

監修医師:
前田 広太郎(医師)
肺分画症の概要
肺分画症は下気道の先天性疾患であり、肺実質の一部が正常な気道(気管支系)と連続しておらず、かつ通常とは異なる動脈系(主に大動脈系)から血流を受けている疾患です。これらの異常組織はガス交換機能を持たず、解剖学的にも機能的にも正常肺組織とは異なります。 肺分画症は肺葉内分画症と肺葉外分画症に分けられ、肺葉内分画症が多く、感染症の合併が起こりやすいとされます。出生後、無症状の場合もありますが、頻呼吸や呼吸困難といった症状が出現することがあります。胎児期の超音波検査やMRI検査で診断されますが、出生後もX線やCT検査などで精査を行います。治療は出生12ヶ月までの間に外科的切除を行うことが多いですが、リスクの低い場合は経過観察となることもあります。特に無症状例においての外科的介入の是非は議論のあるところで、各施設の経験やリソースによっても対応が異なるため、家族との十分な情報共有と意思決定が求められる疾患です。
肺分画症の原因
肺分画症は胎生初期の発生異常により形成されます。肺分画症は肺葉内分画症と肺葉外分画症と大きく2種類に分類されます。
肺葉内分画症(75%~90%)は正常肺葉の内部に存在し、左肺に多く、独自の臓側胸膜を持たず、正常肺との境界が不明瞭となります。肺実質や気管支、あるいは消化管と異常な交通を持つことがあり、これにより反復性肺炎などの感染症を引き起こすリスクが高くなります。多くは肺静脈からの血流が病変に流入しますが、奇静脈や下大静脈など他の血管からも血流が流入するものもあります。
肺葉外分画症(10~25%)は正常肺とは分離された部位に存在し、独自の臓側胸膜を持つため、正常肺との境界が明瞭です。肺下葉と横隔膜間の発症が77%と多いです。感染症の合併は少ないとされますが、まれに消化管や気道と交通がある場合は感染リスクが上昇します。異常血管は奇静脈や下大静脈など体循環系に還流するものが80%を占めます。
肺分画症には他の先天性異常が合併することがあります。特に肺葉外分画症では先天性横隔膜ヘルニア、椎骨異常、先天性心疾患、肺低形成、腸管重複、先天性肺気道奇形などを合併する頻度が高いです。
肺分画症の前兆や初期症状について
肺分画症の臨床症状は、型・大きさ・位置によって多様です。多くの肺分画症は胎児期の超音波検査により発見されます。いくつかの病変は胎内で自然に縮小しますが、増大して胎児水腫をきたすこともあります。
出生後早期~新生児期には無症状のこともありますが、場合によっては呼吸困難や頻呼吸といった呼吸器症状を呈します。特に大きな病変や水腫を伴う場合は、出生後すぐに症状が出現する可能性が高いです。乳児期~小児期では、特に肺葉内分画症の場合、反復する肺炎などの感染症で初めて診断されることもあります。感染を契機に嚢胞化が進行し、慢性的な呼吸器症状や合併症を引き起こす可能性があります。
肺分画症の検査・診断
出生前に胎児超音波スクリーニング検査で19~20週に診断されることが多いです。病変は20~26週で大きくなり、28週で最大となります。そのあと、週数とともに縮小します。胎児MRIを行う場合もあります。
出生後、肺分画症の存在が疑われる場合、胸部X線で評価をします。胎内で一見消失した病変であっても、完全に消失していない場合があります。肺葉内分画症ではX線にて側副換気による含気を認めますが、肺葉外分画症では含気のない腫瘤影を呈します。感染を合併している場合には嚢胞なども確認されることがあります。詳細な解剖学的評価と異常血管の評価には超音波検査、MRI、造影CTが有用です。異常血管は腹部大動脈から分岐することが多く、上腹部を含め検査を行います。
肺分画症の治療
肺分画症によって呼吸症状(呼吸困難、頻呼吸など)を呈する乳児では、手術的切除が第一選択となります。症状が強い場合は早急な手術が必要であり、新生児期でも適応されます。感染を伴う場合も切除が推奨されます。無症候の場合でも、以下の特徴を持つ場合は将来の合併症リスクが高いとされ、予防的に手術を行うことが推奨されます。1)病変が片側胸腔の20%以上を占める、2) 両側性または多発性嚢胞、3)気胸の既往、4)家族歴に胸膜肺芽腫関連疾患がある、といった特徴が挙げられます。無症状かつ上記の特徴を持たない場合、予防的手術か経過観察のいずれかをとりますが、施設によって方針が分かれることがあります。施設によっては、病変の大きさや特徴に関わらず、原則として全ての無症候性肺分画症に対して予防的な手術を行っているところもあります。手術は主に生後6~12ヶ月の間に施行されます。特に小さく嚢胞性でない肺葉外肺分画症については、経過観察を選択することもありますが、明確なガイドラインはないことから、症例ごとに判断が必要とされます。 予後としては、肺分画症の長期予後はおおむね良好であり、特に手術後は再発や長期合併症のリスクは極めて低いとされます。ただし、無症状患者の自然経過における合併症の頻度やリスク因子についてのデータは限られており、今後の研究が求められています。
肺分画症になりやすい人・予防の方法
下気道の先天性異常はまれで、10000~35000人に1件の割合ですが、肺分画症はそのうち0.15~6.4%程度とされ非常にまれです。肺葉内肺分画症は男女とも同程度の頻度で発症し、肺葉外肺分画症は3:1で男性が多いとされます。胎生期の5~17週に発生すると考えられておりますが、メカニズムもよく分かっていない発生異常であり、予防する方法は確立されていません。
参考文献
- 1)森 禎三郎, 他: 肺分画症の診断と治療. 小児外科 54巻 2号 pp. 134-138. 2022
- 2)照井 慶太, 辻 由貴: 胸部:縦郭腫瘍,CPAM,肺分画症. 周産期医学 54巻 13号 pp. 399-402. 2024
- 3)桑島 成子: 肺分画症と肺静脈還流異常. 画像診断 41巻 6号 pp. 550-554. 2021
- 4)Van Raemdonck D, et al: Pulmonary sequestration: a comparison between pediatric and adult patients. Eur J Cardiothorac Surg. 2001;19(4):388.
- 5)Correia-Pinto J, et al: Congenital lung lesions--underlying molecular mechanisms. Semin Pediatr Surg. 2010 Aug;19(3):171-9.
- 6)Up to date: Bronchopulmonary sequestration




