の粘液分泌が増え、炎症を起こすことにより中葉症候群を発症する可能性があるため、禁煙の指導もします。また、呼吸リハビリテーションをおこなうこともあります。リハビリテーションの効果を高めるためには、日頃から深呼吸をおこなったり、理学療法士から指導された呼吸法を継続したりすることが大切です。
さらに、中葉症候群の治療には、生活習慣の改善も重要な要素で、栄養バランスの取れた食事を摂取して免疫力を向上させることなどが推奨されます。免疫力が高まることで、感染症の症状への抵抗力が強くなり、中葉症候群の予防につながる可能性があります。
適度な運動も血流を改善し、肺機能の維持に役立ちます。 特に、ウォーキングや軽いストレッチなど、日常生活に取り入れやすい運動を取り入れると良いでしょう。
中葉症候群の治療には、患者と医療従事者が協力して正しい治療計画を立てることが重要であり、定期的な経過観察による症状の悪化を防ぐことが不可欠です。
中葉症候群になりやすい人・予防の方法
中葉症候群になりやすい人には、慢性気道疾患を抱えている人や免疫力が低下している人が挙げられます。
また、小児や高齢者は気道が狭くなりやすく、さらに感染症にもかかりやすいため、注意が必要です。
さらに、禁煙が重要です。喫煙は気道に炎症を引き起こし、粘液の生成を増加させるため、禁煙することでリスクを減らせる可能性があります。
しかし、中葉症候群は肺の構造が原因のひとつであり、右中葉や左舌区の気管支がふさがりやすいことが関係しているため、確実に予防することは難しいといえます。気になる症状がある場合は、早めの受診を検討しましょう。
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